今回の選書

7つの危険な兆候 企業はこうして壊れていく(ポール・キャロル/著 チュンカ・ムイ/著 谷川漣/訳) 海と月社

7つの危険な兆候 企業はこうして壊れていく(ポール・キャロル/著 チュンカ・ムイ/著 谷川漣/訳) 海と月社

選書サマリー

企業の経営幹部たちは「失敗」という言葉を聞くだけで怖気をふるい、そこから学ぼうとしない。しかし、それでは次の「失敗」を回避することができない。

2007年から翌年にかけてのサブプライムローン危機は、これまでに幾度となくあった金融危機とよく似ている。企業は同じような誤りを繰り返しているのだ。

しかし、人命に関わる組織、たとえば病院や航空会社、軍隊などでは、重大な過ちが繰り返されないように、必ず事後の分析を行っている。

企業の経営者たちも、彼らを見習うべきだ。また、自らの経験だけでなく、他の経営者の経験からも学ぶ必要がある。そうすれば、失敗の多くは回避できるし、少なくとも損害を最小化できるはずだ。

失敗から得られる教訓を集めるために、私たちは広範な調査を行い、過去25年間に起きた企業の重大な失敗例を調べた。

ここでいう「失敗」とは「高額の投資を損失処理する」「利益の上がらない事業部門を閉じる」「破産申請を行う」といったことだ。

そうした失敗例2500以上の包括的なデータベースを作成し、さらに文献調査なども行い、その上でさまざまな形でふるいにかけ、最も重要な750例にまでリストを絞った。

こうして明らかになった失敗の規模は驚くべきものだった。1981年以降、資産5億ドル以上の米国企業のうち、423の会社が破産を申請しているのだ。

申請当時の資産の合計は、1兆5000億ドル、年間収益の合計は8300億ドルだ。何社かは、1度で懲りず破産を繰り返していた。彼らは過去に犯した過ちから何も学ばなかったといえる。

同じ25年間に米国の株式会社285社が処理した負債は、総額3800億ドルを超えている。廃止事業による損失は、67社で、ほぼ300億ドルにのぼる。

こうした破局は、なぜ引き起こされたのか? 巷にあふれるビジネス書は、すべて「経営実行の問題だ」としている。

経営者たちも「自分にできることは、計画を立てたら、あとはそれを他の経営者よりもうまく実行し、多少の幸運を願いながら、ひたすら前へ突き進むことだ」と言っている。

しかし、私たちの調査によれば、失敗の原因は、実行仕方の問題ではない。タイミングや運のせいでもない。大きな失敗の大半は、戦略のまずさからきているのだ。

これらの戦略は、はじまったが最後、いずれ失敗する運命にある。戦略を誤ってしまうと、たとえ完璧に経営実行しても防ぎようがないのだ。では、破綻に向かう戦略は避けられるものだろうか?

この問い答えるために、戦略が原因で失敗した例を何百と調べてみた。その結果、失敗例の46%は、企業が落とし穴に用心していれば避けられたことがわかった。

避けられたはずの失敗に注目すると、繰り返し現れるパターンが浮かび上がってくる。すなわち、複数の業界にわたる数々の失敗は、共通の原因のバリエーションなのだ。

そうした「失敗の型」を掘り下げると、失敗が7つの戦略のいずれかに関連していることがわかる。

具体的には「シナジー効果を狙う」「金融工学を駆使する」「業界の一部を連合させる」「従来路線に固執する」「隣接市場に参入する」「新たなテクノロジーを追及する」「統合に走る」のどれかだ。

もちろん、他の理由もあるし、これらの戦略がうまくいく場合もある。だが、調査の結果、これらの戦略に従うと、失敗の見込みが格段に高くなることがわかった。企業は、十分注意することが必要だ。

選書コメント

企業の失敗事例の研究から、失敗回避の方策を学びます。失敗の原因を掘り下げることで、同じ失敗を繰り返さない教訓を得ることができます。

我々は失敗から目をそむける傾向があります。どこかの会社が失敗すると、運が悪かった、時代が悪かった、経営者が悪かったなど、その会社に固有の要素に原因を求めようとしがちです。

そう考えることで「自分達には関係ない」と考えたいのかもしれません。しかし、多くの失敗には共通点があり、それを知っていけば、自分たちの失敗も避けられる、そう著者は言います。

素晴らしいのは、研究した症例の数です。なんと過去25年分、750件の失敗事例を徹底検証したと言います。さすがに、これだけの症例を分析したとなれば、精度は期待できます。

「このようなテーマは自分には関係ない」と感じる方もいるかもしれません。たしかに、事例はアメリカの企業が中心です。何より、億単位の戦略策定など、大半の人には縁がないはずです。

しかし、小さな決定は日々行っているはずです。仕事以外でも、決定する局面はあるはずです。そんな小さな決定にも、本書の教訓は必ず生きてきます。

もちろん、投資をする人は、どんな会社のどんな決定が失敗しやすいのか、知っておくことは大きな意味があります。新聞や経済誌の記事も、面白く読めるようになるはずです。

というわけで、仕事で意思決定に携わる方や株式投資をする方、そうした人たちにアドバイスをする立場にある人などはもちろん、広くビジネスパーソンにお勧めします。

選者紹介

藤井孝一

経営コンサルタント。週末起業フォーラム代表。株式会社アンテレクト代表取締役

1966年千葉県生まれ。株式会社アンテレクト代表取締役。経営者や起業家という枠にとどまらず、ビジネスパーソン全般の知識武装のお手伝いを行うべく、著作やメールマガジン、講演会、DVDなど数々の媒体を活用した情報発信を続けている。著書にベストセラーとなった『週末起業』(筑摩書房)はじめ、『かき氷の魔法』(幻冬舎)、『情報起業』(フォレスト出版)など。

この記事は藤井孝一氏が運営するビジネス書を読みこなすビジネスパーソンの情報サイト「ビジネス選書&サマリー」」の過去記事を抜粋し、適宜加筆・修正を行って転載しています。