今回の選書

営業部は今日で解散します。(村尾隆介) 大和書房

営業部は今日で解散します。(村尾隆介) 大和書房

選書サマリー

シンプルに考えると商売はたった3つの力で成り立っている。まず、絶対に欠かせないのが「売りものをつくる力」だ。会社を続けていくには、モノやサービスを売っていかなくてはならない。

もちろん、それだけではだめだ。2つ目の力は「管理する力」だ。商品やサービスのクオリティや、資金や在庫の管理、スタッフのモチベーションや経営者の健康管理など、管理するものは無数にある。

そして、3つ目に必要なのが「伝える力」だ。特に「売りものを売る力」「知ってもらう力」が重要だ。言い換えれば、会社としての伝達力、マーケティング力だ。

「一度、使ってくれさえすれば」と誰もが言う。だが、それが難しい。営業担当を増やさず、広告コストを抑えながら、いかに伝えたいことを伝えるか。会社としてのアイデアの見せどころだ。

ビジネスに必要なこの3つの力を、それぞれ10点満点として、現時点であなたの会社の力はそれぞれ何点だろうか?この3つを掛け算した答えが、今のあなたの会社の総合的な力だ。

そう考えると、この中に極端に低い数値が1つでもあれば、それだけで会社の力がガクンと下がってしまうことがわかるはずだ。

よく耳にする「1度でも使ってもらえれば」という会社やお店は、「商品はすごくいい、管理する能力はそこそこ、でも『売る』のと『伝える』のは大の苦手」という会社だ。

そういう会社やお店が実に多いのだ。つまり、点数でいえば、順番に「8点」「7点」「2点」という状態の商売だ。

当然のことだが「知られていないもの」は売れない。お客さまも、買いようがない。売れない理由の大半は「高いから」「安いから」ではなく「よく知られていないから」なのだ。

ここでは、3つの力の中で、特に「売りものを売る力」、とりわけ「広げる力」にフォーカスしたい。しかも「なるべくお金をかけずに」実現することを目指したい。

夢のような話と思われるかもしれないが、少し街を観察すれば「お金をかけずに、アイデアで広げる」という各社の努力は、あらゆるところに見受けられる。

たとえば、大分空港の手荷物受取所には、いつも歓声が沸いている。手荷物受取のベルトコンベアの上では、スーツケースと同じ大きさの「にぎり寿司」のディスプレイが回っているのだ。

その姿は、まさに回転寿司そのものだ。これは、大分空港が自治体と一緒に、地元の海産物をアピールするために作った一種の広告なのだ。

そこで乗客が一斉に取り出すのが、携帯電話だ。そのユニークなアイデアを写真に収めるためだ。

これにより、空港の「大分に来たら、お寿司を食べてね」というメッセージは、当人だけでなく、ツイッターやブログ、フェイスブックを通じて、友人や職場の同僚にも一気に広がるわけだ。

これが、お金をかけずにアイデアで広げるテクニックだ。一生のうち、1回でも大分に来るかどうかわからない人のために莫大なお金をかけて広告を出すよりも、ずっと効果的だ。

大分空港の例でもわかる通り「広げる技術」はアイデア次第でいろいろなやり方が考えられる。他にも、気を付けて街を歩けば、様々な工夫を目にするはずだ。

なお「広げるアイデア」を考える際、一番大切なことは、売り手自身が「心から楽しみながら、アイデアを練っていくこと」だ。参加者全員が、楽しんだ会議から生まれる商品は必ずヒットするものだ。

営業部がなくてもやっていける。それくらい、強烈なアイデアを発想して、あなたの会社の商品やサービスを、世の中にどんどん広げてもらいたい。

選書コメント

小さな会社のマーケティングの本です。自社の商品やサービスを、お金をかけず、口コミやソーシャルメディア、パブリシティなどを通して広めていくアイデアをたくさん紹介します。

著者の村尾さんは、小さな会社のブランド戦略を手掛けるコンサルタントです。ご自身が起業した会社で実践し、成功したノウハウを、小さな会社やお店に提供されています。

本書は、まず奇抜なタイトルに意表を突かれます。真意は「マーケティングをしっかりやれば、営業部などいらなくなるくらい効果がある」ということです。

まさに、このネーミングからして「広がる」ことの仕掛けになっています。現に、私自身、頼まれもしないのに、こうして皆さんに紹介していることに気づきました。

「良い商品やサービスを持っているのに売れない」という企業は、たくさんありますが、その理由はお客様に知られていないからです。お金を遣わず知ってもらうには、頭を使うしかありません。

書籍では、企業が商品やサービスを広げるユニークなアイデアを、世界中の事例や著者自身のノウハウの中から、これでもかというくらい紹介してくれます。

一見、ばかばかしいようなものもありますが、大人が真面目に知恵を絞ったアイデアです。自社の商品やサービスを広げる方法を発想するのに使えます。もちろん、単に話のネタとしても楽しめます

経営者や商品開発、PR、営業などマーケティングの担当者、つまり、会社や商品とお客様との橋渡しになる仕事をする方々にお勧めします。

選者紹介

藤井孝一

経営コンサルタント。週末起業フォーラム代表。株式会社アンテレクト代表取締役

1966年千葉県生まれ。株式会社アンテレクト代表取締役。経営者や起業家という枠にとどまらず、ビジネスパーソン全般の知識武装のお手伝いを行うべく、著作やメールマガジン、講演会、DVDなど数々の媒体を活用した情報発信を続けている。著書にベストセラーとなった『週末起業』(筑摩書房)はじめ、『かき氷の魔法』(幻冬舎)、『情報起業』(フォレスト出版)など。

この記事は藤井孝一氏が運営するビジネス書を読みこなすビジネスパーソンの情報サイト「ビジネス選書&サマリー」」の過去記事を抜粋し、適宜加筆・修正を行って転載しています。