今回の選書

訣別 大前研一の新・国家戦略論(大前研一) 朝日新聞出版

訣別 大前研一の新・国家戦略論(大前研一) 朝日新聞出版

選書サマリー

バカな政府を持つと高くつく。過去の延長線でしか考えない官僚と、政局しか頭にない政治家に任せておけば、日本は衰退の一途だ。バカな政府を作ったのは国民だ。結局、自分達で変えるしかないのだ。

過去に成功した「ニッポン・モデル」はすっかり陳腐化し、硬直化している。いまこそ、ゼロベースの大改革を断行し、新しい日本を作るときだ。

悪政のツケは、国民の血や財産であがうことになる。それを浮き彫りにしたのが、今回の原発事故だ。最終補償はどこまで膨らむかわからないが、最後は国が賠償を肩代わりすることになるはずだ。

また、避難指示、出荷制限、浜岡原発の停止など、政府の場当たり的な対応が、補償額を膨れ上がらせている。いずれも政府の無能に起因するものだが、そのツケを払うのは、最終的には納税者だ。

バカな政府を持つと恥をかく。震災では日本人の冷静さや結束力は世界から賞賛を受けた。しかし、原発事故に対する政府・東電のもたつき、情報公開の遅れで、称賛の声は疑念や不審変わった。

情報を小出しにして事態を過小評価しているかのようなアナウンスを続ける日本政府をよそに、西欧諸国は早くから日本在住の自国民に対して独自の対応をしていた。

消防士や作業員を平気で被ばくさせる先進国とは思えない、稚拙な対応は、日本政府の危機能力の低さを世界にさらした。汚染水を海に投棄するに及び、海外の論調は同情から怒りと侮蔑に変わった。

気が付けば、細川政権以降の20年間、日本はまともな政府を持ったことがない。国民に負担をかけ、恥をかかせるような無能な政権ばかりが続いてきた。

政権交代で多くの国民は選挙で政治が変わる感触を得たはずだ。ところが、民主党政権になっても何も変わらない。それどころか、外交を破壊し、バラマキで国の借金を膨らませてしまった。

結局、首相の首を挿げ替えても、政権をたらいまわしにしても、日本の状況は変わらない。自分たちで変えていくしかないのだ。

日本人は、追い込まれれば強い。石油ショックの時も、円高不況の時も、追い込まれたからこそ、自分を変え、時代を切り開くことができた。

結局、人は危機感がなければ変わらないのだ。「路頭に迷うかもしれない」「血が流れるかもしれない」という恐怖に直面しなければ、危機感は生まれない。それがなければ、人はぜったいに変われない。

今回の震災は日本人の危機感を呼び覚ます可能性が高い。震災がきっかけで、自ら変わることができるかもしれない。

それでも自分から変われないなら、あとは外圧だ。たとえば、黒船が来航した幕末、幕府は開国と戦争の危機感の中、若くて優秀な人材を必死で集めた。彼らが維新後に活躍したから近代化できたのだ。

戦後は占領軍とマッカーサーだ。ここで教育の自由化、財閥解体などを行い、一気に民主化した。その結果、若い人材が多数輩出し、彼らが、奇跡的な戦後復興と高度成長の主役になった。

今、緩みきった日本のタガを締め上げてくれる外圧の可能性がある。たとえば、日本国債が暴落して日本発の世界恐慌が懸念される事態になれば、IMFが占領軍として乗り込んでくるかも知れない。

また、原発事故で「原子炉は国際管理すべし」という議論になっている。今後、IAEAなどの国際機関が原発占領軍として乗り込んでくる可能性がある。それを、日本人がどう受け止めるかだ。

日本は、バブル崩壊から未だに自力で抜け出せずにいる。このまま危機感を持てず、変革ができなければ、日本は「世紀末に反映した極東アジアの小国」として世界に記憶される存在に落ちぶれる。

今回の震災をきっかけに、日本人が危機意識を取り戻し、気力を奮い立たせ、自ら変わるべきだ。それができれば、震災復興を日本の復興につなげることが絶対できるはずだ。

選書コメント

ご存知、経営コンサルタント大前研一さんの国家論です。以前、大ベストセラーとなった『平成維新』以来、久しぶりの本格的な国家論になっています。

現在の日本の混迷とその原因、大国や新興国の動きを含めた世界の趨勢、それに対して日本がとるべき対応策をビジョンとして鮮やかに示します。

最終章に描かれる提言は『平成維新』の時と基本的に変わりません。ただ、震災や原発事故など、当時想定できなかったことを盛り込んで、最新版として調整されています。

特に、ご自身の専門分野の一つでもある、原発事故に対する政府や東電の対応に対する言及は鋭く、圧倒的に説得力のある内容になっています。

大前さんの本の魅力は、現状分析や批判にとどまらず、必ず実行可能な提言がついているところです。本来、これがなければ、ただの愚痴や妄想ですが、そんな本が書店には溢れています。

本書が描く国家ビジョンは、今となっては政治家や官僚からさえも聞かれなくなった壮大なビジョンです。これが独特の筆致で語られますので、一気に読むことができ、納得できます。

大前さんは、私たちの世代にとってはカリスマ的な存在です。現在、活躍するコンサルタントの多くが、彼に憧れてあこがれてその道を選んでいるはずです。

しかし、若い人たちの中には、知らない人も増えているようです。日本にもこのような論客がいることを知るためにも、ぜひ読んでください。もちろん、日本の未来を考えたいすべての人にお勧めです。

選者紹介

藤井孝一

経営コンサルタント。週末起業フォーラム代表。株式会社アンテレクト代表取締役

1966年千葉県生まれ。株式会社アンテレクト代表取締役。経営者や起業家という枠にとどまらず、ビジネスパーソン全般の知識武装のお手伝いを行うべく、著作やメールマガジン、講演会、DVDなど数々の媒体を活用した情報発信を続けている。著書にベストセラーとなった『週末起業』(筑摩書房)はじめ、『かき氷の魔法』(幻冬舎)、『情報起業』(フォレスト出版)など。

この記事は藤井孝一氏が運営するビジネス書を読みこなすビジネスパーソンの情報サイト「ビジネス選書&サマリー」」の過去記事を抜粋し、適宜加筆・修正を行って転載しています。