今回の選書

僕は君たちに武器を配りたい(瀧本哲史) 講談社

僕は君たちに武器を配りたい(瀧本哲史) 講談社

選書サマリー

高度に発達した資本主義のもと、世界中の先進国で、高学歴・高スキルの人材がニートやワーキングプアになってしまう潮流が押し寄せている。

それは、かつて高収入を得られた付加価値の高い職業が、もはや付加価値のない職業へと変わりつつあることに起因している。

これまでは、知識をたくさん頭脳につめこんで専門家になれば、良い会社に入れて、良い生活を送ることが可能となった。それで一生が安泰に過ごせた。そのストーリーが、世界規模で崩れている。

ところが、最近の日本では、相変わらず「勉強して努力をすれば、必ず幸せになれる」という考え方が、あらゆるメディアを通じて流布されている。

書店には自己啓発書が山と積まれ、ベストセラーの上位を「勉強本」が占めている。また「朝活」などと称して、会社が始まる前にサラリーマンが集まり、読書会や勉強会を開いている。

しかし、そうした「努力神話」を信じ、英語やITや会計を勉強して、実際に年収が増えた人は、ほとんどいない。

そうした勉強をする人が多すぎて、会計士や税理士などは「人余り」の状況になっている。それは医者や弁護士も同じだ。つまり、勉強、すなわち努力と収入は比例しないのだ。

ここで「コモディティ」という概念を紹介したい。これは、せっけんや歯磨き粉など「日用品」を指す英語だが、経営学や経済学では「スペックが明確に定義できるもの」を意味する。

材質や重さなど、数値や言葉ではっきりと定義できるものは、すべてコモディティだ。つまり個性のないものはすべて「コモディティ」なのだ。

どんなに優れた商品でも、スペックが明確に定義できて、同じ商品を売る複数の供給者がいるものは、すべてコモディティということになってしまうのだ。

ここで強調しておきたいことは「コモディティ化するのは商品だけではない」ということだ。労働市場における人材の評価においても、同じことが起きているのだ。

これまでの「人材マーケット」では、資格やTOEICの点数といった客観的に数値で測定できる指標が重視されてきた。だが、そうした数値は、極端にいえば工業製品のスペックと変わらない。

同じ数値なら、企業側は安いほうを採用するはずだ。つまり、資格やTOEICの点数で自分を差別化しようとすることは「安さが売り」の人材になることなのだ。

実際、グローバル市場では「いかに人を買い叩くか」という競争が行われている。これからの時代は「いかにコモディティにならないか」が重要なのだ。

コモディティ化の潮流から逃れられるときに、人より勉強するとか、スキルや資格を身につけるといった努力は意味がない。ポイントは「スペシャリティ」になることだ。

「スペシャリティ」とは、専門性、特殊性、特色などを意味する英語だ。「他の人には代えられない、唯一の人物や仕事」のことだ。これは「コモディティ」の正反対の概念といえる。

スペシャリティになるためには、まず従来の枠組みの中で努力することを辞め、まず資本主義の仕組みをよく理解し、どんな要素がコモディティとスペシャリティを分けるのかを熟知することだ。

その理解がなければ、どれだけハイスペックなモノとサービスを生産していても、コモディティの枠に入れられてしまう。これでは、一生低い賃金に留まることになる。

しかし、今の日本の就職・転職市場を見ると、そのことを理解している人はほとんどいないようだ。語学や資格の勉強に精力を傾けている。それは、現在の世の中では意味がないことを知るべきだ。

選書コメント

本書は、新しい時代の働き方を提案する本です。経済がグローバル化し、ビジネスの環境が大きく変わりつつあります。求められる人材の基準も大きく変わりつつあります。

それなのに、若者たちは、相変わらず英語や資格など、旧来型の勉強で、人生を切り拓こうとしています。しかし、それでは買いたたかれる人材一直線です。

著者は、京大の人気教官、瀧本哲史さんです。元マッキンゼー&カンパニーのコンサルタントで、今では企業再生やエンジェル投資家の活動をしながら、教壇に立たれています。

最初は、奇抜なタイトルと派手な装丁に面食らいました。しかし、内容は極めてまともで、しかも具体的、体系的に書かれています。図解などは一切なく、びっしり熱いメッセージで綴られます。

提案は、きわめて実践的です。たとえば、企業から買いたたかれず、主体的に稼げる働き方のモデルとして、マーケター、イノベータ─、リーダー、インベスターの4つを紹介します。

そして、こうした働き方がどういうもので、どうすれば自分のものにできるのかを、一つ一つ事例を交えつつ、詳しく、わかりやすく教えてくれます。

さらに、伸びる会社、ブラック企業など、会社の見極め方や、どんな会社を選ぶべきか、そして会社とどう付き合うべきかなどを、働く側の立場から教えてくれます。

読後感は、情熱的な講演を聞き終えた後のようです。就職を控えた学生や、転職検討中の方、努力はしてきたが手ごたえが感じられず、かといって、何をしたらいいのかが分からない方にお勧めします。

選者紹介

藤井孝一

経営コンサルタント。週末起業フォーラム代表。株式会社アンテレクト代表取締役

1966年千葉県生まれ。株式会社アンテレクト代表取締役。経営者や起業家という枠にとどまらず、ビジネスパーソン全般の知識武装のお手伝いを行うべく、著作やメールマガジン、講演会、DVDなど数々の媒体を活用した情報発信を続けている。著書にベストセラーとなった『週末起業』(筑摩書房)はじめ、『かき氷の魔法』(幻冬舎)、『情報起業』(フォレスト出版)など。

この記事は藤井孝一氏が運営するビジネス書を読みこなすビジネスパーソンの情報サイト「ビジネス選書&サマリー」」の過去記事を抜粋し、適宜加筆・修正を行って転載しています。