今回の選書

「ご機嫌な職場」(酒井穣) 東洋経済新報社

「ご機嫌な職場」(酒井穣) 東洋経済新報社

選書サマリー

「どうせ仕事をするなら、明るい職場がいい」この考えは間違いだ。明るい職場は「どうせなら」という小さなレベルではなく、重要な経営課題になったのだ。

明るい職場づくりを考えることは、企業の収益を改善するための戦略を考えることだ。明るい職場は、企業の収益と密接に結びついているのだ。

近年、明るい職場づくりの解決策がたくさんのメディアを賑わせた。ところが、いまだに多くの職場が、同じ問題に悩んでいる。むしろ、悪化の一途をたどっているようだ。

残念ながら、これらの解決策は、問題の根本的な原因の特定に失敗しているのだ。同時に、この問題はマクロでは解決することはできないことを知るべきだ。

実際には、例外的にではあるが「明るい職場」が存在する。この少数派に入れるかどうかが、企業としての存続にすら関わる重大な課題なのだ。

職場は、人間が「学習」するコミュニティーだ。従業員の学習効率を高めるという視点から、職場コミュニティーの開発を考えていくことが大切だ。

職場に限定しなくても、社外での勉強会や、地域のボランティア活動など、コミュニティーには様々な形態が存在する。インターネット登場以降は、物理的距離の枠を超えたコミュニティーも出現した。

それでも、職場コミュニティーを重視するのは、学習促進システムとしての職場コミュニティーが、猛烈な速度で弱体化しつつあるからだ。崩壊の危機にあると言ってもいい。

たとえば、最近は、職場におけるOJTの力が弱まっている。それは、職場コミュニティーが弱体化したからだ。

職場コミュニティー開発に、今すぐ、具体的な施策を打たなければ、私たちの職場が抱えている「ギスギスした人間関係」は、ますます悪化する。ついには、組織そのものが機能しなくなる恐れがある。

コミュニティー開発の中心的課題は、広い意味での「コミュニケーションの活性化」だ。まず、職場におけるコミュニケーションの特徴と構造を考えてみたい。

職場には、二つのコミュニケーションがある。1つは、仕事上の目的を達成するための「道具としてのコミュニケーション」いわば、「公式コミュニケーション」だ。

もう1つは、職場における何気ない会話や、飲み会などで交わされる人間関係維持のための会話だ。いわば「目的としてのコミュニケーション」すなわち「非公式コミュニケーション」だ。

「非公式コミュニケーション」は、職場では「くだらない雑談」とみなされがちだ。しかし、その重要性が様々に指摘されている。職場の人間関係こそが、従業員のモチベーションに影響するのだ。

平成19年版の『国民生活白書』では、日本の職場において「心の病」が増加傾向にあるとした職場が6割を超える。この数字は、2002年から計測のたびに増えている。

「心の病」は「職場でのコミュニケーションが減少」している職場や「職場での助け合いが減少」している職場で、特に多く見られることがわかっている。

ここで「減っている」と指摘されるコミュニケーションは、仕事上の「公式コミュニケーション」ではない。何気ない会話や懇親会など「非公式コミュニケーション」のことだ。

今ほど職場における非公式コミュニケーションが求められている時代はない。人が職場に求めているのは、生活のための賃金よりも、むしろ「自分の居場所」なのだ。

職場の人から「君と一緒にいると、楽しい」と直接・間接に言ってもらえる必要がある。これこそが、心の健康状態にとって、もっとも重要なことなのだ。

選書コメント

明るい職場づくりは、経営の重要課題である─そんな信念から、職場を明るくする意義と、その具体的な方法について、わかりやすく教えてくれます。

著者は、フリービットという会社で人事部門を担当しながら、組織開発に関して、著書や講演、NPO活動などを通して様々な提言をされる酒井譲さんです。

タイトルからもわかる通り、本書は、数年前に発刊され、大ベストセラーになった『不機嫌な職場』を意識しています。酒井さんは、この本は、問題の特定と解決に失敗しているといいます。

確かに、最近あまり話題にもなりませんが、相変わらず職場の雰囲気は悪くなっているようです。メディアなどが取り上げないのは、すでに常態化してしまったからかもしれません。

メンタルを患う人も減っていないようです。それでも、打開策は打ち出せていません。結局、ネットの普及によるコミュニケーション不足や若い社員の意識の変化のせいにして、諦めている感じです。

これに対し、著者は決して諦めたり、後回しにすべきでない重要な課題だといいます。そして、各種データから、原因の特定を行い、その上で、具体的な解決策を提示してくれます。

たとえば、飲み会や勉強会、研修などのアイデアややり方です。いずれも、お金がかかったり、難しかったりするものではありません。現場の判断で、すぐにでも取り組める簡単なものばかりです。

社員のモチベーション不足、コミュニケーション不足に悩む経営者や管理職、ギスギスした職場で働く人、明るい職場を取り戻したいと考える人に、ぜひおすすめします。

選者紹介

藤井孝一

経営コンサルタント。週末起業フォーラム代表。株式会社アンテレクト代表取締役

1966年千葉県生まれ。株式会社アンテレクト代表取締役。経営者や起業家という枠にとどまらず、ビジネスパーソン全般の知識武装のお手伝いを行うべく、著作やメールマガジン、講演会、DVDなど数々の媒体を活用した情報発信を続けている。著書にベストセラーとなった『週末起業』(筑摩書房)はじめ、『かき氷の魔法』(幻冬舎)、『情報起業』(フォレスト出版)など。

この記事は藤井孝一氏が運営するビジネス書を読みこなすビジネスパーソンの情報サイト「ビジネス選書&サマリー」」の過去記事を抜粋し、適宜加筆・修正を行って転載しています。