今回の選書

「人が「つながる」マネジメント」(高橋克徳) 中経出版

「人が「つながる」マネジメント」(高橋克徳) 中経出版

選書サマリー

「マネジャーが育っていない」「マネジャーが機能していない」という声を多くの企業から聞く。経営者の問題意識が人事部に向き、マネジャー教育見直しの動きも高まっている。

経営者から人事部に「マネジャーの教育をきちんとやれ」「マネジャーの責任を明確にして、彼らが引っ張れるような仕組みを作れ」といった指示が飛ぶ。

ところが、研修をやろうにも、現場から「そんな時間はない」「余裕もない」という声があがる。成果を上げることが最優先される中、余計なことはできないというのだ。

それはマネジャーだけではない。社員も同じだ。みんな目の前の仕事に追われていて余裕がないのだ。人がどんどん減らされる中、一人ひとりが、自分の仕事を閉じこもってやらざるを得ないのだ。

しかも、仕事が細分化されている。領域ごとに、難易度がかなり高くなっている。マネジャーは、部下がやっていることすべてを理解し、管理することが、とてもできなくなってしまった。

お互いが関わり合えない、協力し合えない人も増えている。若手も、中堅も、管理職さえも成長意欲が低く、当事者意識をもって変革に取り組もうとしない。疲弊感、停滞感、あきらめ感が漂っている。

実際、こういう組織が増えている。組織がこういう状態になってしまったのは「マネジャーがだらしないからだ」と言う人が少なくない。

しかし、これはマネジャーだけの責任ではない。経営陣が、マネジャーが力を発揮するうえで必要な支援が、しっかりできていないという現状もあるのだ。 今、人と組織のマネジメントが悪循環に陥っている。多くの人たちが自己否定感や無力感を持っている。その結果、彼らは自分が否定されないように「自分を守るための行動」をとるようになる。

「余計なことはしない」「急な頼まれごとは受けない」そういう行動になるのだ。同時に、お互いの仕事の中身がよく見えないから、誰が何をやっているのかわからない。

だから、相互不信に陥るのだ。たとえば、評価された人や、急に登用された人がいると「なぜ、あいつだけ?」となる。次に「俺は、出世競争から遅れたんだ」と否定感や無力感に襲われることになる。

こういう悪循環にはまると、一人ひとりが防衛的な行動をとったり、お互いがやっていることを認め合えなくなる。その結果、一緒に何かを作る「共創」や「協力」が生まれにくくなる。

本来、マネジメントというのは、人が一緒に働くことで、より高い成果を生み出していくメカニズムを作ることだ。そのために人と組織の良い循環を作ることがマネジメントの目指すところなのだ。

90年代前半の構造変化が始まるまでは、良い循環が存在していた。「成長・拡大」という一つの目標に向かって、社員全体で取り組んでいるという感覚を持てたのだ。

そこでは、本来の仕事だけでなく、さまざまなイベントを通じて、共同体として、みんなで力を合わせていた。「同じものを作るのだ」「同じ目標を達成するのだ」という意識も共有できた。

かつては、一人ひとりが目の前の役割を果たし、周囲の人と協力すれば、会社は成長し、自分も昇格し、給与も上がった。だから、ますます会社の成長に向けて「がんばろう」という意識を持てた。

その結果、会社の成長が、自分の生活の豊かさと、働く意欲の向上にダイレクトに結びつくという好循環が生まれた。

だが、最近は、そうした意識が持ちにくくなっている。だから今、組織に必要なのは、この良いサイクルを復活させることだ。

もちろん、旧い時代に逆戻りすればいいのではない。今の時代に合ったサイクルを作り直すことこそが求められている。ここで決め手になるのが、人が「つながる」マネジメントなのだ。

選書コメント

本書は、マネジメントの本です。新しいマネジメントのあり方を紹介し、具体的に解説します。著者は、ベストセラー『不機嫌な職場』の著者、高橋克徳さんです。

ビジネス環境が激変し、そこで働くビジネスパーソンの働き方が急速に変化を求められています。これを受け、新しい働き方を模索する本が、ここのところたくさん刊行されています。

社員の働き方が変われば、当然マネジメントのあり方も変わります。そこで、著者は「つながるマネジメント」という発想から、新しいマネジメントの姿を紹介していきます。

仕事が複雑化、高度化する中で、マネジメントは、ますます難しくなっています。

かつてマネジャーというと、経験や人脈を武器に、部門間のコミュニケーションを図ったり、部下の業績管理、育成などをする人たちでした。彼らは現場は部下に任せ、マネジメントに専念できました。

しかし、このような旧来型のやり方はできなくなっています。過去の経験や人脈は使えないですし、何よりマネジャー自身も数字を持たされているのが実情です。

本書で紹介するマネジメントは、このような厳しい環境で機能するマネジメントです。加えて、権限が限られているマネジャーから起こす組織改革も提言します。

新米、ベテラン問わず、すべてのマネジャーさん、そしてこれからマネージャになる若い方、さらに、マネジャーを動かす経営者や幹部の皆さんなど、組織で働くすべての人に一読をお勧めします。

選者紹介

藤井孝一

経営コンサルタント。週末起業フォーラム代表。株式会社アンテレクト代表取締役

1966年千葉県生まれ。株式会社アンテレクト代表取締役。経営者や起業家という枠にとどまらず、ビジネスパーソン全般の知識武装のお手伝いを行うべく、著作やメールマガジン、講演会、DVDなど数々の媒体を活用した情報発信を続けている。著書にベストセラーとなった『週末起業』(筑摩書房)はじめ、『かき氷の魔法』(幻冬舎)、『情報起業』(フォレスト出版)など。

この記事は藤井孝一氏が運営するビジネス書を読みこなすビジネスパーソンの情報サイト「ビジネス選書&サマリー」」の過去記事を抜粋し、適宜加筆・修正を行って転載しています。