今回の選書

「人たらしの流儀」(佐藤優) PHP研究所

「人たらしの流儀」(佐藤優)PHP研究所

選書サマリー

今、誰もがビジネス社会で生き残るために、自らの能力を高めようと必死に知識武装している。だが、知識より大切なのは、対人関係だ。自己能力は、対人関係の中でしか養えないのだ。

対人関係を広げつつ、インテリジェンス能力を高めることで、ビジネス社会を生き抜く力を強化することが、生き残りのためにすべきことなのだ。

インテリジェンスは、インフォメーションとは違う。インフォメーションはただの情報だが、インテリジェンスは、インフォメーションを取捨選択し、それをどう見るか評価された情報だ。

たとえるなら、新聞紙の束の状態はインフォメーションだが、新聞記事の中に付箋やラインマーカーでチェックが入っている状態は、インテリジェンスといえる。

インテリジェンスは「地頭」と言い換えてもいい。知識が山ほどあっても、それを生き残りのための商売に使わなければ意味がない。インテリジェンスの評価は、常に結果が全てなのだ。

インテリジェンス能力を鍛えるには、嘘をつかないことだ。発話自体に嘘が混じり、誠実性が疑われると論戦にならない。国会や世間、論壇などの議論は、嘘がないことを建前に行われている。

諜報社会のような裏の世界で生きる人たちも、プロの間では嘘をつかないという掟があり、意外と守られている。嘘をつかないために、日ごろから嘘をつかずに仕事や生活をすることを心がけるべきだ。

正しい情報を取るには、2つのルールがある。まず、その情報源の人物が、こちらの知りたいことを、知ることができる立場にある人物か否かだ。

次に、その情報源の人物は真実をこちらに教えてくれるかどうかだ。人間は誰しも、自分の考えていることを他人に聞いてもらいたい願望がある。真面目な人間ほど、その願望は強い。

正しい情報を取るには、相手の願望・欲望に付け入ることだ。人の話を聞く行為は、大切なインテリジェンスのひとつなのだ。相手にわたす情報がなければ、とにかく聞き上手になることだ。

人間関係の構築には、まずはランチだ。ランチは、仕事の合間の食事だから、昼食といえども仕事になる。それに対して、ディナーは仕事が終わったあとだから、プライベートになってしまう。

食事をする際に、会食が見られて困る場合は、個室を用意する。そうでないときは、基本的にオープンスペースでOKだ。

注文は、コースの値段の上から二番目を頼むことだ。一番上だと、相手が値段を気にするからだ。次回は相手を大切にしているという意思表示で、一番上のコースを頼めばよい。

肝心の会話は、相手の言うことをよく聞くことだ。相手が話さない場合は、こちらからバカ話をすればいい。そのために、相手が興味を持ちそうな話題を準備しておくべきだ。小説を読んでおくといい。

そして、会計は最初に支払っておくことだ。どちらが払うかでもめないように、最初に店員にお金を預けておき、最後におつりだけもらうように準備をしておくのだ。

2回目のランチに誘うには、最初のランチで相手から何かを借りておくことだ。私は要人と会うと、資料などを借りる。返すためにもう一度会えるからだ。大切なのは、貸し借りができる関係だ。

また、相手から有益な情報を得るには、何か与えることだ。人間は、奢られると奢り返さなければいけないという心理が働くものだ。

しかし、与えすぎると相手はお返しができなくなり、両者の間に、上下関係ができてしまう。だから、何かを得るには、いかに与えるかが重要なのだ。

時間も大切だ。三か月以内に三度会えば、その後三年間、相手は自分のことを覚えている。その三年の間に、相手との共存共栄の体制をつくり上げることができれば、相手との関係は盤石になるはずだ。

選書コメント

対人関係力の鍛え方を教える本です。ビジネスの世界で活躍するには「人たらし」であること、すなわち対人関係力が重要であり、それを鍛えるにはどうしたらいいのかを教えてくれます。

著者は、外務省の対ロシア外交で活躍し『国家の罠』などの著作もある佐藤優さんです。国際社会で修羅場をくぐってきた方の弁だけに迫力があります。

対人関係力が、主要なテーマではありますが、それがすべてではありません。対人関係を皮切りにして、ビジネス力全般を磨く方法を教えてくれます。

自分を成長させてくれるものには、セミナーや本など色々あります。しかし、一番は、やはり人との出会いであり、彼らとの交流であると、私も感じています。

だからといって、むやみやたらと交流会などに出向き、名刺をばらまいたり、実力のある人に取り入ろうとすればいいというものでもありません。

大切なことは、数でも、相手の力でもありません。なれ合いのような関係も時間の無駄です。大切なことは、意識や価値観の違う人と、きちんと仕事をして、信頼関係を深めることです。

この信頼関係作りは、一朝一夕にはいかず、難しいのですが、本書にはその勘所が書いてあります。インタビュー形式なので、スラスラと読めますが、学べることがたくさんあります。

ビジネスの社会は厳しさを増しています。そこで生き残るために、本当に役立つ力を身に着けたいと考えるビジネスパーソンは、本書を読まれることをお勧めします。

選者紹介

藤井孝一

経営コンサルタント。週末起業フォーラム代表。株式会社アンテレクト代表取締役

1966年千葉県生まれ。株式会社アンテレクト代表取締役。経営者や起業家という枠にとどまらず、ビジネスパーソン全般の知識武装のお手伝いを行うべく、著作やメールマガジン、講演会、DVDなど数々の媒体を活用した情報発信を続けている。著書にベストセラーとなった『週末起業』(筑摩書房)はじめ、『かき氷の魔法』(幻冬舎)、『情報起業』(フォレスト出版)など。

この記事は藤井孝一氏が運営するビジネス書を読みこなすビジネスパーソンの情報サイト「ビジネス選書&サマリー」」の過去記事を抜粋し、適宜加筆・修正を行って転載しています。