開示請求において「検出可能」とみなされる対象とは

IT組織は、eディスカバリ(電子証拠開示)での検索や、電子情報公開請求などの情報照会への対応においてさまざまな点を考慮しなければなりません。先日、あるお客様からバラクーダネットワークスに寄せられた質問は、この課題を新たな側面から考えるきっかけになりました。

この問い合わせに最初は驚いたのですが、詳しく調べてみると納得できる内容であり、IT部門と法務部門が協力して対処すべき問題であることがわかりました。

ESIとは何か

ESIとは、法曹界でよく使用される用語であり、Electronically Stored Informationの略です。これは、単に「電子的に検索可能な情報」を意味するわけではなく、この点が重要なのです。

ほとんどの法務プロセスは、紙の書類が中心でした。これが、「ディスカバリ(開示)」という言葉が使用された理由でもあります。その後、電子情報開示の増大を背景に、2006年、電子情報の取り扱いに関して連邦民事訴訟規則(FRCP)が改正され、eディスカバリに関する規定が整備されました。この数年前、英国の裁判所はすでに電子情報開示の取り扱いに関する規定を整備していますが、現在の法曹界では、「ESIは、電子的な手段で保管されるあらゆるものを含む」という定義が一般的です。

ESIの重要な特徴は、「何をどのような方法で保管するか」といった詳細な内容について理解している人が誰もいない、という点です。実際、ESIに関する法律、法令、法規では、データの「保管」について規定されていますが、保管手段についてはデータの所有者、つまりIT組織に委ねられています。

保存されているデータは開示可能

裁判所は、証拠を不可侵なものとみなします。生成された状態を維持する必要があり、破損や改ざんは許されません。

電子的に保存された情報については、法的効力のある形式をレコードに限定しようとする試みもありましたが、裁判では受け入れられず、現在では録画からスマートフォンに電子的に保存されているデータまで幅広い範囲に拡大しています。基本的に、デバイスに情報を保存できるのであれば、その情報がESIだとみなされます。

ここで問題になるのは、開示作業です。デバイスに情報が保存されているからといって、その情報を簡単に検索、開示できるとは限りませんし、不可能な場合もあります。たとえば古いバックアップテープの場合、一部のフォーマットは現在のマシンで読み取ることができません。

この問題への対策として、裁判所は「比例原則」を適用しています。これは、電子情報の開示に伴う時間、労力、コストを、訴訟事例の規模に均衡させるという考え方です。つまり、5万ドルの訴訟事例のeディスカバリに、数十万ドルものコストを費やす必要がなくなります。だからといって、企業は自由に開示作業を行ってよいわけではありません。

被告と原告の両方に情報開示の権利がある

これまで、訴訟事例では「情報開示があまりにも難しく、コストが均衡しない」という主張が行われてきましたが、多くのケースで退けられています。裏付けまたは反論となる証拠を開示する権利は原告と被告の両方に認められているので、証拠となる情報が存在するのであれば、酌量の余地が必要です。この1例がPSTファイルです。裁判所は、特定の内容に関与する保管者グループ(ユーザ)に対して、情報開示を所定の期間内に行うことを命令することがあります。この命令は、関連情報すべての開示が前提とされます。フォーマットに関係なく、保持者グループが所有するすべてのPSTファイルが開示可能だとみなされます。

PSTファイルを開示しない場合(収集、レビュー、処理など)、裁判所ですぐさま証拠隠滅が審議され、PSTファイル内の情報を開示しなかった担当者は、比例原則に関係なく自らの費用負担で開示作業にあたることを命じられます。さらには、罰金が科せられることもあります。

比例原則については、2015年のFRCP改正に向けて再検討されていますが、施行されるまでは実質的な事項とはみなされません。

技術力の欠如は免責理由にならない

判事は、訴訟の当事者よりも豊富な知識を持っていることがよくあります。米国の地方裁判所の判事は、eディスカバリやコンピュータレビューを規定する判例法を取り扱っていますから、テクノロジについてよく知っているのです。

テクノロジの能力や限界を把握している判事であれば、積極的に当事者に指示を与え、指示に従わない場合には命令や制裁措置を講じることでしょう。ESIに関連する有名な訴訟事例の1つに、「Valeo v Cleveland Die」があります。当事者の一方が、相手方が提示したeディスカバリについて「テクノロジを利用しなければ解釈できない」と主張しましたが退けられました。また、「Spieker v Quest Cherokeeo」では、eディスカバリで請求されたデータ量が比例原則に反していると主張されましたが、同じ内容のeディスカバリを低コストで実行できるテクノロジを判事が知っていたため、この主張も退けられています。

では、PSTファイルとは何でしょうか。弁護士はPSTをファイルコンテナとして活用し、eディスカバリの対象データを当事者から弁護士事務所に送信する方法として利用しています。したがって、PSTはよく知られたテクノロジです。実際に法廷では、PSTコンテナは開示請求での公開および検索の対象としてみなされます。したがって、デスクトップのPSTファイルに保存されていたためにメールを取得できないとなると、もしもそのファイルが請求対象になった場合、担当者は処罰の対象になってしまいます。

事前対応が必要

ESIの形式と、PSTファイルの情報開示の必要性には関連性がないことを考えると、eディスカバリの検索に時間とコストを費やさなくてよいように、PSTファイルを削除する事前対策を検討するべきです。

社内で保持スケジュールを適用している場合は、PSTファイル内のデータに対してスケジュールを「遡及的に」適用することができます。つまり、作成から所定の月数が経過したデータを削除する際、同じデータをPSTファイルからも削除する必要があります。

このようなスケジュールを適用していない企業や、PSTファイルが社内ガイドラインの対象になっているユーザの場合、IT組織にはいくつかの選択肢があります。1つ目の方法は、PSTファイルの一元化です。ユーザのデスクトップから中央管理サーバにPSTファイルを移動するだけで、管理とディスカバリの作業を格段に簡素化できます(ユーザのファイルが訴訟ホールドの対象になると、そのユーザのPSTファイルもホールドの対象になるので、デスクトップから完全に移動させておく方が安全です)。ユーザは一元化したPSTファイルにもアクセスできるので、ユーザの操作は何も変わりません。2つ目は、中央のファイルからメール項目をユーザの受信ボックスに戻す方法です。Exchangeの新しいバージョンではメールボックスクォータは適用されません。

上記の方法はいずれも、ストレージ容量というコストがかかるのが欠点です。これに対して3つ目の方法であるアーカイブは、最も経済的であり、最適な選択肢だといえます。メールアーカイブソリューションは、PSTを排除し、アーカイブメールのスタブをユーザの受信ボックスに配置します。さらに、圧縮やシングルインスタンスストレージといった機能を使ってPSTファイルの内容と古いメールデータを高性能アーカイブへと移行します。このようなソリューションをオンプレミスに導入する場合、メール用のストレージサイズを50%以上節約できます。また、アプライアンスで実現したソリューションの場合、ストレージ機能を効率化するテクノロジが実装されています。さらにクラウドストレージの場合には、クラウドスタイルのストレージオプションとプライバシー保護が適用されます。

このように、アーカイブによってPSTを排除する方法には、検索と取得においてもメリットがあります。PSTデータの処理の中で最も手間と時間がかかるのはディスカバリですが、バラクーダネットワークスが提供するアーカイブソリューションならばあらゆる開示請求に対応できます。検索とディスカバリを実行する高機能ソフトウェアが搭載されているので、対象となるメールデータの特定と収集を迅速かつ簡単、そして正当な方法で実行できます。

PSTファイルをデスクトップに放置した状態で、開示請求の対象にならないことを祈るという方法は、ほとんどの企業にとってはあまりにリスクが高く、お勧めしません。

※本内容はBarracuda Product Blog 2014年12月31日Do PST Files impact eDiscovery?を翻訳したものです。

Rich Turner

本稿は、バラクーダネットワークスのWebサイトに掲載されている『バラクーダラボ』1月23日付の記事の転載です。