マーケットダイナミクス
そんな訳で自分が外資系で仕事をさせてもらって、その中で、ある程度のネットワークを形成してこれた、という経験値があるわけですが、その視点で見るとAIの技術は、ちょうど1980年前後のマイコンのマーケットに似てるなぁ、という印象を持つようになったんです。
要するに新しい、世の中を変えるかもしれない可能性を持つテクノロジーが出て来ました。そして、それにチャレンジするベンチャーも沢山出てきました。あの当時も、マイコンの会社って沢山出てたんですよね。「え、そういう会社ってあったの?」というような会社がマイコン作ってますみたいな。そんな会社が沢山あったんですけど、そこから30年、40年と時代を経る中で、1つのプラットフォームが定義されて標準化されることで、アーキテクチャも統一が進んで、1つに落ち着いてきて、結果として、大きな産業になったと思うんです。恐らくAIも、パソコンのCPUとは若干違うところもありますが、ざっくり言うと同じようなイメージで捉えることができるな、と。
ちょうど今、産業が立ち上がりつつあるところなので、沢山の人たちが可能性を持ってチャレンジしていますが、どこかのタイミングでふるい落としがされて、世界の勝ち組みたいなのが何社か決まってくる。その人たちが自分たちのプラットフォームを標準的に広げていくことで、一定のパイを取ってゆくという感じになるんじゃないか、という認識です。
--時代は繰り返しますよね。たとえば戦後、日本もオートバイや自動車の会社が沢山出てきて、そこからどんどん集約化されていって、現在に至るみたいな流れがありました
そうです。アメリカも蒸気機関が出来たころって、鉄道会社が山のようにありました。それが結局大陸間を走る汽車とかどんどん統合されてきて、鉄道会社もある一定規模に集約されていった。最初はベンチャー企業が可能性をもってどんどんチャレンジしていくんですが、段々マーケットのサイズとか、規模感がわかってくると、その中で淘汰と統合がされて、何社程度のプレイヤーであればマーケットが存在するといった形に落ち着いていく、そういうイメージなんじゃないですかね。
--ただ今はまだAI分野については、それがいつか? とかどのくらいの規模か、は見えてませんよね?
そうですね。
--つまりそういう状態のビジネスがお好き、ということで良いですか?
僕が好きなのはカオスの状態ですね(笑)。出来上がった会社を落ち着いてオペレーションするというよりは、混沌としていて右に行くのか左に行くのかも判らないという時に、自分のビジョンと哲学で「これはこっちに行くんだからこうやってみようよ」って周りを集めて、そこに向かって走っていくという、そういうのが好きですね。
実は日本は、テクノロジーを持ってる大会社はいっぱいあるんですが、それが課題につながってないんですね。課題が判ると、いろいろな技術がそこに使えるというのが判るのですが、そこができていない。メーカー視点だと技術はいろいろ作るんですが、その出先を考えてないんですよ。技術はどんどん革新していくんですが、何のために必要かということを考えていないから、出口が見えない。逆に課題感を持ってる人からすると、「こんなに困っているのに誰も見向きもしてくれない」ということになる。ですから、(この両者を)つなぐというのは凄く大事なのかなぁ、という認識です。そういう意味で言うと、テクノロジーの目利きが出来る人材がもっともっと沢山日本に出てきて、「そういう社会課題だったら、こういう技術が使えるんじゃない?」という、つなぐことが出来る人達こそが、次のステージで価値が出せるのではないかと思います。そういう人たちを養成するというのが、もしかすると面白いかもしれません。
--宗像さんが入られたころのIntelは今と比べれば、まだまだ小さな会社だったわけですからねぇ
そう。Intelも今や大きく育って、出来上がった状態になってしまいましたから、カオスな状態が好きな僕にとっては、あまり居心地が良いわけではない、と感じますね。
--そのIntelも25年間守ってきた売り上げトップの座をSamsungに奪われて、昔の栄光を知っている人間からするとえーっという感じもあるとは思うのですが?
世の中で消えていった会社は沢山あります。Intelも常に不沈戦艦かというと多分そういうことではなく、どっかのタイミングで何か違う会社に変わらないといけないのかもしれないという気はします。昔、Andy Groveがまだ存命中だった頃、彼に「たとえば20年後とか30年後にIntelはどんな会社になってると思いますか」と質問した人がいて、Groveが答えたのは「半導体を作ってるかどうかは判らないけれど、テクノロジーのリーダーシップが出せる企業であり続けたい」という答えを述べていました。
実は事業なんかはそういう感じなんですよ。元々やってた事業と違う事業にどんどん変革していきますけど、ただし、その時点で一番旬のビジネスのマーケットに対して一番最適化された組織を作り、対応していくという。その意味では、事業の変化に対しての対応力がすごく大事だと思うんです。そういう事がきちんと出来ている企業が、俗にレジリエント企業とか言われてる訳ですが、本当の意味での強い企業で、規模が大きいとか業界一位だけがその会社の価値を決めるものではないなぁという感じはします。
(次回は6月8日に掲載します)