企業において生産性を高め、競争優位を獲得するために必須となるのが業務の自動化だ。多くの企業にとって、重要性がますます高まりつつある自動化への取り組みであるが、うまく進められている企業もあれば、そうではない企業もある。
両者の違いはどこにあるのか。第5回では、自動化が浸透しない企業の共通する課題は何か、そして、それらをどう解決していけばいいのかについて解説する。
自動化が進む企業と進まない企業の二極化
業務を自動化するには、前提として「業務のデジタル化」が重要だ。ところが、実際はデジタル化できている企業とできていない企業の二極化が進んでいる。
しかも、業務のデジタル化ができているとうたっていても、取り組んでいるのは「紙の会議資料をPDFにしてペーパーレス化を図る」といった単純なデジタル化にとどまっていることが多い。業務のあり方やビジネスモデルを変革し、市場競争力を高めるような本来の意味でのDX(デジタルトランスフォーメーション)を意識した取り組みにはなっていない。
こうした状況で自動化を図ろうとしても、その効果は「単発の業務の効率化」と、自動化の効果が局所的にとどまってしまうのだ。そこで、業務全体を俯瞰し、経路依存をなくし、再構築しながら、全体最適の視点で適切な業務プロセスに自動化を適用することが大切になる。
企業内の「市民開発者」を中心に、IT部門のメンバー以外が先に立ってボトムアップ型で自動化を進めていくパターンもあるが、その場合、自動化の成果が出た際には、他部署メンバーや経営層にアピールし、企業全体の取り組みとして合意を取ったうえ、トップダウンで全社へ号令を出してもらうことが必要だ。そうすることで、自動化が企業全体に浸透していく。
このような体制を進めていくには、何が必要だろうか? 過去、企業内に自動化を浸透させることに成功した例を調べると、以下のようなことを行っている。
特定の部署・業務で成果が得られた方法の横展開を実践。まずは自動化対象に汎用性の高い業務やコア業務を選び、着実に成果を上げていく。
自動化を通して特定の経営課題が解決できることを社内・経営層にアピールし、他の部門への展開を試みる。
自動化などの「デジタルスキル」を社内の人材育成プログラムや人事評価に組み込み、昇格や昇給の対象とする。自動化ツールの利用者が気軽に質問できる社内コミュニティをSlackやTeamsなどのチャットツールなどで立ち上げ、CoE(センター・オブ・エクセレンス)メンバーによるサポートを行う。 もくもく会(開発者同士で作業を行う勉強会)のような交流の場や、自動化コンテストを立ち上げた企業もある。また、ベテラン人材のリスキリングの機会として自動化ツールのトレーニングを提供し、DXの最前線で活躍してもらうといった取り組みも実際に行われている。
自動化が浸透しない企業では何が起きているのか
全社規模の自動化が広がらない企業でよく耳にするのは、最初に選定した業務の自動化の効果や影響範囲が小さく、他の業務へ横展開しづらいことだ。せっかく自動化による効果が出ている場合でも、限られた部署や業務担当者のみの恩恵にとどまっており、他部署のメンバーや経営層へのアピールが足りないことも多い。
業務自動化に寄与するワークフローを開発するには一定の技術習得が必要だが、それによる社内での見返りが見えにくく、評価や給与に直結していないことも、自動化が局所的にしか進まない要因となっている。
また、デジタル化や自動化に対する疑問に対し、社内で解決できるコミュニティやサポート体制が存在しない、あるいは、まだ整えられていないことも一因に挙げられる。
多くの場合、社内に自動化開発に適した人材がいないわけではない。プログラミングの素養があったり、業務閑散期で比較的手が空いていたりと、技術面と時間面の双方で自動化ワークフローの開発を行えるような人材がいるにもかかわらず、うまくアサインできていないのだ。こうなってしまうと、自動化の意味を見出せなくなり、導入も活用も停滞してしまう。
忘れてはならない視点は、業務のベストなあり方は経営環境や社会情勢に応じて常に変化していくことだ。「自動化できる業務はもう全て自動化し終わった」と思っていても、法規制や社会情勢などの変化という外部要因により、「自動化すべきプロセス=非効率な業務プロセス」は常に発生する。
さらに、一度RPAでの自動化を完了したプロセスについても、折に触れて最適化していくことが必要になる。そういった連綿と続く自動化の開発・メンテナンスにおいて疲弊しないためにも、「継続的な問題の発見と解決」と「ワークフロー開発テストの自動化」が重要な要素となる。
持続可能な業務自動化推進のありかたとは
まず、「継続的な問題の発見と解決」を効率的に実践していくためには、業務プロセスを可視化するためのプロセスマイニングソリューションの導入が必要となる。
数ステップほどの、一見ごくシンプルな業務プロセスであっても、可視化すると数十パターンの分岐や差し戻しが発生している場合がある。全体のプロセスの中で標準化されていないボトルネックを把握し、必要に応じて自動化を適用することで、業務フローの最適化が実現できる。
もう一つの「ワークフローの開発テストの自動化」はイメージが湧きづらいかもしれないが、一般的なソフトウェアと同様、業務自動化のためのワークフローも稼働前のテストが必要な場合がある。
対象となるのは、個人がその場でロボットを実行して動かすようなシンプルなワークフローというよりも、毎週複数の業務システムから特定のデータを抽出・統合して複数部署にレポートするような、無人実行を前提としたワークフローだ。こうしたワークフローのメンテナンスやテストは部門をまたぐこともあり工数がかかりがちだが、テスト自動化ソリューションの活用で劇的に労力を削減した例も多くある。
このように、持続可能な業務自動化の推進には、RPA単体ではなく自動化をサポートする周辺ソリューションを組み合わせて、自社のスタイルに合った「自動化のライフサイクル」を確立していくことが必要だ。
本稿では、「課題となるプロセスの発見→プロセスの自動化→自動化したワークフローのメンテナンス省力化(テスト自動化)」というシンプルなサイクルの例を挙げたが、他にもAI活用や自動化によるROIの可視化など、業務自動化の恩恵を最大化するための仕組みは多数ある。
最終回となる次回は、AIと自動化がもたらす可能性に焦点を当て紹介していく。
著者
UiPath株式会社 プロダクトマーケティング部 部長 夏目 健