これまでは民間企業における業務の自動化について解説してきた。第4回となる今回は、誰もが接する機会がある自治体の行政サービスにおけるデジタル化・自動化にフォーカスしてみる。

昨今、市役所や区役所などではオンライン申請などで住民の利便性向上が図られている一方、部署・部門・業務に特化した仕組みがデジタル化や自動化の妨げになっているケースもある。

行政の業務における自動化の課題とは

民間企業と比べ、市役所などの行政では業務の自動化は緩やかに進捗している。その背景として、行政サービスの種類が多岐にわたっていることが挙げられる。

行政は住民一人ひとりに平等で適切なサービスを提供することが求められるため、民間企業のように、採算が合わない(利用者が極端に少ない)からと言ってサービスを打ち切ることは難しい。また新たな法律や条例が制定されると、新たな住民サービスが必要となることも多い。行政サービスは、減らすことが難しいだけではなく、常に増え続ける傾向があるものなのだ。

また、年間の特定の時期繁忙期には業務量が倍増するが、その業務を限られた職員数で処理するため、時には連日深夜残業が続くこともある。こうした繁閑差があることも、特徴の一つだ。

  • 地方自治体の行政サービスにおける、年間の繁忙期カレンダーの例

さらに、すべての住民に平等で適切なサービスを提供するという原則から、サービスそのものをシンプルにすることが難しい。

例えば、住民票の取得のフローを例に挙げると、オンライン対応が前提であれば完全な自動化も可能だが、窓口での職員の個別対応を希望する住民も一定数存在する。地域性や世帯属性によって相談内容や要望も異なることから対応が分かれてしまい、スムーズなデジタル化が実現しづらい現状がある。

また、行政サービスのなかでも外部機関と連携して提供されているものについては、デジタル化検討の際に外部機関にも対応を求めるケースもある。

このように、行政サービスは個人や世帯に適した住民サービスを提供するために従来のサービスも維持する必要性があり、外部環境との足並みのそろった連携も求められる一方で、デジタル化への期待値は高い。これが行政のデジタル化における現状であり、難しい部分でもある。

電子申請な可能なサービスを増やしたり、マイナポータルや自治体側の統一的な窓口などを整備したりしてはいるものの、自治体側の標準化対応やシステム化の進捗はさまざまだ。一部の仕組みをデジタル化しても、組織やシステムをつなぐプロセスで間接業務やデータ連携などの職員の作業が生じていることがある。

このように、デジタル化に伴って生まれた付帯業務や作業を自動化していく取り組みは職員の負荷軽減になると同時に、住民サービスの質向上に寄与するものである。

自治体における自動化の取り組み事例

自動化が困難な点ばかりを論じてきたが、こうした課題を乗り越え、業務や部署・部門を横断しての自動化に取り組んでいる自治体も存在する。

例えば、神奈川県では、RPAのロボットのリソースを一元管理し、全庁規模での自動化を実現している。

同県では2017年2月に神奈川県知事を本部長とする「働き方改革推進本部」を設置し、全庁を挙げて効率的な働き方を推進。その一環として、2018年には、勤務時間外に災害が発生した場合に備えた「災害時の職員配備計画作成業務」や、職員の自宅住所をもとに最寄り駅、最寄りバス停を5つずつ出力する「通勤手当の認定業務」にRPAを試験的に導入。RPAを働き方改革実現の有効なツールとして位置付け、今後も多様な業務へのRPA導入の拡大を目指し、庁内で定期的なRPA説明会などを実施している。

また、他のある自治体では、多様化する住民サービスへの対応として分断されたネットワーク(三層分離環境)間の情報連携を自動化し、スムーズなオンライン申請処理を実現している。住民の利便性を向上するため、本人確認や決済機能を有する独自のオンライン申請システムを構築し、クラウドサーバに保管したマイナンバーの申請データを別の業務システムに職員が手入力し直す作業をRPAで自動化し、異なるネットワーク間のデータ連携を実現した。

さらに、この自治体では、保育関連のオンライン申請に伴う付帯業務にもRPAを活用。半年で約8,000件を超えるデータ処理を自動化し、職員にとって大きな負担となっていた作業を、推計650時間分以上削減した。現在では、250を超える手続きがオンライン申請で行えるようになっている。

これらの例のように、自動化により、業務の効率化を実現しつつ、ヒューマンエラーも予防し、それがひいてはさらに住民サービスの向上にもつながっている、一石二鳥とも三鳥ともいえる業務変革を進めている自治体は多くある。

今後の行政の業務のあるべき姿とは?

前述のとおり、行政サービスのデジタル化にはさまざまな課題がありつつも、行政サービスは国や自治体が外部機関などと連携して成立させているため、システム間でのデータ連携の自動処理や、生成AIなど新しいテクノロジーとの連携において、自動化活用の余地は大きいと言える。

今後、行政の業務はガバメントクラウドとAI、それらを強化・補完する自動化技術により、「完全に自動化される領域」と「人とデジタルが協働する領域」に徐々に分かれ、業務のあり方が高度化していくと予測できる。

  • 自動化の効果が出やすい地方自治体の業務のヒートマップ

加えて、自動化やデジタル化が進む過程で、人が対応する領域がより重要性を帯びる可能性がある。システムが高度化され、オペレーションやデータ連携に関わる付帯業務も含めて自動化され、転入出や確定申告などの時期に一時的に倍増する業務負担もロボットの稼働で吸収できるようになれば、職員自身のワーク・ライフ・バランスも向上し、専門性やコミュニケーションのスキルを高める機会をより増やすことができるだろう。そうすることで、職員は複雑困難な住民事情にもより緻密に対応できるようになり、住民側の満足度向上も期待できる。

このようなデジタル化・自動化の考え方は、行政のみならず社会インフラのような重要な役割を持つ民間企業にとっても、自動化を検討する際に参考になるだろう。行政・民間を問わず、デジタル化や自動化はその業務に関わる多くのステークホルダーに影響を与えうる取り組みだ。

伝統的なエコシステムに自動化テクノロジーがスピードをもたらすことにより、行政や社会インフラなど日本の根幹を支える組織が活性化し、住民や関わる人たちのウェルビーイングにつながる。そのような循環型指向のデジタル化を目指していければと考える。

著者
UiPath株式会社 プロダクトマーケティング部 部長 夏目 健
UiPath株式会社 セールス・コンサルティング第3部 部長 梶尾大輔