人手不足への対応として生産性向上が叫ばれる中、生成AIの登場で自動化は新たなフェーズに踏み出した。本連載では、RPAの進化の歴史を紹介するとともに、RPA導入における課題、進化した自動化の導入・定着化に向けて必要な取り組み、そして、AIによる自動化がもたらす可能性などについてお届けする。
第1回となる今回は、RPAの歴史と新たな自動化への取り組みについて解説する。
2016~2018年頃:RPAの盛り上がりと初期導入した企業の特徴
日本におけるRPAの普及・浸透は、働き方改革の取り組みと軌を一にする。2016年頃から働き方改革が意識され始め、2018年の働き方改革関連法案(働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律)の成立を契機に、従業員の残業時間削減やワーク・ライフ・バランスの改善に取り組む企業が増えた。
こうした状況の中、RPAは残業を減らし、働き方改革を実現してくれる「魔法の杖」のように注目され、導入が一気に加速した。
ただし当時、RPAを初期導入した企業のほとんどは、従業員ごとの個人タスク、つまり「個人の作業の自動化」にRPAを活用した。当時は、表計算ソフトなどを自分なりに駆使して大量の定型作業をこなしている従業員がほとんどの職場にいたものだ。
RPAは、そうした個人レベルの定型業務を自動化できる便利なツールとして注目され、他の業務システムよりも短期間で導入可能なことが普及に拍車をかけた。
こうした日本国内の動きに対し、海外では個人のタスクではなく、事業部門ごとの事務作業の効率化にRPAが活用されていた。とりわけ、経理や人事部門などでは、法規制などを踏まえて部門ごとに標準化・定型化された繰り返し作業が多い。
このような部門ごとに集約された事務作業の効率化にもRPAが有効であることがわかり、その後、日本でもこうした用途での活用が広がっていった。
日本におけるPRA利用の広がりと導入を通して見えてきた課題
国内でRPAの導入が進むにつれ、課題も浮き彫りになってきた。当然だが、RPAは「魔法の杖」ではない。ソフトウェアをインストールするだけで、これまでの業務が勝手に自動化されるわけはなく、既存の業務プロセスの見直しと必要に応じた再構築、そして、その業務プロセスのなかで「自動化すべき業務」を適切に判断しなくてはならない。
つまり、事業部門ごとの業務内容を理解したうえで、自動化した際の費用対効果が高い業務の特定が必要となった。
さらに、注意すべきことは企業における業務が一つの部署・部門だけで完結するのではなく、複数の部署・部門にまたがって進められることが多いということ。
例えば、部品メーカーであれば、一つの部品を作って納品(販売)するまでの過程で、原材料の調達・製造・販売などの各部門が関連している。そのため、理想的なRPAの導入スタイルは、IT部門だけでなく、対象業務に関連する部署・部門の担当者も巻き込んで「業務プロセス全体の自動化」に取り組む姿勢が必要となる。そうでなければ、RPAの活用範囲は従来の「個人タスクの自動化」の枠を出ず、導入効果は限定的となってしまうだろう。
RPAの導入を成功させるには、まずは一つの部署・部門の業務を自動化したうえで、業務フローで次の工程となる部署・部門へと広げていく取り組みが大切になる。その取り組みの鍵を握るのは、関連する他の部署・部門との調整役となるCoE(センター・オブ・エクセレンス)の存在だ。
CoEとは、目的達成のために組織内を横断的に活動するチームであり、RPA活用の文脈においては部署・部門を超えて企業全体で自動化を推進するプロジェクトの舵取りを担う。CoEをきちんと設置できるかどうかも浮き彫りになった課題だ。
こうした自動化の適用範囲の広がりとともに、RPAの開発と提供が間に合わなくなるという課題も新たに顕在化してきた。経済産業省の「IT 人材需給に関する調査」によると、自動化のニーズが拡大し続ける反面、エンジニアは不足している。次第に、RPAのユーザー企業側では「RPA開発を自社で内製する」動きも増えてきた。
AI搭載による「新たな自動化」の潮流:ポイントは「足し算のツール」という視点
適用範囲が広がりつつあるRPAだが、今後は生成AIに代表されるAIとの組み合わせにより、ますます用途が拡大していくと考えられている。複数のツールや技術を組み合わせて、ビジネスプロセス全体を自動化する「ハイパーオートメーション」の取り組みを含め、AIを活用した新しい自動化の流れはすでに始まっている。そこでも鍵を握るのがCoEによる業務全体の可視化である。
可視化と合わせて、CoEを中心に自動化活用の新たな視点を持つことも重要となる。それは、RPAを業務時間やコスト削減のための「引き算のツール」ではなく、例えば新規事業への活用や、業務の精度向上、顧客満足度向上などの付加価値をもたらす「足し算のツール」として捉えるということ。CoEが業務全体を可視化し、「足し算のツール」の視点で「どの業務に自動化を当てはめていくと付加価値を最大化できるのか」を探っていく。
もし、RPAを「引き算のツール」と捉えたままだったら、目標は既存業務の置き換えの範疇にとどまってしまう。RPAについて「うちではもう自動化はやりきった」と話す企業も多いが、はたしてそうだろうか。
CoEを設置し、業務全体を可視化し、「足し算のツール」の視点で見直してみると、「付加価値を最大化する自動化」の可能性が見えてくるはずだ。そこから、AIと組み合わせた自動化による新たなビジネス価値創出へと、可能性が広がっていくだろう。
著者
UiPath株式会社 プロダクトマーケティング部 部長 夏目 健