執筆者紹介
渡邊健太郎(Watanabe Kentaro)
専修大学在学時にエンパワーメント(現ネットランドジャパン)を創業。現在も代表取締役 副社長の肩書きを持つ。2004年~2006年にはライブドア社長室にも所属。同社の子会社であるブロードバンドピクチャーズの代表取締役などを務めた経験を持つ。現在、カンボジアでのホテル経営にも携わっているほか、経営コンサルタントとしても活躍しており、「アイデア発想・ビジネスモデルセミナー」の講師なども務めている。ブログ「チャンスを掴むビジネスアイディア発想法」も好評執筆中。
世界的に景気が回復しないなか、円高の影響も大きく、日本経済は停滞から抜け出すことができません。しかし、もはや日本は過去のような高度成長は望めないという声もあります。そうしたなか、筆者は成長が目覚ましい東南アジアに飛び出し、活躍している日本人に出会ってきました。本連載では、東南アジアにおけるビジネスチャンス、実際に東南アジアの各国でビジネスを展開する日本人を紹介していきます。
想像以上に貧富の差が広がるバングラデシュ
初回となる今回は、先日訪問したバングラデシュの現況についてお伝えします。そして、次回以降、バングラデシュで注目のビジネス、活躍する日本人を紹介します。
セミナーなどでバングラデシュについて質問をすると、国名こそ知っていても、場所や文化を知らないという方が多いようです。バングラデシュはインドの東側に位置し、一部がミャンマーと国境を共にしています。国旗は日本の日の丸とよく似ており、白の部分を緑色に変えたものがバングラデシュの国旗で、赤が「昇る太陽」、緑が「豊かな大地」を表しています。
これらの知識があったとしても、「世界最貧国の1つ」「サイクロンなど自然災害の発生」など、ネガティブなニュースばかりが報道されているので、残念ながらバングラデシュに対してあまり良いイメージはないかもしれません。
しかしここ最近、そんなイメージを覆すように、バングラデシュはさまざまなキーワードで注目されるようになってきました。例えば、「ネクスト11」の1つであること、グラミン銀行とその創設者ムハマド・ユヌス氏がノーベル平和賞を受賞したこと、また、ユニクロが進出したことなどが記憶に新しいのではないでしょうか。
私も実際に訪れるまでは、このような知識しかなく、バングラデシュに対しあまりポジティブなイメージを持っていませんでした。しかし、実際に首都ダッカを訪れ、人と交わると、意外な面がすぐに見えてきました。街の雰囲気は明るく、人々は活気に溢れ、エネルギーに満ち溢れているのです。
街の中は高級車が走り、外資高級車のショップが軒を連ねており、日本の光岡自動車も進出しています。スーパーマーケットの店頭には輸入高級フルーツが並び、各売り場には輸入品や高級品が所狭しと置かれています。また、富裕層エリアにあるのは、日本よりも価格の高い一軒家やマンション、ホテルばかりで、かつての貧しいイメージとはまったく異なる世界が次々と広がっていく姿に驚愕の連続でした。
現在が正に開発ラッシュなのでしょう。歪んだ発展と言えばそうなのですが、圧倒的なパワーを感じると同時に、貧富の差の拡大を感じざるを得ませんでした。
世界から置き去りにされる日本
このような成長著しいバングラデシュにおいて、私が特に注目したのは衣料品産業です。バングラデシュはすでに世界では第2のアパレル工場集積地帯と注目され、欧米企業が重要な生産拠点として位置付けて進出しています。近年では、ユニクロなどの日本企業もその発展性に目をつけ、バングラデシュへの進出を図る企業が増えてきたようです。
今回、衣料品産業に対して人材教育を行っている専門学校や衣料品サプライヤー企業の訪問・視察も行ってきたのですが、それにより見えてきたのは、孤立を深め世界の流れから置き去りにされていく日本の姿でした。「一体どういうこと?」と思われる方もいるでしょう。
バングラデシュとしては、アパレル工場集積地帯としての技術力やブランド力をつけている最中のため、少品種かつロットが多い生産が欲しいという状況です。一方、日本企業からは小ロット生産を要求されるので、現地工場から見ると「仕事は欲しいが日本企業の小ロット生産はあまりやりたくない」という事情があるのです。そのため、バングラデシュの工場ではほぼ欧米企業の仕事をしているとのこと。
実際、前出の専門学校の図書館に欧米のファッション誌や資料は数多く並べられていましたが、日本のファッション誌や資料はまったくと言ってよいほど見かけませんでした。この事実はとても衝撃的で、日本は完全に置き去りにされているという印象を受けました。
###発展のカギは「日本企業の需要にこたえられるかどうか」 現地のアパレル関係者に質問したところ、とても興味深い答えが返ってきました。それは「日本は魅力的な市場だが、早急に取引を進めていこうとは思っていない」というもの。その理由は、日本の企業や市場が求める特殊な要求に対応するのが難しいからとのことでした。
つまり、日本企業は極めて高い品質を要求するため、詳細かつ厳格な品質管理を徹底しなければならないが、それにきちんと対応しようとすると採算が合わなくなるほどの手間がかかるとか。欧米企業が認めている品質を有しているにもかかわらず、日本企業が求める品質管理を実施すると大変な労力と時間を要してしまうという話でした。さらに、四季がある日本には春物・秋物といった中間季節の需要があるため、日本独自の仕様が存在して面倒とのこと。
しかし、バングラデシュの未来を考えた場合、現在の少品種&多ロット生産ではなく、多品種&少ロット生産へ移行させる必要があると思います。それは、世界のアパレル工場がその方向に向かっているからです。私見としては、バングラデシュが世界一のアパレル工場を目指すのであれば、そこは避けて通れない道であり、アパレルビジネス発展のカギだと考えます。
バングラデシュは親日な国であるうえインドとも隣接していますから、これからインドと交流していくうえで、仲介に入ってもらう大事なパートナーにもなります。まずはアパレル関連産業などから積極的に交流していくことが、日本にとってもバングラデシュにとっても重要だと思います。