1997年6月のTop500でCP-PACSを超えて1位になったのは、米国のSandia国立研究所に設置された「ASCI(アスキーと読む) Redスパコン」である。
シミュレーションで核兵器の管理を行えるスパコンを開発するASCIプロジェクト
ASCIプロジェクトは核兵器の管理の計算が行なえる性能のスパコンを開発するためのプロジェクトであった。核兵器の管理の計算には100TFlopsの性能が必要と見積もられ、ASCI計画は100TFlopsを実現するためのマルチフェーズのプログラムであった。
ウラン235やプルトニウム239などの核分裂を起こす物質は自然崩壊していくので、時間が経つと核爆発する成分が減少してしまう。つまり、長期間貯蔵された核弾頭はだんだんと爆発しにくくなる。このため、核弾頭が本当に爆発することを定期的に確認しないと、古くなった核弾頭が役に立つことを保証できない。以前は、古い核弾頭を取り出して、地下核実験で本当に爆発させてみて、動作することを確認してきた。
しかし、1992年にブッシュ大統領(第41代のいわゆるパパブッシュの方である)が地下核実験の禁止を宣言したため、古くなった核兵器を地下で爆発させて調べるという方法が取れなくなった。そのため、コンピュータによるシミュレーションで核兵器の劣化の度合いを求め、本当に使えるのかどうかを確認することが必要となった。
なお、核物質の劣化だけでなく、爆縮させて核反応を開始させるための爆薬が劣化しても、意図した核爆発は起こらないので、核弾頭に使われているすべての物質の変質をシミュレートする必要があり、精度の高いシミュレーションを行うためには、強力なコンピュータを必要とする。
1995年に、この核弾頭の管理の為のスパコンを開発するAccelerated Strategic Computing Initiative(ASCI)計画が開始された。このASCI計画のOption RedのスパコンがASCI Redである。
汎用のPentium Pro CPUを使ったASCI Redスパコン
ASCI Redは、多数のIntelのPentium Proプロセサをネットワークで接続するMIMD(複数命令複数データの)マシンで、Sandia国立研究所とIntelが協力して開発に当たった。現在はIntelはスパコンの開発、製造は行っていないが、当時はIntelの中にスパコンを開発、製造する部門があった。
システムの構造としてASCI Redの特別なところは、コンピューティングノード群とI/Oノードの間の接続をカットするスイッチを入れたキャビネットがある点である。核兵器の管理や開発といった軍事機密のデータを扱うので、これらの情報が漏れないように、ストレージや通信回線などへのアクセスを物理的に遮断する機能が設けられていた。
なお、IBMの3330ストレージの時代にはディスクのプラッタは取り外し可能なカートリッジであったので、機密の計算に使うディスクはもって行って必要になると装着し、処理を終わると外して持ち帰るという運用が行なわれていた。しかし、ASCI Redの時代にはディスクの円盤は取り外すことは出来なかったので、ディスクを切り離すという方法が使われた。
(次回は6月19日に掲載します)