日立のS-810とS-820シリーズ
日立は1982年8月にS-810シリーズのベクタスーパーコンピュータを発表した。この発表は、1982年7月の富士通のVP-100/200の発表の1か月後であるが、VP-100は1983年12月に名古屋大学プラスマ研究所に出荷され、S-810は1983年10月に東京大学大型計算機センターに出荷というように両者は競り合っていた。
HITAC S-810はS-810/5、S-810/10、S-810/20という3モデルで構成され、最下位のS-810/5のピーク演算性能は160MFlops、S-810/10は315MFlops、S-810/20は630MFlopsであった。
富士通のVP-200は500MFlopsであるので、630MFlopsのS-810/20はピーク演算性能では世界最速のスパコンであった。
S-810は550ゲートで遅延時間350psと1500ゲートで遅延時間450psの2種類の論理LSIを使用していた。そして、ベクタレジスタにはアクセス時間4.5nsの1KビットのバイポーラRAM、主記憶にはアクセス時間40nsのスタティックRAMを使っていた。
S-810 Model 10のブロック図を見ると、その構造は富士通のVP-100/200とよく似ている。ただし、S-810の方が多くのベクタパイプラインを備えている。VP-200は2本のロード/ストアパイプラインであるが、S-810/20は3本のロードと1本のロード/ストアパイプラインを持ち、3つのベクタオペランドの読み出しと1つの演算結果の書き込みをフルスピードで行うことができる。
また、S-810/20は4本の加算パイプライン、2本の乗除算+加算パイプライン、2本の乗算+加算パイプラインを持ち、12個のベクタ演算を並列に実行することができた。
S-810のクロックサイクルは14nsであり、各パイプラインは71.4MFlopsの性能を持つ。これが12本あるので合計では857MFlopsになるが、メインメモリからベクタレジスタにロードする時間を考慮すると実現できる最大性能は630MFlopsとなり、これが公称の性能となっている。
(次回は6月21日の掲載予定です)