F230-75はECL(Emitter Coupled Logic、当時はCMLと呼ばれていた)ゲートで作られ、クロック速度は90nsであった。そこで、APUもこれと合わせて、90nsクロックで動作するように作られた。

  • FACOM 230-75 APU

    図2.1 FACOM 230-75 APUシステム。右側の筐体の一番手前の出っ張っている部分がAPUである (出典:富士通Webサイト)

F230-75 APUの諸元を見ると、APUは単精度の浮動小数点の加算、乗算と論理演算のパイプラインを持ち、単精度の浮動小数点加算では22MFlops、乗算では11MFlopsであった。また、割り算は1.2MFlops、内積や合計の計算では22MFlopsの性能をもっていた。

なお、Cray-1は12.5ns(80MHz)とAPUの7倍以上のクロックを実現しており、性能も大幅に高かった。その理由は、Cray-1では、消費電力はかなり高いがスイッチ時間が0.5ns~1.0nsという高速のECLを使っていた。これはAPUに使われた3nsのECLに比べて3倍以上速い。それに加えてSeymour Crayの執念の高密度実装で配線の長さを短縮することで、2倍あまりの高速化を得ることで実現されている。しかし、高発熱の集積回路を高密度に詰め込んでいるので、Cray-1ではフレオンを使った冷蔵庫のような冷却システムが必要となり、さらに配線長を短くするため特異な円筒状の筐体となっている。

これに対して、F230-75 APUは、空冷の一般的な実装を使っており、高発熱のMECL3ではなく、速度は遅いが発熱が小さく、より使い易いMECL 10Kを使っている。このため、7倍あまりのクロック周波数の違いが出ていると考えられる。

また、F230-75 APUは、スイッチ時間が1nsと高速なNTL(Non Threshold Logic)という回路を使っている。NTLは電電公社の武蔵野電気通信研究所(通称:通研、現在は、NTT武蔵野研究開発センター)が考案した論理回路で、消費電力が小さく、かつ、高速のスイッチでLSI化に適しているという特色があり、富士通、NEC、日立と共同開発を行っていた。

(次回は3月15日の掲載予定です)