廉価版のCray Y-MP EL
Crayは1990年にSupertek ComputersというCMOSプロセサを作っている会社を買収し、CMOS技術を手に入れた。そして、1992年にはSupertekの技術を利用した「Cray Y-MP EL」がリリースされた。ELはEntry Levelの意味である。このモデルはY-MPと同じアーキテクチャを持っているが、論理回路はECLではなく、CMOSで作られている。
CMOSはECLに比べると、圧倒的に消費電力が少なく、空冷で冷やすことが可能であった。しかし、クロックは15nsとModel Eの6nsの2.5倍の周期であった。
そして、IOサブシステムはY-MPとは完全に異なるVMEバスベースのものに置き換わっている。
Y-MP ELは最大4プロセサ構成をとることができたが、Y-MP Model Eと比べるとプロセサ数は半分、クロックは0.4倍であり、1/5の性能となっている。これは大量の計算を行う場合は5倍の計算時間が掛かるが、価格/性能ではY-MP ELの方が安かった。
このため、それほど計算時間が長くない計算を行うユーザはELを買う方が安上がりであるし、大規模計算を行うユーザでも、プログラムを開発してデバグしている時には、それほど高い計算性能は必要なく、プログラム互換のY-MP ELを使う方が安上がりであるというメリットがあった。
Cray C90
Cray Researchは、Y-MPのシリーズの一環として、1991年に「Y-MP C90」というマシンをリリースした。Y-MP C90には、C92A、C94A、C94、C98、C916というモデルが作られた。
C9の次の数字はベクタプロセサの数であり、2プロセサから16プロセサのモデルがあるという品揃えとなっている。Aがついているモデルは空冷(Air Cooled)であり、発熱の少ない2プロセサと4プロセサの構成は何とか空冷が可能であったようである。
なお、このマシンは、当初はCray Y-MP C90と呼ばれたが、後にはY-MPが取れて、Cray C90と呼ばれるようになった。
Cray C-90の最大の構成であるC916の筐体は、図1.58のような、円筒に3枚の羽根がついた形になっている。なお、C98とC94は羽根が2枚、C92は羽根が1枚になっている。そして、空冷のC94A、C92Aは直方体の筐体に、小さな円筒が付くという異なる筐体になっている。
図1.59はC916システム全体のブロックダイアグラムである。図の中段にMainframeと書かれたベクタプロセサがあり、その右側にIOS-Eと書かれたI/Oプロセサがある。ベクタプロセサは最大16台のプロセサを持つことができ、I/Oプロセサは最大8台である。
そして、図の下側にはOperator Workstation Model Eと書かれたブロックがあり、ここに、オペレータコンソールや、ディスク、テープ、プリンタなどのI/Oデバイスが接続される。図の上側にはオプションの高速のSSD(Solid State Disk)が接続できるようになっている。
図1.60は、C916の冷却系を示す図であるが、メインフレーム筐体の3つの羽根の内の1つだけがロジックで、残りの2つの羽根は電源と書かれている。そして、メインフレーム筐体には、2つの熱交換ユニットから冷たい絶縁性の液体であるフロリナートが供給される。メインフレームを冷却して温まったフロリナートはHEU-C90と書かれたユニットの冷凍機で冷やされて熱交換ユニットに戻る。冷凍機の排熱はRCUと書かれたユニットで、冷たい水で冷却されて循環するという方式で冷却されている。
IOS-EやSSD-Eも同じ冷却法であるが、こちらは直方体に近い筐体で、熱交換ユニットは1個だけで冷却されている
C94AとC92Aという空冷モデルでもECL LSIを搭載したプリント基板はフロリナートに浸漬して冷却されており、温まったフロリナートは冷凍機で冷却されているのは、上位の大型モデルと同じである。異なるのは、冷凍機の排熱を水冷ではなく空冷で冷やすという構造になっているという点である。
(次回は11月30日の掲載予定です)