オンチップの安定化電源

IntelやIBMは、CPUチップ上、あるいはCPUと同じパッケージに搭載する安定化電源の研究を行ってきており、2014年2月のISSCCで、IntelはDesktop向けのHaswellプロセサ、IBMはPOWER8プロセサで、オンチップの安定化電源を搭載し、コアごとに、負荷状態に応じて最適な電源電圧を供給する構造を採っていることが発表された。

現在のマザーボードに乗っている通常の安定化電源のスイッチ速度は、数10KHzから数MHz程度であるが、オンチップの安定化電源では高速のトランジスタが使えるので、100MHz以上のスイッチを行うことができ、IntelのHaswellの安定化電源では140MHzでスイッチしている。スイッチの1サイクルにコアやその他の回路が使うエネルギーは、サイクル時間に比例するので、エネルギーを蓄えるインダクタやキャパシタはスイッチ周波数に逆比例して小さいもので済む。このため、100MHzを超える高速でスイッチすることにより、インダクタやキャパシタの小型化が可能となる。IntelのHaswellでは、安定化電源の制御回路や電圧を制御するトランジスタはCPUチップに集積し、安定化電源のBuckコンバータで必要となるインダクタ(コイル)は、チップパッケージの多層配線基板に中に作りこんでいる。強磁性体コアを使わない空芯のコイルで、30程度という高いQが得られているという。なお、キャパシタはチップ上に形成したMIMキャパシタを使っている。1平方μmあたり20~30FFと発表されているので、1平方mmでは20~30nFである。Viaなどに使われる面積もあると思われるが、CPUコア1個あたり0.2μF程度の容量は確保できると思われる。140MHzで最大16フェーズのスイッチングであるので、この程度の容量でもリップルを抑えられる。

また、スイッチ周波数が高く、インダクタやキャパシタに蓄えるエネルギーが小さいということは、出力電圧を高速で変化させられることになる。従来の安定化電源では0Vから1V程度、あるいはその逆に1V程度から0Vに出力電圧を変化させるためには数μsから数10μsの時間が掛かるが、Haswellのオンチップ電源では、0V→0.8Vとその逆の変化が0.32μsで行えると発表された。

電源電圧を下げると、コアの電源レールに接続するキャパシタの電圧が低下し、キャパシタに蓄えられているエネルギーがムダに消費される。逆に、電源電圧を上げると、電源レールのキャパシタを充電するためにエネルギーを使う。

図8.2 電源電圧スイッチに伴うエネルギー消費とブレークイーブンタイム

図8.2に示すように、電源電圧の低下、復元時にムダなエネルギーが使われるために、電源電圧が低い状態がある程度以上続き、(1)と(2)のエネルギー消費を(3)の低電源電圧によるエネルギー節約が上回らないと、全体としての消費エネルギーの節約にはならない。このムダなエネルギー消費と節約エネルギーが同じになる低電源電圧の時間をBreak Even Timeと呼ぶ。

Break Even Timeより短い期間で電圧を元に戻すと、トータルとしてエネルギー消費が増えてしまうので、低負荷状態が長く続く可能性が高いと判断した場合しか電源電圧を下げないというのが普通のDVFSの制御であるが、Haswellのオンチップ電源では、この電源電圧が変化している時間が1/10かそれ以下に短縮されており、Break Even Timeも同様に短くなっていると考えられる。このため、より短時間の低負荷状態も有効に利用することができるようになり、さらに、省エネ効果を大きくすることができる。