どんなアプリがヒットするか、誰にも予想はできません。すべてのアプリに当てはまる理論や法則はないからです。そんななかでも、私たちは常にデータをにらみ、チャートに影響する最新トレンドをとらえようと目を光らせています。
今回ご紹介するのは、モバイルゲームアプリの新たな旋風「Agar.io」です。Agar.ioは7月27日時点で、アメリカのiPhone向けアプリの「ゲーム」カテゴリーでダウンロード数ランキングの第2位につけており、アイルランド、ニュージーランド、フランスでは、iPhoneとGoogle Playの全体ランキングでトップ3に入っています。
Agar.ioは、細胞になって競い合う、マルチプレイヤー戦略アクションゲームです。小さな細胞からスタートし、フィールドに転がる餌や他のプレイヤーを食べることで大きく成長することを目指します。対戦相手を食べるか、相手に食べられるか、競争心がかき立てられるゲームです。
瞬く間にトップへ
Agar.ioは、iOS App StoreとGoogle Playに登場してまだ3週間(7月27日時点)ですが、アメリカ、オーストラリア、カナダ、イギリスなど40カ国以上でランキング上位を維持しています。7月7日~22日のiPhoneのダウンロード数ランキングでは第1位を獲得し、アメリカ、カナダ、ブラジル、トルコでは「ベスト新着ゲーム」に複数回取り上げられました。Agar.ioはアメリカのApp Storeで「マルチプレイヤー」とiPad向けアプリを検索すると、検索結果のトップに表示されます。
多くのユーザーはAgar.io をアプリストアのトップページや検索から見つけていますが、実は一部の人には人気ゲームとして以前から知られていました。モバイル版のAgar.ioは数週間前に登場したばかりですが、ウェブブラウザ向けには4月にリリースされていたのです。
Agar.io のデザイナーであるMatheus Valadares氏(Redditでは「Zeach」、Steamでは「M28」というハンドルネーム)は最初、Javaベースのウェブ版を、4chanやRedditなどの人気オンラインコミュニティーで発表しました。Agar.ioはこれらのサイトで評判を呼び、TwitchやYouTubeなどの動画サイトにプレイ動画がアップされるようになりました。
5月には、Steam版がGreenlitに選ばれ、Valadares氏はValveの協力を得て、Windows版、Mac版、Linux版をリリースしました。そして最近、7月にMiniclipがiOS版とAndroid版をリリースすると、その週末には早くもヒット作の仲間入りを果たしました。
人気は既に確立されていた
他のプラットフォームで無料リリース
Agar.io のモバイル版のロケットスタートのきっかけとなったのは、先行してリリースされたウェブ版でした。無料のウェブ版で、幅広い人たちが試しにプレイすることができ、ファンになった人はソーシャルメディアやオンライン掲示板などを通じてゲームの評判を広めました。すでにAgar.ioを夢中でプレイしているコミュニティーがブランディングを行ったのです。大勢の人によってウェブに口コミが広がっていたことを考えると、モバイル版Agar.ioのヒットは当然でした。
Agar.ioはリリース後すぐにヒットを記録しましたが、モバイルで再リリースを行う試みは決して新しいものではありません。パズルゲームのSnoodは、1990年代後半から根強い人気をほこる無料PCゲームです。その後、Electronic ArtsによってオンラインゲームサイトPogo.com向けに配信され、2013年にはiOS版がリリースされました。以降、SnoodはiOS App Storeで人気を維持し、現在(7月27日時点)もアメリカのパズルゲームランキングのトップ100に入っています。
もうひとつSnoodで興味深いのは過去のゲームを参考にしている点で、1994年にアーケード版、2009年にiOS版がリリースされたタイトーのパズルボブルの要素を活かしています。これは珍しいことではなく、他のモバイルゲームもウェブやゲーム機向けの先行ゲームから影響を受けています。今では定番のAngry Birdsは、無料フラッシュゲームのCrush the Castleと動きが似ており、Crush the Castleの投石機がスリングショットに置き換わっています。2014年にiOS版がリリースされ、米国では現在iPhoneのファミリー向けゲームの第3位につけているCrossy Roadは、基本的にFroggerの豪華版です。
E3 (Electronic Entertainment Expo)でFallout 4の予告編が公開された直後にリリースされたFallout Shelterは、iOSのロールプレイングゲームおよびシミュレーションゲームアプリの各カテゴリーで、約1カ月にわたってトップにランクイン |
モバイルゲームがリリース前に強力なブランドを確立している例はほかにもあります。Fallout Shelterは、ロールプレイングゲーム(RPG)の人気シリーズの1作であることから、ダウンロード数を大きく伸ばしました。Fallout 4の発表直後にリリースされ、リリースから約1カ月間、米国のiOSのロールプレイングゲームおよびシミュレーションゲームアプリのカテゴリーでトップの座を維持し、App Annieの2015年6月のIndex・ゲーム編でも全世界のiOSゲームランキングで第4位に入りました。
Agar.ioで興味深い点は、上に挙げた例のように、歴史あるブランドやゲームプレイという強みをもたないことです。通常このような人気を確立するには何年もかかりますが、Valadares氏とMiniclipはわずか数カ月で絶大な支持を獲得したのです。
シンプルで中毒性のあるゲーム
新しいゲームでありながら、Agar.ioはユーザー間の交流やコミュニティーの構築に成功しました。先ほど述べたように、すべてのプレイヤーは細胞となって活動します。最初の細胞は小さく動きが速いのですが、餌や他の細胞を食べることによって大きくなり、代わりに動きが遅くなります。一見、大きくなることは不利なように思えますが、自らを分裂させ、前方に飛ばして離れた相手を攻撃したり、小さな複数の細胞に分裂したりすることができます。細胞の体が完全になくなるとゲームオーバーとなり、新しい細胞として最初からやり直しです。とてもシンプルですが、中毒性の高いゲームです。
また、プレイヤーは自分の細胞に自由に名前をつけることができます。一部のプレイヤーはこの機能を使って、他のプレイヤーと事実上のチームを組んでいます。一部の決まった名前をつけると、細胞のスキンがそれにちなんだものになります。例えば、日本やカナダといった国名を細胞につけると、細胞のスキンがその国の国旗になります。地球や火星などの惑星のスキンもあります。このような機能は、チームワークや親しみやすさ、さらには競争心につながっています。
このようなシンプルな仕組みのおかげで、対戦型マルチプレイヤーゲームのなかでもAgar.ioは非常に親しみやすくなっています。また、ゲーム画面にトップ10ランキングが表示されるため、ユーザーは自分の細胞をランキングに載せたいという気持ちをかき立てられます。反対に、ほかのプレイヤーを助けるために、自分の細胞の体を積極的に食べさせるプレイヤーもいます。
Agar.ioはiOS App Storeで5,472人のユーザーから5つ星評価を獲得。 その多くは、最初のウェブ版のゲームを気に入っていた人たちです。Agar.ioのiOS版のユーザーレビュー8,000件のうち半数以上が、中毒性が高く展開の早いゲーム内容を評価しています |
ソーシャルメディアでのトレンド形成
Agar.ioが生まれたのは、ネット掲示板であるReddit、4chanです。このような場所では、プレイヤー同士が交流し、開発者とも直接やり取りができました。その流れはFacebookやTwitterといったソーシャルメディア系サイトに押し寄せ、Agar.ioは口コミで広まりました。そこからAgar.ioはPewDiePie氏やMarkiplier氏といった人気ユーチューバーに取り上げられるようになり、彼らのプレイ動画は何百万もの再生数や高評価を獲得しました。動画ストリーミングサイトのTwitchには、Agar.ioを特集したり専門に取り上げるチャンネルが数十もあり、有名なゲーマーがこのゲームを日々プレイしている様子を公開しています。
Agar.ioはまず大規模なオンラインコミュニティーで生まれて成長し、Miniclipにとって理想的なプロジェクトとなりました。Miniclipがモバイルに移植したウェブゲームはAgar.ioが初めてではなく、これまでにもオリジナルのウェブゲームをiOSとAndroidに多数移植しています。
アプリ開発者へのヒント
ソーシャルコミュニティーを通じて人気を得たAgar.ioのケースですが、これは真似のできないやり方というわけではありません。人々の関心を集めるアプリを作りたい開発者は、Matheus Valadare氏、Miniclip、および前述したその他のゲームから多くのことを学べます。例えば、最初からiOSやAndroid版の開発にリソースをつぎ込むのではなく、まずはウェブブラウザからスタートすることで、ユーザーの注目度を評価し、プレイ内容をテストする方法です。Agar.ioのシンプルで中毒性の高いマルチプレイヤー型ゲームは、ウェブ版で簡単にテストや調整が可能です。
ウェブで試作品を公開することで、コミュニティーから貴重なフィードバックを得られます。Redditは、試作品を公開してユーザーから意見を得るのに最適でしょう。Redditでの公開はハードルが高いと感じるなら、GitHubやStack Overflowといった、ほかの開発者コミュニティーもあります。こういったコミュニティを活用すれば、製品をさらに練り上げてから一般に公開することができます。アプリの人気が出てきたら、Twitterなどのソーシャルメディアでブランドの認知度をさらに高めましょう。そのうち有名なゲーマーがアプリの評判を聞きつけて、彼らの大規模なコミュニティーに広めてくれるかもしれません。
最初に優れたゲームやアプリをウェブ版で開発すれば、モバイル版をリリースする頃には、すでにユーザーの支持やマーケティングを確立できている状態になります。これから登場するアプリも、このようにしてAgar.ioの成功を再現し、1カ月でランキング上位に食い込み、数百万のダウンロードを獲得することが可能なのです。
本稿は、App Annie 公式ブログ にて2015年7月28日に公開されたコンテンツを転載したものです。
執筆者紹介
App Annie
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