広告ブロックツールはモバイルウェブの世界で勢いを増しています。ユーザーはこれを利便性と接続速度を理由に評価するかもしれませんが、広告主は対応策を見つけ出さなくてはなりません。

このような状況はAndroidでは既に長く続いていますが、iOSも最新バージョン(iOS 9)において、ウェブブラウザSafariで広告をブロックできるようになったのです。Safariは世界のモバイルトラフィックの22%を占めており、失われる収益は「たったの」10億米ドルだと推計されていますが、他にも広告のマネタイズへの長期的な影響が考えられます。

今回の記事ではニュースアプリに注目し、モバイルウェブ広告市場におけるこうした変化に適応するために、アプリ内課金による購読モデルを採用するメディアについて調べました。

iOSに登場した広告ブロック機能

この難題に対するニュースアプリの取り組みを吟味する前に、まずモバイル広告ブロックのトレンドを見てみましょう。2015年9月に公開されたiOS 9では、Safari内の広告をブロックすることが可能になりました。iOSアプリの開発者が、クッキー、ポップアップ、画像などをブロックする機能を実装できるようになったのです。iOS App Storeにはさまざまな広告ブロックアプリが登場し、幅広い層からダウンロードを獲得しています。

Crystalは、日本、フランス、オランダ、スウェーデン、米国などにおいて、有料iPhoneアプリのダウンロード数ランキングで首位を獲得(米国ではその後、順位を落とす)

Peaceの公開停止後に収益でリードしたCrystalは、2015年9月18日~2015年9月23日まで、有料iPhoneアプリの米国におけるダウンロード数ランキングで1位を守りました。またこの間、日本、フランス、イギリス、スペインなどでも、有料iPhoneアプリ全体のダウンロード数ランキングのトップ5に入り続けました。一部の国では、Crystalのダウンロード数は、2015年9月26日の週末に落ち始めていますが、フランスと日本では、有料iPhoneアプリの2位に踏み止まっています。

Adblock Browser for Androidは、もともと Firefox向け機能拡張だったAdblock Plusのスタンドアロン版

Google Playでは、Adblock Browser for Androidの時代が続いています。Adblock Browser for AndroidはAdblock Plusのスタンドアロン版です。Adblock Plusは2014年の間、Firefoxの拡張機能として提供されていました。拡張機能がウェブとモバイルの両方でファン層を着実に獲得していたことから、Adblock Browser for Androidは、日本、イタリア、フランスなどではすぐに、「通信」カテゴリーにおいてダウンロード数トップ30入りを果たしました。

広告ブロックアプリの流行について、ファイナンスの専門家は、広告収益全般への悪影響が懸念され、これがさらにウェブニュースのコンテンツ制作に影響するおそれがあると考えています。しかし、ユーザー基盤から収益を得る方法はほかにも存在します。それを以下で見ていきましょう。

マネタイズで先行する米国のニュースアプリ

米国のiOS App Storeの「ニュース」カテゴリーにおいて、The Wall Street JournalとNYTimesは2015年8月、収益とダウンロード数の両方で上位にランクイン

米国のニュースアプリを対象としたApp Annieの2015年8月の『Index』は、iOS広告ブロックツール時代への移行期において、好位置につけている複数のアプリ―The Wall Street Journal、New York Times、The Economist、The New Yorker―を掲載しています。最初の2つはダウンロード数でも上位につけており、さらにThe Wall Street Journalは2015年7月の10位から2015年8月の5位へと順位を上げました。これらのアプリは、モバイルウェブでの広告ブロックをアプリ内課金とアプリ内広告で克服しています。

モバイルへの転換とキュレーションサービス

The New York Timesはこの収益ランキング1位を獲得するより前の2015年3月、リソースをモバイルにシフトさせる方針を発表しています。その時点でトラフィックの50%以上がすでにモバイル機器からのものだったからです。同様に、The Wall Street Journalも2015年8月、トラフィックの44%がモバイル機器からのものであることを明らかにしました。

両社は、すでに人気を得ているメインアプリのほかに、新たな購読者向けアプリとしてそれぞれNYT NowとWhat’s Newsをリリースしました。これらのアプリは、各社の編集チームが選んだ記事を全面に打ち出し、新しい読者の関心獲得に一役買った可能性があります。

購読の促進

The Guardianのウェブサイトは、広告ブロックを検知すると、購読者になることを勧めてきます

購読プランへの登録を促すことも、大事な収益最適化戦略であり、広告収益の減少に対抗する手段でもあります。例えばThe Guardianは、読者が広告ブロックツールを利用しているのを自動的に検知し、「今日からサポーターになりませんか」というバナーを表示します。

ビジネスニュースのセグメントを狙うアプリが、The Wall Street JournalとThe Economist以外に2つ、ランキングを駆け上がっています。Harvard Business ReviewとBloomberg Businessweekです。アプリ収益のトップ10は、この両アプリがそれぞれ9位と10位に入り、「ニュース」カテゴリーの10アプリ中4アプリをビジネスニュースのアプリが占めました。

広告ブロックの今後

広告ブロックアプリは、過去においてAndroidやPCでそうだったように、iOS 9でも人気が高まっています。ケーブルテレビ離れの時と同じように、ライトユーザーを購読者にすることを狙って、プレミアムコンテンツに資金を投じているニュースグループこそが、モバイルからの収益の増大を維持するベストな戦略をとっていると言えるかもしれません。

なお、App Annieの調査・分析部門担当シニアバイスプレジデントであるDanielle Levitas(ダニエル・レビタス)は次のように述べています。

「長年の歴史を持つ購読モデルを考えると、The Wall Street Journal、New York Times、The Economistは、広告ではなく、アプリ内での購読を通して収益を拡大しやすいかもしれません。広告のないモバイル体験にお金を払う意思がある人を対象にして、素晴らしいコンテンツを配信するニュースグループや、消費者を自社アプリに誘導できるニュースグループは、iOS 9に登場した広告ブロックツールの人気をそれほど心配する必要はありません」

本稿は、App Annie 公式ブログ にて2015年9月29日に公開されたコンテンツを転載したものです。

執筆者紹介

App Annie

App Annieは、世界規模のアプリ市場データと分析ツールを提供しており、アプリビジネスにおいて迅速かつ確かな意思決定を支える情報プラットフォームです。自社アプリの競合優位性を詳細に把握するための分析ツールと、世界中のあらゆるアプリのビジネスをさまざまな角度から深く洞察するための市場データを提供しております。App Annieの製品は、アプリストアランキングのトップ100のパブリッシャーのうち94%以上、計50万以上のアプリに利用されています。