「寄り添うおもてなしの心」を第一のモットーとして、足立区エリアで介護事業を展開するわかばケアセンター。区内に9営業所を持ち、所属する約300名以上のヘルパーが地域密着型の介護サービスを日々行っている。高齢化社会が加速度的に進むなか、福祉事業者に対するニーズは日増しに高まっているという。

一方で、高齢者の日常を支えるヘルパーの人手不足は顕著な課題になってきている。増加していく利用者へ高品質なサービスを提供できるように業務効率化を図ることが社会全体で求められているのだ。

上記の課題に対応するため、わかばケアセンターではヘルパーをマネジメントするサービス提供責任者へスマートフォン「Nexus 5」を、ヘルパーにはタブレット端末「MediaPad 7 Vogue」を導入した。

タブレットとスマートフォンで介護サービスの業務効率化を図っている

介護サービスを取り巻く環境や現場が抱える課題

会長 北爪 考二氏

同社会長の北爪考二氏は、介護事業の現状や業務効率化の必要性を次のように語る。

「私たちの社会は刻々と超高齢化社会に向かっています。しかし、社会資本は限られており、人手不足という問題は慢性的に続いているのです。高齢者を支えるべき若い人達は年々減少しています。いわゆる少子高齢化問題が介護事業にも影響を及ぼしていますので、介護事業を営む我々としてはより業務の効率化を追求する必要があります。もちろん、より安全で質の高いサービスも同時に求められるのです」(北爪氏)

また、ITソリューション室長の渋谷直寿氏は同社の多忙な現場が抱える課題を以下のように語る。

ヒューマンリソース事業部 ITソリューション室長 渋谷直寿氏

「当社では1カ月あたり1万6,000件を超える介護サービスを利用者へ提供しています。そのため、忙しいヘルパーは朝8時から夜まで仕事に携わることとなります。さらに、ヘルパーはサービスを終えるごとに事業所へ戻り次の業務指示を受けるという移動の手間がありました。一方、サービス提供責任者は40名程度ですので月に担当する件数が約400件とかなりの数にのぼります。併せて、サービス提供責任者は日々ヘルパーへ業務指示を行い、サービス完了の報告を受ける必要があり、連絡件数も相当な数でした。また、サービス提供責任者は紙書類でシフト表を作成したり電話でヘルパーへ業務連絡を行っていたので、非常に業務負荷がありました。もちろん、サービスに抜け漏れがあってはならないため、業務上のプレッシャーもかかっていました」(渋谷氏)

システム化で介護サービスの業務効率を向上

高齢化社会を支える介護事業者にとって業務の量・質ともにさらなる経営努力を求められている状況を受け、わかばケアセンターは業務効率化およびサービスの質向上という課題に対応するため、業務を抜本的に見直すことにした。具体的には、従来の紙書類による業務管理手法や電話・口頭によるヘルパーへの指示といった業務の進め方を改革することである。そして、選択したのが介護サービス全体のシステム化であった。

ヒューマンリソース事業部 ITソリューション室 兵頭 眞琴氏

「2012年頃より業務全体のシステム化を検討していましたが、無理なくITを活用してもらうという点が非常に高いハードルでしたね。職員の中でもITリテラシィーに差はあり、ヘルパーは50~60歳代が中心のため個人で携帯電話を持っていない方もいます。当然、メールでの連絡もできません。こういった環境で業務のシステム化を図るには、誰もが簡単な操作で滞りなく業務を行えるITの仕組みづくりが求められました」と語るのは、ITソリューション室の兵頭眞琴氏だ。

そのようなニーズが上がってきたなか、ソフトバンクから同社へ提案したのがスマートフォン「Nexus 5」とタブレット端末「MediaPad 7 Vogue」だった。これらのデバイスを利用することで、同社が検討していた「Google Apps for Business」による業務管理や資料などの情報共有がスムーズに行え、ヘルパーもスケジュール確認や業務連絡を簡単にできるようになる。そして、価格や通信コスト・機能要件を満たすデバイスである点を評価して渋谷氏は導入を決めたという。

「2013年9月からヘルパーへMediaPad 7 Vogueを順次配布しました。タブレット端末で利用する業務アプリケーションについてはベンダーと相談しながら、3タップ以内で業務上必要な操作が完了できる極めてシンプルな独自のインターフェイスを開発しました。また、タブレット端末の配布時にはその都度研修も実施しました。ただ、人によっては基本操作から懇切丁寧に研修する必要がありましたので、介護の現場において本格利用が定着するまでには1年ほどかかりました。現在では、ヘルパーのタブレット端末利用に関する感想は良好です。ヘルパーはいちいち事務所に戻ることなく、外出したままタブレット端末から日々のスケジュールや業務指示の確認、業務完了の報告を行えるようになりましたので、介護サービスの飛躍的な効率化が実現できました。また、介護サービスの抜け漏れが防げるので、会社の信頼度のアップにもつながっているようです」(渋谷氏)

従来、業務報告を行っていた紙の書類(左)がタブレット(右)に置き換わった

一方で、サービス提供責任者が利用しているNexus 5の導入効果についてはどうだろうか。

「サービス提供責任者も日中は外出先での業務がほとんどです。そのためヘルパーから報告を受けるのは事務所に戻ってからになります。場合によっては、報告を確認するのが数日遅れてしまうこともありました。しかし、Nexus 5を利用することでヘルパーが予定どおりサービスを行えているか、トラブルが起きていないかなどをリアルタイムで報告を受けられるようになり、現状をつぶさに把握できるようになったのです。また、支援経過という書類があるのですが、Google ドライブを活用することにより出先で利用者の支援経過を確認できるようになりました。サービス提供責任者にとっては、リアルタイムで業務に必要な情報を確認できる点が一番のメリットとなっています。加えて、特定事業所として業務が増加したにもかかわらず、残業は減少傾向にあります」(渋谷氏)

さらなるICT活用で介護サービスの充実化に挑戦

スマートデバイス導入によって、同社の介護サービスは飛躍的に業務効率が上がった。また、特定事業所の同社にとって、業務指示や報告履歴を確実に残せるようになったこともメリットの1つだ。さらに、同社は現状に留まることなく、一歩先・二歩先を目指したスマートデバイスの有効活用方法を模索している。たとえば、介護サービス利用者の「見守りシステム」などがそうだ。こちらはワイモバイルが提供するタブレット 端末「MediaPad M1 8.0 403HW」をテスト利用しているという。会長の北爪氏は以下のように語る。

「人間を人間たらしめる不可欠な要素はコミュニケーションであると考えています。そこで、利用者がタブレット端末を介して相手と直接コミュニケーションをとる見守りシステムを試行している最中です。たとえば、遠く離れて暮らしているお子さんが親の様子を見ながら会話できる仕組みですね。寝たきりの方であればベッドにタブレット端末を設置することで、身体に負担がない形でコミュニケーションを楽しめる。現在、東京電機大学と研究を協同で行いながら、独り暮らしの老人の方であっても人とつながれる喜びを提供できるような仕組みを開発しています」(北爪氏)

さらには、タブレット端末による見守りシステムだけではなく、脈拍や活動量計といったライフログの記録やGPS機能による徘徊防止などを実現できるウエアラブルのデバイスも産学共同で実現に向けて動いている。また、現在は他の介護事業者や医師・看護士と情報を共有するために紙の書類を一部使わざるを得ないが、可能な限りペーパーレス化を目指しているという。独自に開発中の紙に記載した内容をデータ化する電子メモ帳や押印の電子化ツールなどによって100%に近いペーパーレスが可能になるだろうと渋谷氏は語る。

ウエアラブルのデバイスで利用者の健康を見守る仕組みも開発している

来たるべき超高齢化社会に対応するために、スマートフォンやタブレット端末を有効利用し、介護サービスの質・量の向上を追求し続けるわかばケアセンター。第一のモットーである「寄り添うおもてなしの心」を広め充実させていくために、同社は今後とも同業他社に先駆けたICT活用を行っていく。その試みによって、未来の介護事業の在り方が具現化されていくことだろう。