PHSを導入している企業にとって、業務用携帯をスマートフォンに変更することには高いハードルを感じるかもしれない。セキュリティが心配、使いこなせるのか、何よりコストアップが気になる…などは導入担当者の悩みの種だが、スマートフォンを導入することで外出先から社内メールを確認できるなど、かねてからの業務課題が解決し、コスト以上の効果を実感している企業がある。
家庭用家具の製造から卸を手掛けるカリモク家具は、外回りの営業担当へ業務用携帯としてスマートフォンを配付した。
その概要は、以下の動画のようなものだ。
スマートフォンを配付され、素早い顧客対応が可能に
営業担当の赤松絵理氏は昼前には社用車で顧客先である家具店などを巡るのが日常の業務スタイルだ。
最大の業務変化は、「外出先でも社内メールを確認できること」と赤松氏はいう。以前は、営業所を午前中に出てから夕方17~18時頃に戻るまで、メール確認ができず不便だったという。
「営業所に戻った後にまとめてチェックしていましたが、そこからメールの返信をしたり、対処方法を考えていたのでどうしても対応が遅くなってしまうのが悩みでした」(赤松氏)
手元のスマートフォンから社内メールが閲覧可能になったことで業務は快適になったという。
「車をいったん停めて、少しの時間でも端末から対応できるので、移動時間も有効に活用できるようになりました」(赤松氏)
カメラ機能で家具の画像を撮って情報共有に役立てることも多い。
「お客様相談室や家具店から連絡が入り、直接お客様宅までお伺いして商品の状態を確認することがあります。家具の修理に関する判断や対応内容はメンテナンス部門が行いますので、家具の傷の状態や問い合わせ個所を写真に撮って、担当者へメール送付します。すぐに対応できるのでとても助かります」(赤松氏)
以前のPHSはカメラの画質が悪く、傷の詳細まで確認できなかった。営業所に1台ずつデジタルカメラも配置されていたが、PC経由でデータを送付せねばならなかったり、スマートフォンのように画像を自在に拡大して確認できず不便だった。
「椅子などの小さな家具なら持ち帰って工場で確認できますが、大きな家具はトラックなどの手配が必要で手間と時間がかかります。写真を撮ってすぐに工場担当者へ状態確認できるのでお客様への対応が早くなりました」(赤松氏)
このほか、家具のカタログもスマートフォンから確認している。社用車にもカタログは備えてあるが、手元にないタイミングで問い合わせを受けた際、iCata(企業向け電子カタログをスマートフォンやタブレットで閲覧できる無料アプリ)に公開されている自社のカタログを開いてすぐ品番を調べて対応するなど「その場で」の対応が業務スタイルを変化させた。
メンテナンスコストのかかりだしたPHSからAndroidへ切替
導入のきっかけは、PHSを新しい端末への移行を検討したことだ。導入から3年経過したPHSは故障や電池切れが増え、その度に1~2万円の費用がかかり、メンテナンスの手間が発生するようになっていた。
「そんな時、ソフトバンクテレコムからレンタルでスマートフォンを導入できると提案を受けました。ちょうど、カーナビの導入も検討しているところでした。営業車280台ほどにはカーナビを積んでいなかったのですが、スマートフォンを導入すれば、携帯電話とカーナビの両方を兼ねることができます。さらに、営業所に配付しているデータカードもテザリング機能を利用すれば大半が不要になります。総合的なメリットを感じてスマートフォンへの移行を決意しました」と、導入経緯を語るのは、総務の加藤正之氏だ。
端末は、カーナビを兼ねるため画面が大きく見やすいものが条件だった。
「当時は比較的大きな画面だった5.2インチ端末である302SHを選定しました」(加藤氏)
営業担当の赤松氏はAndroidのカーナビが使いやすく気に入っているという。
「営業所からお客様先へ行くルートは頭に入っているものの、得意先から別の得意先へ向かう場合や、突発で入った問い合わせ対応のお客様先へ向かうにはカーナビがあると効率がいいです。Androidのナビは、音声案内もしっかりしていて、曲がる際のアナウンスもタイミングがよく、ナビとして十分使えます。最初は座席の脇に置いていましたが、車にクリップで取り付けるタイプの付属品を買ってきて便利に使っています」(赤松氏)
セキュアな環境で社内システムも閲覧可能に
スマートフォンから社内システムへの接続は、PhoneConnect(株式会社日立情報通信エンジニアリング提供)を利用しIBM Dominoにアクセスしている。メール・スケジュールのほか、社内掲示板も閲覧できる。ID/パスワード認証はもちろん、セキュリティ機能として、使用OSや機器の種類の制限やなどが実装されている。
「メール本文の閲覧はテキストのコピーや保存が不可となっており、くわえて添付ファイルが見られるオプションにも加入しているので、メールに添付されているファイル(Microsoft Excel、Word、PowerPoint、Adobe PDF、jpegなど)の参照も可能です。これらは情報をサーバーの中で画像データに置き換えて閲覧可能にする機能なので直接データ自体を編集できませんし、画面のキャプチャも制限されているため端末にデータが残らないのでセキュリティ面でも安心です」と語るのは情報システム部の神谷浩氏だ。
以前の営業スタイルは、特に移動範囲が広い地方拠点の営業担当からは不満があった。 データカードは拠点単位の予算で利用頻度や目的に応じて個別に許可を出し導入していたが、そもそもノートPCの使用者ではない者など営業担当者全員が同じ条件ではなかったため、社外では社内メールなどの情報を得られない社員も多くいた。また、ほとんどの社用車にはカーナビも積んでいなかったため、広範囲を長時間車で移動するには不便だった。
「かねてからの営業担当からの要望を、スマートフォンに切り替えたことでセキュリティを担保しながら解消できました」(神谷氏)
端末は、ソフトバンクテレコムの「ビジネス・コンシェル デバイスマネジメント」で管理している。
「端末の位置情報はGPS機能ですぐに特定できます。データカードは個人配付ばかりではなかったし、場所の特定もできません。また、配付後に拠点で実際には誰が占有しているかなどどう利用されているかまでは分かりません。実際に所在不明となったこともあります。今は確実に利用状況が管理できるようになり安心ですね」(神谷氏)
アプリのインストールは社員から希望があったものを本社で確認し、業務上便利で有効だと判断したもののみインストール可としている。各端末にどのアプリが入っているかも確認できるので未許可のアプリを入れている端末があれば、管理者側で削除を指示することも可能だ。
PHSからの切替を機に電話帳もリニューアルした。これまでは、名前と電話番号のみ閲覧可能だったが、さらに携帯メールアドレス、社内メールアドレス、所属会社、部署、役職、拠点名の住所の情報まで確認できるようになった。
「vCard (.vcf ファイル)形式でデータを作成し端末に登録しています。検索窓から、所属、名前、読みなどを入力すれば詳細情報が検索できるので、苗字しかわからない場合でも役職など他の情報から推察でき、間違えずに連絡できて便利になりました」(神谷氏)
電話帳から連動してメールを送ったり、住所が入っていれば地図の確認もできる。また、302SHの読み取りカメラ(名刺内の文字情報を読み取り電話帳に登録できる機能)を利用して名刺を読み取って簡単に電話帳登録できるのも便利だ。
スマートフォンを導入すれば、電話、カーナビ、メールやカレンダーの閲覧、テザリングなどさまざまな用途に利用できる。ランニングコストや管理面、機能面から台数制限せざるを得なかったツールもスマートフォンなら業務課題をまとめて解決してくれる。データを取ってみたところ、月の平均パケット通信量もデータカードのみ利用期の1.5倍となり、以前より有効活用されていることが推し量れる。単体の端末コストだけをみれば、PHSよりコストアップに見えるが、実際にはデータカードとの二台持ちに比べて、ランニングコストが金額ベースでピーク時の70%までダウンした。結果的には、コスト的にも十分効果のある選択となった。