広島県・山口県・岡山県・島根県を中心に1000店舗以上のセブン-イレブンにデザートを供給するデリカウイング デザート工場では、製造現場の管理担当者に配布したPHSの故障多発に悩まされていた。具材の鮮度を保つため、製造工程の各作業場は室温を10~15度に管理しており、外気温との差が大きい。製造現場と事務所を頻繁に行き来する管理担当者が携帯するPHSは結露により数カ月と持たずに故障してしまう。
各製造工程の進行はリアルタイムでの連絡が必要
「例えば牛乳寒天を使うデザートの場合、液体材料を一定量まとめて蒸気窯で加熱してしまいます。これを容器に充填する次の工程で作業遅れが発生して一定時間内に処理しきれないと、牛乳寒天は充填前に冷えて固まってしまいます。このように各工程間の作業状況はリアルタイムに連絡を取り合って、タイミングを合わせて進行しなければなりません」とデザート工場長の東田 明宏氏は打ち明ける。
ところが製造現場の連絡用に導入していたPHSは結露や食材の詰まり、落下、水没などで故障が多発。利用可能な台数が減少したため、工場内の館内放送で担当者を固定電話口まで呼び出して、電話で状況の連絡を取り合う状況が続いていたという。固定電話による連絡は非効率で相手に余計な作業負荷をかけることになるから、差し迫った状況にならないと連絡しないなど、現場間の連携に課題を抱えていた。
同社が製造しているデザートのサンプル。左上から「さっぱり牛乳寒天」「ふんわりパンケーキ」「ミルクたっぷりとろりんシュー」「しっとりバターケーキ」「もっちり触感みたらし団子」。オリジナル企画が採用された「みたらし団子」と「バターケーキ」は地域限定アイテムで地元ではヒット商品だという |
総務部で設備の保守管理を担当する石飛 範行氏によれば「3年ほど前に固定電話を更新した際に契約したPHSは、導入当時は端末のレンタル契約はなかったので故障した端末は修理に出しますが、直ってくるまでに時間がかかり、修理費用も発生します。そして早いときには1カ月と持たずにまた故障してしまいます。結露対策として防水タイプのPHS導入も考えましたが、端末価格が高価で導入には踏み切れませんでした。ある時期にはPHSが次々と壊れて、製造現場との連絡手段はすべて館内放送で呼び出して固定電話で会話する状況となり、現場担当者に大きな負担をかけてしまい、これは何とかしなければと思いました」という。
PHSの契約更新を期に防水・防塵・耐衝撃対応のスマートフォンへ
PHSの契約更新時期が迫った2015年3月、同社は課題の多かったPHSを耐久性の高い端末に切り替える方針を打ち出した。業務部長 新本 和浩氏はその背景を次のように語る。
「当社の食品工場は、ここのデザート工場、同じ工場団地内にある弁当製造の広島工場、山口にある岩国工場の3拠点があり、3年前に3社間の固定電話回線にソフトバンクの『おとくライン』を導入しました。その結果、固定電話コストが30%以上も削減できたので、その実績を踏まえて役員向けのスマートフォンをソフトバンクのiPhoneに、社員用のフィーチャーフォンもソフトバンクに切り替えて同一キャリア間の無料通話を活用することにしました。その際、3拠点で電波対策を実施してもらいました。工場団地は人の住まないエリアなので、電波対策をしたソフトバンク以外の通信キャリアの電波はまったく入らない状況です」(新本氏)
この当時、デザート工場だけはコスト削減を目的にフィーチャーフォンではなくPHSの導入を決めたのだという。ところが、前述のとおり端末の故障が多発したため、ソフトバンクの営業担当者に相談したところ、防水・防塵・耐衝撃対応をウリにした最新機種「DIGNO U」を提案されたという。
「当初はフィーチャーフォンへの切り替えを想定していたのですが、防水・防塵・耐衝撃という特長に期待して『DIGNO U』に決めました。導入時には改めて工場内の各作業場で電波テストを実施して問題なく通話できることを確認しています。2015年5月に本格導入して2カ月ほど経過した現在、結露による故障もなく順調に運用できています」(石飛氏)
スマートフォンを活用した外国人従業員とのコミュニケーション
当初の目的は製造現場での音声通話を確実に行うことだったが、スマートフォンのメリットを生かした業務改善も進めていると品質保証部 主任の三浦 裕司氏は語る。注目しているのはスマートフォンの翻訳アプリを使った外国人従業員とのコミュニケーション円滑化だ。
「製造ラインで働く従業員は370人程、そのうち約20%は外国人で、特にベトナムからの留学生が多いです。日本語による基本的なコミュニケーションが可能な人を採用していますが、細かいニュアンスなどを的確に伝えられないのが現状です。デザートの品目はほぼ毎週新しいアイテムが追加されますし、繊細な盛り付けを必要とするデザートの製造工程は機械化に適さないため、ほぼ人手で作業しています。製造ラインで働く外国人従業員との意思疎通を円滑に進めるため、スマートフォンの翻訳機能を使えないか検討中です」(三浦氏)
翻訳アプリで代表的な「Google 翻訳」ではスマートフォンに向かって話しかけると指定した外国語で返答してくれるので、両手がふさがっているライン作業中の従業員との意思疎通に有効な手段となるだろう。翻訳アプリ以外でも、新しいアイテムの製造手順や完成形などを写真や動画で撮影しておき、スマートフォンを使って現場で情報共有する活用も始まっているという。担当者の変更時でも写真や動画を残しておけばスムーズな引継ぎが可能になる。
「ほかによく使うアプリとしては、やはり交通情報や天気予報ですね。工場からセブン-イレブン様の配送拠点へは1日3回出荷していますが、大雪や台風などの自然災害による交通規制や事故渋滞などが発生すると工場の操業にも影響が出ますので、配送トラックの運行状況に関わる情報は常にスマートフォンからチェックしています。また管理職は24時間365日工場にいるわけではありません。夜間操業中などで問題が発生した場合などでも、現場からスマートフォンで写真を送って状況報告を受けられるので初動を早くできるのもメリットだと感じています」(新本氏)
「Mobile Management Suite」を使ってキッティングを効率化
同社のAndroid端末導入に当たって注目したいのはソフトバンクが提供する「Mobile Management Suite with Google Apps」(以下、MMS)を使った端末管理だ。Android端末はアプリを新規インストールしたり既存アプリを更新するには「Google Play? ストア」からのダウンロードが必須となるが、そのためにはユーザーごとに「Google アカウント」を取得する必要がある。法人の場合、業務用として従業員に配布する端末に個人のGmailアカウントを利用させるのは運用管理上好ましくない。
法人として「Google アカウント」を取得するには従来、「Google Apps for Work」をユーザー数分だけ契約する必要があったが、月額利用料は最低でも500円必要だった。「Google Apps for Work」にはGmailのほかカレンダー、ドライブ、サイトなどの豊富な機能が盛り込まれている。これを全社標準のグループウェアとして利用するなら問題ないが、グループウェア機能は必要ない企業にとって「Google アカウント」取得のためだけに月額500円のコスト負担は割高と感じられていた。
そこで導入されたのがMMSで、Google Appsの端末管理機能だけに絞った月額200円のサービスだ(2015年5月11日提供開始)。ユーザーはこのアカウントを使って「Google Play ストア」を利用できるほか、管理者はMDM(モバイルデバイス管理)としてポリシー配信、アプリ監査、ブロック・リモートワイプ、ネットワーク設定が可能になる。
「電話帳共有など利用したいアプリがあったので『Google アカウント』は必須でした。ほかにも初期設定しておくべき作業がかなりあったのと、スマートフォン導入ではフィーチャーフォンよりもセキュリティリスクが高くなる分、きちんとした対応をしておきたいと考えてソフトバンクに相談したところMMSを紹介されました。安価に『Google アカウント』を使えるうえ、別途MDMサービスを契約しなくても端末管理を行えるので助かっています」(新本氏)
デザート工場へのスマートフォン導入の効果を確認した同社は、広島工場で利用していたフィーチャーフォンもスマートフォンに切り替えたという。すでに幹部社員にiPhoneを導入している同社では、全社へのスマートフォン導入が進んでいる。食品の品質管理に社会から厳しい目を向けられている昨今、同社のスマートフォンを活用した業務改革に注目していきたい。