ひとりの営業担当者が抱えている顧客のうち、常に取引が発生するのは全体の20%程度といわれている。普段あまり訪問できていない残り80%の顧客からどうやって案件を掘り起こすのかは、営業部門にとって頭の痛い課題だろう。訪問機会が少ないと過去の取引記録を見つけるのに手間取り、つい訪問を後回しにする……。そんな悪循環を断ち切る営業ツールとして、東京冷機グループではAndroidスマートフォンと「GPS Punch!」を活用している。
その内容は以下の動画のようなものだ。
GPS Punch!の導入で営業担当者の動きに変化が
GPS Punch!はその名のとおり、スマートフォンのGPS情報を使って地図と各種情報を連動させ業務支援を行うクラウド型のソリューションだ。一般にスマートフォンの位置情報を管理者のパソコン画面上にリアルタイムで表示させるGPSアプリは、従業員に常時行動を監視されているという圧迫感を与えるため、導入に慎重な企業もあると聞く。この懸念について、大宮営業所 所長 森淳氏はきっぱりと否定する。
「GPS Punch!の導入が決まった当初、私自身もGPSで常時監視されていることへの抵抗感や息苦しさはありました。しかし、すぐに慣れて気にならなくなるものです。同僚の誰がどこにいるかに興味を持つのは導入当初だけ。慣れてくると同僚の行動を見ても面白くないですから、だんだん気にしなくなります」(森氏)
GPS Punch!の機能は、地図上にデバイスの位置情報を表示するだけにとどまらない。自分の現在地から一定の範囲に所在する顧客の位置を地図上にアイコンで示すとともに、その企業の取引状況や担当者名といった営業活動に必須の情報も簡単な操作で確認できる。これらの情報は基幹システムに蓄積した顧客情報と同期させるほかに、営業担当者が訪問時にどのような活動をしたか随時記録していくことも可能だ。
「使い始めて1カ月もたたないうちにGPS Punch!の便利さに気付いて、自分の業務改善の方に関心が移っていきました。ツールを使うことで訪問件数が増えることが分かると、こうした新しいツールを使いこなすのが苦手なベテラン社員ほど積極的に活用するようになりました」(森氏)
同社の営業スタイルは既存顧客の定期訪問が中心だ。一人の営業担当者は100~200社の担当顧客を持っているが、そのうち常時引き合いのある顧客は全体の20%ほどで、こちらの対応を優先せざるを得ず、どうしても残り80%の顧客訪問に手が回らなくなる。以前の訪問件数は1日3~4件程度だったという。
「訪問件数はおよそ2倍に増えました。引き合いのあったお客様への訪問後、GPS Punch!で付近のお客様を調べ、空き時間でもう一件訪問できるようになりました。これは単に地図情報が便利だからというだけではありません。あまり訪問できていないお客様は、手持ちの情報が少ないものです。本来はオフィスに戻って取引台帳から顧客情報を調べてからでないと訪問しづらい。ところが、GPS Punch!には訪問に必要な顧客情報や過去の取引状況が登録されており、簡単な操作でその情報を引き出せます。そしてナビ機能もすぐに立ち上がってルート検索できるので、訪問するためのハードルが低くなりました。営業は名刺を置いてくるだけでも全然違うものです。訪問件数の増加は、将来的に間違いなく売上増に結び付くでしょう」(森氏)
管理職と営業担当者との意思疎通についても大きな改善があった。営業担当者は直帰や会議などにより日報を数日分まとめて書くこともあり、訪問時の会話内容を詳細に報告するのは難しくなる。GPS Punch!には商談内容を記録できる機能があるため、訪問直後に入力した内容をオフィスにいる上司はパソコンからリアルタイムに把握できるようになった。
「GPS Punch!を使えば誰が、どのお客様と、どんな会話をしたか、すぐ分かりますから、帰社した担当者にこちらから適切なアドバイスを出せるようになりました。以前は、部下全員にヒアリングをしないと状況を把握できず、結果的に情報管理は担当者の個人任せになっていました。いまはGPS Punch!に情報を蓄積していけるようになり、これは大きな武器になると感じています。例えばお客様の担当者が電気系の経歴だという情報を入れておけば、そこから引き合いが来たときに、電気に強い方だから省エネの情報を盛り込んでおこう、などと過去のキーワードを活用できるようになります。人事異動や担当変更の際にも、過去の関係がリセットされて、一から関係構築するといった事態は防げます」(森氏)
東京営業所の営業担当者、大東貴義氏もスマートフォンとGPS Punch!による営業効率の向上を実感していると語る。
「以前は訪問予定のお客様情報を営業所のパソコンで基幹システムから抽出するという一連の作業に時間がかかっていましたが、そうした時間が大幅に短縮され、かなり楽になりました。また、地図上でお客様の位置関係を確認できるので、空き時間で訪問できるかどうかの判断もつきやすくなっています。GPS Punch!の住所情報からすぐにルート検索を起動できるのも非常に助かります。以前のようにお客様の所在地を見つけるのに戸惑うこともなくなりました」(大東氏)
GPS Punch!との親和性でGoogle Appsを選択
スマートフォン導入の経緯について、従来使用していたフィーチャーフォンの更新時期に当たる2015年は、社内システムの更新時期とも重なり、業務改善につながるICT施策を打ち出す絶好のタイミングだったと導入担当者である伊藤昌裕氏は語る。
「社内運用していたメールシステムをクラウド化して社外でもメールを見られるようにと、クラウド型のグループウェアとスマートフォンの導入を決めました。その際、紙の営業日報に代わって、商談で得た情報をデータとして残せる営業支援用ツールを用意したいと考えました。紙の日報や営業担当者のメモ帳に記録するだけでは、情報を社内で共有し活用するのが困難です。この課題解決のために自社システムの開発を検討していたところ、ソフトバンクから紹介されたのがGPS Punch!でした。説明を聞くと、情報共有機能や基幹システムとの連携など、当社がやりたかったことが実現されていたので導入を決めました。グループウェアは『Office 365』も有力な候補に挙がっていましたが、GPS Punch!とスケジュール連携が可能な『Google Apps』を選択しました」(伊藤氏)
Google Appsのカレンダーでグループ内の情報共有
現在では全社員にGoogle Appsのアカウントが付与され、外出の多いサービススタッフや設備スタッフ、管理職にAndroidスマートフォン「DIGNO U」(ソフトバンク)が配布されている。Google Appsの導入により、外出先でもスマートフォンからメール確認ができるようになった。以前はサービススタッフ以外のパソコン持ち出しは禁止だったため、会社に届いたメールをフィーチャーフォンに転送して確認していたが、添付ファイルの確認はできず、長文の返信メールを出すのも大変だった。また、Google カレンダーを使ったスケジュールの共有化も進んでいる。
「以前は部署ごとにExcelでスケジュール表を作って管理する状況でしたが、現在はGoogle カレンダーでスケジュール管理を統一しています。当社ではこのスケジュールのほかにも施工部門とサービス部門のスケジュールも運用しており、以前はそれぞれのスケジュールに同じ予定を書き込む2度手間が発生していましたが、各スケジュールを自動的に同期させるシステム改修を進めています」(伊藤氏)
「Google カレンダーでスケジュールを管理できるようになったので、例えば外出先で急に上司の同行を依頼したい場面になっても、上司の行動予定を確認してすぐに依頼できるようになりました」(大東氏)
同社がスマートフォン端末にDIGNO Uを採用したのは防水・防塵・耐衝撃対応の機種だったことが大きい。エアコンの室外機を点検するなど、屋外の作業が多いサービススタッフはポケットに入れたスマートフォンが汗で故障することがあるため防水機能は重要だという。東京営業所のサービススタッフである中野直之氏は、スマートフォンの使い勝手を次のように話す。
「整備する機器の状況をスマートフォンのカメラで写真に撮り、Googleドライブに保存してほかのメンバーと共有するといった使い方ができるようになって作業効率が上がりました。以前のようにデジカメで撮影して営業所に戻ってから画像ファイルを取り出すといった作業が不要になりました。また、Google カレンダーで設備スタッフと予定を共有できているので、点検などで訪問したお客様から急な見積もり依頼をされても、近くにいる設備スタッフに連絡して対応してもらうといったことも可能になりました」(中野氏)
GPS Punch!は当初、営業担当者のみの利用でスタートしたが、導入効果が高いため今後はサービススタッフや営業以外の設備スタッフへの展開も検討中だという。また、現在はGPS Punch!の訪問記録と並行運用している紙の日報を廃止するほか、スマートフォンから入力した訪問記録を基幹システムに取り込めるシステム改修も進めているという。あらゆる情報を電子化して基幹システムで管理し、スマートフォンから参照・更新できるようになれば、同社の業務効率はさらに向上するだろう。