市場のパラダイムシフト
インテルはPC市場の爆発的な成長の大波に天才的なサーファーのように乗って自らが成長して頂点に達した。これは言い方が逆かもしれない。まさにインテル自身がPC市場の成長という大波を起こし、それと伴にあれよあれよという間に半導体市場の圧倒的な横綱になり、今でも君臨していると言うほうが正確だろう。そこに至った要件は次の通りと私は考えている。
- アナログからデジタルへの急激なシフト。
- そのシフトの中心的なプラットフォームとしてのPCの出現、またその市場の一般消費者への広がり(コンピュータを個人が所有するなどという考えはその創造者IBM、インテル、マイクロソフトでさえも予見できなかった!!)。
- デジタル機器の技術イノベーションの主役である半導体デバイスと、その技術革新の主導権をマイクロプロセッサの開発と半導体微細加工技術の向上(ムーアの法則)により加速し市場全体を主導。
- インターネットの出現とその爆発的拡大(これについてはさすがのゴードン・ムーア自身も予見できなかったと最近のインタビューで認めている)。
- インテルのCPU(ハード)とマイクロソフトのOS(ソフト)の組み合わせという分業ビジネスモデル:お互いが競合関係になく、開発コストを重複して負担しないで専門分野に注力できる(Wintel)と言う独占体制。
- 市場独占を確固たるものにする卓越したマーケティングの確立:数字(インテルの場合はクロック周波数)の上昇が商品の価値を決定づける解かりやすいメッセージング、しかし競争相手に絶対付け入られないよう、かなり"えぐい"独占企業にしかできないマーケティングの立案と実施(このマーケティング手法は今では当たり前になっている)。
インテルの競合AMDに勤務した身で、"これらの条件が全て同時に揃ったのだから成功して当たり前だろう"、などと言う気は全くない。インテルの凄さはこれらを意識的に自身で主導してやり切ってしまったところにあると思う。ではなぜ今インテルが苦戦しているのか? その考察は上記のインテル成功の要件を今の時代に置き換えてみるとわかりやすい。一言で言えばパラダイムシフトだ。項目の順番通りに列挙する。
- 電子機器の主要部はすべてデジタル。という事は資金とIPの問題をクリアすればだれでもコピーできる。商品のコモディティー化。
- プラットフォームとしてのPCは既に役割を終えている。スマートフォンがそれにとって替わったが、それだっていつまで続くかわからない。
- ムーアの法則は今や10ナノ以下の半導体微細技術に到達していて、同じ技術手法による革新はもはや通用しない。物理的な限界に突き当たっている
- インターネットは当たり前のインフラになり、ハードウェアはタダ同然の道具になってしまっている。
- 今や、ハードとソフトの境界線は存在しない。その証拠に、その分野で主役だった企業がその垣根を崩しにかかっている(例:アップルの成功、マイクロソフト自らSurfaceと言うPC(デバイス)を提唱、Docomo、Au、Softbankなどのスマホの代表的キャリアーはハードをタダにして顧客の囲い込みに躍起になる……などなど)。
- エンドユーザーがすでにに十分な性能を低価格で手にしていることに気が付いてしまい、これ以上のハードウェアの性能向上には興味がない:ハードのマーケティングが成立しない、悲しいことにスパコン並みのコンピューティングパワーでも、消費財になってしまってしまった今となっては、唯一の差別化は値段と言うことになってしまう。
これからインテルはどこへ行くのだろう?"どうする、インテル!?"。
(次回へ続く)
著者プロフィール
吉川明日論(よしかわあすろん)
1956年生まれ。いくつかの仕事を経た後、1986年AMD(Advanced Micro Devices)日本支社入社。マーケティング、営業の仕事を経験。AMDでの経験は24年。その後も半導体業界で勤務したが、今年(2016年)還暦を迎え引退。現在はある大学に学士入学、人文科学の勉強にいそしむ。
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