今回のテーマは「機体構造の保全・構造管理・寿命管理」である。これも機体がらみの話なので、機体関連の話がいろいろ出てきたところで、あわせて取り上げておこうと思う。

飛行機の寿命は何で決まる?

モノにはみんな、何かしらの「寿命」がある。では、その「寿命」はどうやって決まるのだろうか。

たとえば、構造的にはまだまだ使えるものであっても、商品性がなくなったとか、陳腐化してユーザーがソッポを向くとかいう理由で、商品としての寿命が尽きてしまう場合がある。そこで鉄道車両でよく行われているように、(物理的な)寿命の中途で延命を兼ねたリニューアルを行い、商品性の維持を図るケースもある。ただ、飛行機の場合にはこうしたケースは多くないようだ。

飛行機の場合、飛べなければ仕事にならないので、その「飛ぶ」ための機能を実現する主翼、あるいは人やモノを収容する胴体部分の構造強度が最大の問題になる。

飛行に際してはさまざまな負荷がかかるし、機内を与圧していれば、飛行の際にかかる負荷に加えて機体内外の圧力差による負荷も発生する。そうした負荷が機体構造材を劣化させて、使用に耐えない状態になると「寿命」である。そして、「寿命」を示す具体的な指標としては、「累計飛行時間」が用いられることが多い。

だから、激しい機動飛行を行う戦闘機は旅客機よりも寿命が短い。飛行に際して機体にかかる負荷が桁違いだからだ。戦闘機の寿命は一般的に、累計飛行時間4,000~8,000時間ぐらいとして設計するから、2時間のフライトを2,000~4,000回やれば終わりである。

その旅客機でも、頻繁に離着陸する機体は機体内外の圧力差が変動する回数が増えるので、それだけ機体構造材が劣化しやすくなる。つまり、累計飛行時間が同じであったとしても、国内線で頻繁に離着陸を繰り返している機体と、国際線で少ない離着陸しかやっていない機体とでは、当然ながら前者の方が寿命が短い。ボーイング747が日本国内線専用のSRモデルを用意した所以だ。

逆に、飛行に伴う構造負荷が少なく、かつ機内を与圧していない、たとえばヘリコプターや軽飛行機は長持ちするといってよいだろう。

しかし実際には……

と、ここまでは理屈・建前の話である。

実際のオペレーションでは、負荷のかかり方も、離着陸の回数も、個々の機体ごとに差が生じるのは避けられない。そして、機体構造に負荷がかかる原因がいろいろある以上、その原因ごとの比率の軽重によって機体構造の劣化状況に違いが生じることもまた、避けられない。

にもかかわらず、機械的に「累計飛行時間がこれこれに達して設計上の上限を超過したので、用途廃止にします」というのは、いささか不経済な話だ。そこで、個々の機体ごとに運用状況や構造材の劣化・疲労状況を監視してデータをコンピュータで管理することで、ギリギリいっぱいまで使い倒そうという考え方が出てきた。

その典型例が、軍用機の世界で広く用いられている「機体構造保全管理プログラム(ASIP : Aircraft Structural Integrity Program)」である。航空自衛隊のF-4EJファントムII戦闘機が未だに現役を続けていられるのは、ASIPによって細かく寿命管理を行っていることと、それを受けた整備補修サイドの努力のおかげだ。といっても、早いところ後継機のF-35Aが出揃って欲しいところだが……おっと、閑話休題。

その辺の考え方をさらに推し進めると、機体構造材にかかる負荷データを常に収集し続ける、という考え方につながる。そこで登場するのが、HUMS(Health and Usage Monitoring System)だ。つまり、機体構造材の各所にセンサーを取り付けておいて、飛行の際にかかる負荷データを収集・記録する。そのデータを地上のコンピュータに取り込んで管理することで、より精確な構造管理・寿命管理を行えるという仕組みだ。

近年では、このHUMSによる構造管理体制が整っていることをアピールして、売り物にしている機体も存在する。それぐらい、「一度買った機体は寿命いっぱいまで使い切りたい」というユーザー側のニーズがあるということなのだろう。

それでも駄目なら替えてしまえ

ここから先は余談である。

ASIPを使おうがHUMSを使おうが、機体を飛ばしていればいつかは寿命が来る。しかし、予算上の理由などでおいそれと代替ができなかったらどうするか。そこで登場するのが延命改修である。といっても、エンジンや電子機器なら外してすげ替えれば済むが、機体構造はどうするか。

実は、老朽化した機体の機体構造材をすげ替えた事例は案外とたくさんある。具体例をいくつか挙げてみよう。

  • B-52爆撃機 : 機体外板を張り替え
  • F/A-18戦闘機 : 中央部胴体をまるごと新品に交換
  • P-3C哨戒機 : 主翼や尾翼の構造材を新品に交換(一部は外板の張り替えのみ)
  • AH-1W攻撃ヘリ : 胴体の前半部だけ新品に交換

「そこまでして使うのか」と呆れられそうだが、何かの事情があって新品を買えなければ、こうするしかない。

面白いところでは、空中接触事故を起こして損傷したF/A-18の前部胴体を、カナダで発生した中古同型機(こちらも事故機)の前部胴体と交換した「ニコイチ・ホーネット」の事例がフィンランドにあった(ちなみに現地では「フランケンホーネット」といった)。これで使える機体が1機増えて万々歳……と思ったら、完成からほどなくして墜落事故を起こして、今度は本当に喪失してしまうという悲しいオチがついた。

執筆者紹介

井上孝司

IT分野から鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野に進出して著述活動を展開中のテクニカルライター。マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。「戦うコンピュータ2011」(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて「軍事研究」「丸」「Jwings」「エアワールド」「新幹線EX」などに寄稿しているほか、最新刊「現代ミリタリー・ロジスティクス入門」(潮書房光人社)がある。