前回は最新鋭の戦闘攻撃機・F-35ライトニングIIを取り上げたが、今回は一気に時代をさかのぼり、1959年に最初の量産機が登場した艦上攻撃機、グラマンA-6イントルーダーを取り上げよう。「温故知新」というやつである。
DIANEという電子機器群
スティーブン・クーンツ氏の小説『デビル500応答せず(原題は『Flight of the Intruder』)は、グラマンA-6Aイントルーダー攻撃機のパイロットを主人公とする小説で、ベトナム戦争を舞台に設定している。
A-6AはDIANE(Digital Integrated Attack and Navigation Equipment)と呼ばれるアビオニクス一式を搭載して、夜間でも目標を見つけ出して攻撃できる能力を持たせた機体という触れ込みだ(参考記事:米海軍Webサイトの解説記事 [英文])。
ところが、くだんの『デビル500応答せず』を読むと、そのA-6Aのアビオニクスがヘソを曲げる場面がいくつも出てくる。例えば、レーダーを作動させて目標を見つけ出そうとしているのに、目標捕捉用のカーソルが画面上でちゃんと動いてくれないとか、コンピュータがいうことを聞いてくれないとかいう具合だ。
作者は実際に米海軍でA-6を飛ばしていた人物だから、この辺の記述は実体験を反映させたものである可能性が高そうだ。それに、A-6のうち、特に初期型のA-6Aではアビオニクス関連のトラブルが多かった、との話が伝えられているのは事実である。
しかし、まだよい代案はなかったようで、抜本的な改良は後日のA-6Eの登場まで持ち越しになり、それまで現場はA-6Aで苦労させられることになった。
話のついでに、DIANEを構成する機材の陣容を書いておこう。
- AN/ASQ-61デジタル弾道コンピュータ
- AN/APQ-92捜索レーダー
- AN/APQ-85追尾レーダー (後にAN/APQ-88やAN/APQ-112に変更)
- CP-729/Aエアデータコンピュータ(後にCP-863/AやCP-864/Aに変更)
- AN/ASN-31慣性航法装置 (INS : Inertial Navigation System)
- AN/APS-153ドップラー航法装置
- AN/APN-141電波高度計
- AN/ASW-16自動操縦装置
- AN/AVA-1 VDI(Vertical Display Indicator)
- AN/ASQ-57 IECS (Integrated Electronic Core System)
いきなり業界用語を並べてけむに巻いてしまった感があるが、要するに、レーダーによって夜間や悪天候下でも目標を見つけ出せるようにするとともに、航法機材を充実させることで迷子にならないようにして、全天候下で敵地に侵入して爆装を投下できるようにしようという機体である。
まだ精密誘導兵器がほとんどない時代なので、自由落下爆弾を使うことになり、投下の際には精確に狙いをつけないと当たらない。もっとも、目標の発見や正確な照準が必要になるのは精密誘導兵器でも同じだが、自由落下爆弾の方が難易度が高いのはいうまでもない。操縦操作ひとつで狙いが外れることもあるのだから。
コンピュータがトラブる
ところが、実際にベトナム戦争でA-6Aを実戦投入してみたら、特にレーダーやコンピュータの不具合が多発した。何しろ1950年代に開発した機体だから、まだコンピュータにトランジスタや真空管が使われていてもおかしくない。
実際、後になって登場した改良型のA-6Eで「コンピュータをソリッドステート化したAN/ASQ-133に変更した」なんて話が出てくるぐらいだから、これはA-6Aのコンピュータがソリッドステート化していなかったことの傍証になる。A-6Aではコンピュータだけでなくレーダーでも不具合が出たというが、こちらも電子機器の塊だから、事情は大同小異であったと言うべきだろう。
実際、先に挙げた機材リストの中でレーダーやコンピュータを途中で変更した話が出てくることからも、改良・換装が必要になるほどの事情があったのだとの推測は成り立つ。
ちなみに、IBMが集積回路を使用した大型汎用コンピュータ「System/360」を発表したのは1964年の話だが、この時点でもまだ「集積回路の信頼性には不安がある」といって、トランジスタなどと組み合わせたハイブリッド方式を使っていたという。それより先に登場したA-6Aのアビオニクスなら推して知るべしだ。
当然、かさばるし、デリケートになるし、電気を食う。しかも、運用する現場は高温多湿の東南アジア、おまけに空母から発着する艦上攻撃機である。着艦する度に衝撃を受けるのだから、デリケートなコンピュータに影響がないはずがない。
苦労があってこそ今がある
A-6に限らず、1950年代から1960年代にかけて開発された「電子機器の塊」みたいな軍用機は、程度の差はあれ、開発に難航したり、電子機器のトラブルや低可動率に泣かされたりしている。
A-6以外で電子機器に苦労させられた米軍機というと、個人的に真っ先に思いつくのはF-111アードバークだが、これがまた、レーダーとコンピュータを活用して夜間に低空を侵攻しようという機体だ。そりゃ苦労もするだろうというものである。
電子機器を安定して使えるようになったのは、1970年代以降の話といっても過言ではなさそうだ。アメリカ製の戦闘機でいうと、F-15イーグルやF-16ファイティングファルコン辺りより後の世代である。A-6はA-6E、F-111はF-111F辺りになってようやく、電子機器を換装することで安定稼働させることができるようになった。
しかし、そういう先人の苦労があってこそ、今のコンピュータ化された航空機があるわけだ。いつの時代にも、どんな分野でも、パイオニアは苦労するのだ。
しかし、トラブル続発でもなんでも、純然たる趣味的見地からすると、ユニークな外形と独特の能力を持つA-6は、個人的に好きな飛行機である。