表示デバイスの話は本連載の第60回で書いたが、そのときには表示の話だけで、マン・マシン・インタフェースを構成する車の両輪の片割れ、すなわち入力デバイスの話まで取り上げてはいなかった。そこで今回は、そちらの話を。

入力操作の種類

まず、航空機に限った話ではなくヴィークル全般にいえることだが、入力操作にどんな種類のものがあるかを、おさらいしてみよう。こんな分類になるだろうか。

  • オン/オフ操作
  • 選択操作
  • 数値入力操作
  • 文字入力操作

昔であれば、それぞれの機能・用途ごとに物理的な電気接点を持つスイッチがあり、そこまで配線を引っ張ってきていた。数値入力ならカウンター式のドラムがあって、それを回す形になるだろうか。文字入力は他の方法がないからキーボードやキーパッドだ。

燃料や空気圧や油圧だと、小型機なら操縦席まで配管を引っ張ってくることもあるだろうが、多くの場合には、それは難しいし、場所をとる。だから、直接的に制御するメカは別の場所にあって、そこに指示を出すための電気配線だけ操縦席に引っ張ってくることになる。たとえば、圧縮空気配管のコックが機内のどこかにあり、それを操作するためのスイッチをコックピットに設けて、両者を制御用の配線でつなぐ。

個々の機器が独立していて、かつ、機械的手段あるいはアナログ電気回路でコントロールしている場合には、そういう話になる。ところが、コンピュータ制御の機器が増えたり、個々の機器が(スタンドアロンで動作するのではなく)互いに連携・連接して動作したりということになると、話が違ってくる。

コンピュータ時代の入力デバイス

たとえば、慣性航法装置(INS : Inertial Navigation System)と自動操縦装置を連接することで、経由地(ウェイポイント)の緯度・経度を事前入力しておいて自動的にたどらせることができるようになった。

ということは、離陸前に経由地の緯度・経度を入力する必要があり、そのための入力デバイスが加わることになる。それにINSの場合、離陸前に起点となる位置の緯度・経度を入力しておかないと仕事にならず、そこがGPS(Global Positioning System)と違う。

緯度・経度は数字だが、東経・西経・南緯・北緯の別も指示しなければならないから、数字キーだけでは不足で、文字キーも必要になる。さらに、飛行経路の情報をFMS(Flight Management System)で管理するとなると、扱うべき情報の種類、入力すべき情報の種類が増えて、結局、アルファベット26文字を全部欲しいという話になる。

だから今の航空機の多くは、CDU(Control Display Unit)という形で、各種のデータ入力やモード選択の機能を集中して担当する機器を設けている。ディスプレイ画面、10キー、文字キー、ディスプレイを取り巻くようにして設けた操作用のキー、各種ファンクションキーなどといったものが並ぶ。

これが戦闘機になると、レーダーを初めとする各種センサーの操作、搭載兵装の設定や安全装置の設定/解除など、入力デバイスを必要とする場面がさらに増える。それをいちいち個別にスイッチやダイヤルでやっていたら、狭いコックピットがますます狭くなってしまうから、多機能ディスプレイ(MFD : Multi Function Display)の周囲を取り巻くように押しボタンを並べて、それで操作する。画面に表示している機能や動作モードによってボタンの機能が変わるのは、以前にも述べた通り。

ところが面白いことに、民航機はMFDのまわりに押しボタンを並べない。たぶん、そこまでしなくてもCDUがあればたいていの用は足りるということだろう。それに民航機の場合、大画面液晶を使ったMFDをタッチスクリーン式にする事例も出てきている。

軍用機でもF-35はタッチスクリーンだが、誤操作を避けるために、いわゆるドラッグ操作は受け付けない。この辺の思想の違いは用途の違いを反映する。もっとも、メーカーによっても思想の差異があり、戦闘機でもドラッグ操作をよしとするメーカーもあるが。

と、物理的な手段や形態はいろいろあるが、「入力機器を対応する機器ごとに個別に設ける代わりに、集約化する傾向が出てきたのは、アビオニクスの進化・高度化を受けた動きといえよう」というところがキモ。

物理的なスイッチはなくならない

ところが、「それならすべてCDUなりタッチスクリーンMFDなりに集約してしまえば、パネルにズラッと並んだスイッチをなくしてスッキリできるのでは」とはならないのが飛行機業界である。なぜか。

CDUにしろタッチスクリーンMFDにしろ、それを動作させるためのコンピュータが生きていることが前提だ。まさか当節ではそんな事故は起きないとは思うが、たとえば「エア・カナダのボーイング767ガス欠事故」みたいに、エンジンが止まって電源喪失ということもある。コンピュータが介在する入力装置は、電源を喪失したら何もできない。

その点、物理的なスイッチを設けて配線を引っ張ってくる方が確実だし、コンピュータの故障や停止に影響されない。だから、安全に関わる度合が高いモノほど、独立したスイッチやダイヤルが残されている傾向がある。

CDUやMFDは複数の機能を兼ねているから、動作モードや表示モードが変われば、別のモードに関する機能や状態は見られなくなる。物理的なスイッチやダイヤルならそんなことはなくて、常に見える形で存在する。

それに、他の方を見ながら手探りで操作するにも物理的なスイッチがある方がやりやすい。タッチスクリーンだと、いちいち画面を見ないとダメだ。身近なところでは、クルマのエアコンやオーディオの制御にも同じことがいえる。スマホやタブレット全盛の時代だからといって、なんでもタッチスクリーンにすればいいというものでもない。

そんな事情もあってか、コンピュータ化・グラスコックピット化が進んでいる最新の航空機でも、案外と物理的なスイッチは多く残されているものである。

執筆者紹介

井上孝司

IT分野から鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野に進出して著述活動を展開中のテクニカルライター。マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。「戦うコンピュータ2011」(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて「軍事研究」「丸」「Jwings」「エアワールド」「新幹線EX」などに寄稿しているほか、最新刊「現代ミリタリー・ロジスティクス入門」(潮書房光人社)がある。