航空機の運航管理に関する話題の締めくくりは、欧米でホットな(?)開発課題になっている、有人機と無人機の空域共有について取り上げてみよう。
無人機の飛び方・二種類
現在は、無人機(UAV : Unmanned Aerial Vehicle)と呼ばれることが多いが、その機体を中核として関連する地上管制ステーションなどを含めたシステム一式を指す無人航空機システム(UAS : Unmanned Aircraft System)、あるいは遠隔操縦式航空機(RPV : Remotely Piloted Vehicle あるいは RPAS : Remotely Piloted Aircraft System)といった言葉もある。
ともあれ、無人機とはパイロットが乗っていない飛行機のことで、同様に無人であってもミサイルやロケット弾は対象に含まれない。その無人機をコントロールする際の方法は、大きく分けると二種類ある。
まず、RPV/RPASという言葉の通り、無線経由で遠隔操縦する、早い話がラジコン方式。地上にいるオペレーターが目視できる範囲を、目視できる気象条件(視界の良い日中)の下でしか飛ばない機体なら、これで運用できる。機体の姿勢や位置、周囲の航空機や障害物との位置関係を把握するのは、オペレーターの仕事である。
ただ、目視に限定すると運用可能な範囲が極めて限定されるので、機体に搭載したセンサーからの映像、あるいはレーダーなどのデータを利用して、もっと遠方まで進出させる形態も考えられる。
もうひとつの方法が、自律方式。つまり、本連載の第1回で取り上げた慣性航法装置(INS : Inertial Navigation System)やGPS(Global Positioning System)にオートパイロットを組み合わせて、自ら位置を把握して針路を決めるものだ。とるべき針路は、緯度・経度を組み合わせたウェイポイントという形で事前にプログラムしておく場合と、機上コンピュータが自ら判断・決定する場合がある。
無人でも航空機に変わりはないから、有人機と接触、あるいは衝突する可能性が考えられる。現在、有人機と無人機は使用する空域を分けているが、それでは無人機の利用拡大に対応できない可能性が指摘されている。
たとえば、大規模自然災害が発生した際に上空から無人機で偵察して状況を把握するとか、国境警備のために無人機を「空飛ぶ監視カメラ」として使う、といった利用形態が考えられるが、その際に無人機が飛べる空域や高度が制限されるのでは、無人機の活用にも限度がある。しかし、すでに有人の民航機が飛んでいる空域に無人機が入り込めば、衝突の危険性が生じる。
なお、軍用の無人機も空域を分けて運用しているのは同じである。
空域共有のために必要な技術
自律型の無人機でも、いざというときにはオペレーターが制御を奪い取れないと具合が悪いので、遠隔操縦機能を備えている。だから、無人機があれば無線による遠隔操縦は必須の要素ということになるのだが、そこで使用する無線の周波数が他の用途と共用になっていたのでは、混信や干渉の危険性がある。すると、無人機の運用が危険に晒される。
また、無人機は有人機と比べると、自機の周囲を飛んでいる他の航空機との相対的な位置関係を知るための状況認識能力に劣る。有人機ならパイロットが目視で見張ることで自機の周囲の状況を把握できるが、機体に人が乗っていない無人機では、そうはいかない。そこで、信頼できる状況認識手段が必要になる。
そこで登場するのが、前回に取り上げた空中衝突防止装置(TCAS : Traffic alert and Collision Avoidance System)である。有人機でも、衝突の危険性があるという警報が出たらTCASの指示に従え、とお触れが出ているぐらいだから、TCASは充分に信頼できる、熟成されたシステムに仕上がっているといえる。それを無人機にも搭載すれば、衝突回避の一助となる。
ただ、衝突回避という観点からすると、無人機の状況認識能力が有人機と比べて劣るのは確かなので、TCASだけ積めばOKなのかどうかは分からない。そもそも、すべての航空機がTCAS機材を搭載しているわけではないから、それが無人機と衝突しないようにする必要もある。
それに、実際に有人機と無人機を同じ空域で飛ばしてみて、不具合が発生しないかどうかを検証する必要もある。実際に有人機と無人機が接近したときに、両者がどういった回避機動をとるか、それによって何か問題が発生しないか、といったことを検証しなければ、安心して両者で同じ空域を共有することはできない。
日本でも、自衛隊や米軍が本格的な無人偵察機の運用に乗り出そうとしていることを考えると、これは他人事ではない。無人機と有人機の衝突を回避するための制度・規程・システムを可及的速やかに整備する必要がある。その際に、日本だけ違う仕組みにならないように注意する必要もある。欧米と相互運用性のない制度・規程・システムを整備してしまうと、運用面で問題を引き起こすし、コストの面でも高くついてしまうだろう。
ただ、制度・規程・システムの整備が実現するまでは、無人機の基地とオンステーションする空域、その両社を結ぶ回廊(コリドー)を有人の民間機が使用する空域とは分けて、物理的に衝突回避を図る必要があると思われる。
執筆者紹介
井上孝司
IT分野から鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野に進出して著述活動を展開中のテクニカルライター。マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。「戦うコンピュータ2011」(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて「軍事研究」「丸」「Jwings」「エアワールド」「新幹線EX」などに寄稿しているほか、最新刊「現代ミリタリー・ロジスティクス入門」(潮書房光人社)がある。