今回のお題は、UAV(Unmanned Aerial Vehicle : 無人航空機)には不可欠のアイテムである、地上管制ステーションである。以後はGCS(Ground Control Station)と略記する点、御承知いただきたい。
GCSとは
有人機であればパイロットが乗っているから、そのために操縦席があって、そこに操縦桿、方向舵ペダル、エンジン推力制御用のスロットルレバー、姿勢・針路・速度・高度などを把握するための各種計器、といったものを設置している。
ではUAVはどうするか。パイロットが乗っていないのだから、当然ながら操縦席もない。しかし、トラブルが起きたときには人が介入できなければならないから、自律飛行が可能な機体でも遠隔制御は可能になっていなければならない。遠隔制御(早い話がラジコン)の機体はいうに及ばずだ。
そこで、UAVにはGCSが不可欠の存在となる。要は、地上や艦上/船上に設置する「外出しした操縦席」だ。だから、機体の操縦に必要な装置も、操縦操作の際に参照するための各種計器も、GCSの必須アイテムとなる。
本格的なGCSを必要とせず、単に操縦操作だけできればよいのは、目視可能な範囲内でだけ飛行する、小型のマイクロUAVやミニUAVに限られる。最近、空撮用にカメラを取り付けた回転翼UAVがいろいろ出回っているが、この手の機体なら、本格的なGCSまで用意しなくても済みそうである。
しかし、遠方まで出張っていく機体になると話は別だ。実際、米空軍が使用しているMQ-1プレデターやMQ-9リーパーといったMALE (Medium-Altitude, Long-Endurance) UAV用のGCSになると、まさに地上に据え付けられたコックピットである。そして、機体の状況や、機体が備えるセンサーの映像を表示するためのディスプレイ装置まである。
ただ、この手の本格的なGCSになると、機体とGCSの間のデータのやりとりも多くなる。目視しながら遠隔操縦するぐらいなら、機体の姿勢・針路・速度は、計器に頼らなくても目視でおおまかな見当をつけられる。それであれば、GCSからUAVに操縦指令を送る程度のトラフィックで済む。
しかし、機体側のセンサーで得た姿勢・針路などの情報、さらに機体が搭載するカメラの映像まで送ってくるとなると、それなりにトラフィックが多くなるので、充分な伝送能力と信頼性を備えた通信手段が必要になる。その通信手段の話は次回に取り上げるつもりなので、今回は措いておくことにして。
専用機ばかりとは限らない
もちろん、大型・高級・多機能のUAVになれば、GCSにも機体に見合った能力が求められるので、必然的に専用の大掛かりな品物ができる。しかし、そうした事例ばかりではない。
小型の安価なUAVを操作・管制するのに、わざわざ専用のGCSを開発すれば、開発費も制作費も高くつく。所要の機能さえ満たせていれば、安くあげられるに越したことはない。
そのため、小型のUAVでは専用のGCSを用意する代わりに、市販品のノートPCで済ませることが多い。UAVから飛行情報を受け取って表示する機能、UAVに操縦指令を送る機能、そしてUAVとの間で情報や指令をやりとりするための通信機材と、そのためのインタフェースといったところが必要になるだろうか。
飛行情報の表示や、外付けのジョイスティックによる入力を受けて操縦指令を送る機能は、専用のアプリケーションソフトとして実現すればよい。そういったアイテムが揃っていれば、市販品のノートPCでも用が足りる道理である。ただし、UAVは屋外で運用するものだから、それを管制するGCSも屋外運用になる可能性が高い。
そのため、防塵・防滴・耐衝撃性能を備えた、「タフブック」のようなタフネス型ノートPCを使用することが多いようだ。ことに軍用の小型UAVでは、この手のタフネス型ノートPCに所要のハードとソフトを組み合わせてGCSに仕立てるのが、一般的なスタイルである。
センサーからの情報受信
報道機関が使用するカメラ付きUAVにしても、ISR(Intelligence, Surveillance and Reconnaissance、情報収集・監視・偵察)用途の軍用UAVにしても、機体を飛ばすだけでは仕事が完結しない。機体が備えたカメラなどのセンサーで得た情報を受信しなければならない。
そのため、この手のUAVと組み合わせるGCSでは、センサー映像を受信・表示・配信する機能も必要になる。幸い、動画のリアルタイム伝送に必要な技術は民生用としていろいろ出揃っているから、それを活用できる。あとは、充分な伝送能力を備えた無線通信機材があればよい。
センサー映像の受信機とUAV管制用のGCSを別々にする発想もあるが、どちらにしても、コンピュータ、それと所要のインタフェースや通信機器とソフトウェアを必要とするのは同じだ。となると、オペレーターが過負荷になるので担当を分けたい、という事情でもない限りは、両者を一体にしてしまう方が合理的ではないかと考えられる。
執筆者紹介
井上孝司
IT分野から鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野に進出して著述活動を展開中のテクニカルライター。マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。「戦うコンピュータ2011」(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて「軍事研究」「丸」「Jwings」「エアワールド」「新幹線EX」などに寄稿しているほか、最新刊「現代ミリタリー・ロジスティクス入門」(潮書房光人社)がある。