最近、無人航空機(UAV : Unmanned Aerial Vehicle)に関するニュースが増えてきたように感じる。軍用ではすでにおなじみのアイテムになっているが、民生利用の話がいろいろ出てきているようだ。

本連載では以前に、第5回でUAVと有人機の空域共有について触れたことがあるが、UAVそのものについて取り上げたことはなかったので、取り上げてみることにしよう。

なお、ドローンと呼ばれることもあるが、軍事畑の人間からするとドローンでは「無人標的機」のことになってしまうので、本稿ではUAVと表記することにする。

姿勢・針路の把握とAHRS

本連載の第26回で、オートパイロットについて取り上げたことがある。指示された針路を維持するだけの昔のオートパイロットならいざ知らず、現代では慣性航法装置(INS : Inertial Navigation System)やGPS(Global Positioning System)によって精確な位置情報を得られるので、事前に緯度・経度で指定した経由点を順番にたどりながら飛行することもできる。

それなら、その仕組みを使えばUAVは自律飛行できるのでは… と考えそうになるし、間違いではない。ただしその前段階として、自己位置だけでなく、機体の姿勢や針路を知る必要もある点を忘れてはならない。

有人機であれば、パイロットが機の姿勢を把握できるから、それに基づいて操縦操作を行えばよい。といいたいところだが、実は人間の感覚というのは意外とアテにならないもので、実際には水平姿勢なのに「傾いている」と勘違いするようなことが起きる。ときには、夜間の洋上飛行で漁火と星を間違えて、海面に向かって「上昇」しようとする事例もあるとかないとか。

そういうことにならないように、機体の姿勢や方位を示すための計器が設けられており、「自分の感覚よりも計器を信じろ」といわれるわけだが、いうは易く行うはなんとやら。ついつい計器よりも自分の感覚に頼ってしまい、いわゆる空間識失調(バーティゴ)に陥り、事故につながることがある。

ではUAVはどうか。目視できる範囲の近距離を飛行するラジコン操縦の機体であれば、方位も姿勢も外から見て判断することになる。すると、またぞろ外部の参照点を基準にして方位や姿勢を判断することになるので、間違いが入り込む可能性は否定できない。

もっとも、機体の動きをちゃんと見ていればすぐに間違いに気付いて修正できるということなのか、ラジコン飛行機が空間識失調で墜ちたという話は聞かない。単に筆者がその手の話を聞いていないだけだろうか?

機上コンピュータが自律飛行する場合には、パイロットが計器を見て姿勢・方位を参照するのと同じことをコンピュータにやらせる必要がある。だから、姿勢・方位参照システム(AHRS : Altitude and Heading Reference System)が不可欠の存在となる。

AHRSは、ジャイロスコープを使ってX軸方向・Y軸方向・Z軸方向の参照線を確保して、それを基準にして現在の姿勢・現在の方位に関する情報を得る。それをオートパイロットに送り、操縦操作が必要か、必要ならどの向きにどの程度か、ということを決める。それによってUAVの操縦操作が成立する。

大掛かりな機械式ジャイロスコープしかない時代には、小型のUAVに搭載できるような小型・軽量・安価なAHRSを実現するのは難しかったが、今ならリング・レーザー・ジャイロのような光学式ジャイロ(参照 : Wikipedia)があるので、実現は容易になったといえるだろう。

離着陸はどうする?

UAVの場合、有人機と違って離着陸の方法がいろいろある。大型で高級な機体なら、普通に滑走路を使って飛び立ったり着陸したりするが、それをUAVの機上コンピュータにやらせようとすると、これは意外と難しい。

同じ飛行機であることに変わりはないから、失速しないように速度や飛翔経路をコントロールしなければならない。離陸であれば、まず機体を滑走路の中心線に正対させなければならないが、そうすると滑走路の中心線を正しく把握できなければ始まらない。

それができれば、エンジンを吹かして速度を上げていき、しかるべき速度(例のV1・V2・VRのことを思い出して欲しい)に達したところで機首上げ操作をする。これで機体は浮揚する。

では着陸はどうか。これもやはり滑走路の中心線に正対する針路をとった上で、地表から3度ぐらいの角度を持つグライドパスに沿って降りていかなければならない。単に、着陸すべき地点の緯度・経度を入力すれば勝手に降りてくれるというものでもない。

だから、有人機が使用する計器着陸装置(ILS : Instrument Landing System)と同様に誘導電波に乗せて飛ばすとか、着陸進入中のUAVの飛翔経路を地上側で監視しておいて、適宜、修正指令を送るとかいった仕組みが必要になる。

機首にカメラを仕込んでおいて、それが送ってくる映像を見ながら地上管制ステーション(GCS : Ground Control Station)で遠隔操縦する方法もあるし、やっている事例もある。ところが、米軍では自動着陸より手動着陸の方が事故率が高いとの指摘がなされたことがあるのが興味深い。実際に乗っているのと遠隔操縦とでは、感覚が違うということだろうか。

そして、滑走路で離着陸する機体では、横風・追風の影響を考えなければならない。横風に流されれば針路がずれるから、修正したり、意図的に風上側に機首を振ってカニの横這いみたいにしながら飛ぶ必要もある。それをコンピュータにやらせて、かつ信頼性を確保しなければならないのだから、開発も大変だし、その後の試験・評価も大変だ。

小型のUAVだと、カタパルトで打ち出したり、もっと小型になると手で放り投げたりして発進させることが多くなる。これなら滑走離陸よりも単純な仕組みで済む。その手の機体は着陸に際しても滑走路なんて使わないから、指示された降着地点まで来たところで意図的に失速させてドスンと着陸させたり、パラシュートを展開させたり、あるいはインシツ社のSkyHookシステムみたいにケーブルでひっかけて行き脚を止めたりする。この手の方法なら、比較的シンプルな操縦ロジックで済みそうだ。

執筆者紹介

井上孝司

IT分野から鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野に進出して著述活動を展開中のテクニカルライター。マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。「戦うコンピュータ2011」(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて「軍事研究」「丸」「Jwings」「エアワールド」「新幹線EX」などに寄稿しているほか、最新刊「現代ミリタリー・ロジスティクス入門」(潮書房光人社)がある。