何か事故が起きると「利益優先・安全軽視」という批判をする人がいるが、利益が出なければ安全のための投資に充てる原資は得られないし、企業として航空機を飛ばすのであれば、効率を追求することも大事である。要は利用者のバランスの問題なのだが、そのバランス点をどこまで高く取れるか。そこではアビオニクスも貢献できる。

航法の効率化

たとえば、民航機がフライトを行う際に、向かい風を避けたり、できるだけ回り道をしない飛行経路をとったりすれば、それだけ所要時間が短くなり、燃料消費が少なくなる。すると、エアラインも乗客もハッピーになれる。

しかし、だからといってそれぞれの機体が自分の都合でてんでバラバラな経路をとれば、空中衝突などの事故が発生する危険が高くなる。また、効率の良い経路に複数の機体が集中すれば、これまた危険である。

そこで、機体と機体の間隔(セパレーション)はちゃんと確保しつつ、かつ、できるだけ効率の良い経路をとれるようにするにはどうすればよいか、という課題が生じる。するとたとえば、以前に本連載で取り上げたADS-B(Automatic Dependent Surveillance-Broadcast)、あるいは空中衝突を防止するTCAS(Traffic alert and Collision Avoidance System)みたいなシステムが重要な意味を持ってくる。

TCASは比較的近い距離(40海里=74km程度)で航空機同士が情報をやりとりしながら衝突を回避するシステムだが、ADS-Bの方が情報量が多く、通信可能な距離が長い分だけ有用性が高い。だから、TCASだけを使用するよりも、TCASとADS-Bを併用する方が好ましい。

うっかりミスの回避

神様が操縦しているわけではないから、「うっかりミス」を完全に排除するのは難しい。だから、着陸進入時に所定の進入コースに乗っているかどうかを確認できるようにする計器着陸装置(ILS : Instrument Landing System)が登場した。

特に視界不良や悪天候といった状況下では着陸進入時の事故が起こりやすいし、そこであっさり諦めて代替飛行場にダイバートすれば、機材繰りに支障が出たり、乗客の予定が狂ったり、燃料を余分に使ったりしてハッピーではない。もちろん限度はあるが、ある程度の視界不良や悪天候をILSによって乗り切ることができれば、これも安全と効率化の両立につながる要素となる。

また、その着陸進入時にコースから外れてしまう事態を防ぐ必要もある。特に、所定の進入コースよりも下に外れると、意図せざる地面との接触(普通、これを墜落という)が発生してしまう。そこで、対地接近警報装置(GPWS : Ground Proximity Warning System)が登場した。電波高度計で得られる対地高度、昇降率、離着陸形態などのデータに基づき、所定のコースを外れて地表に異常接近していると判断したときに、警告灯と音声による警告を行うシステムである。

さらに、GPWSを改良して機体の位置と地形データを照合できるようにしたのが、EGPWS(Enhanced GPWS)である。

航法精度の向上

まず慣性航法装置(INS : Inertial Navigation System)、続いてGPS(Global Positioning System)受信機が加わったことで、外部からの情報を得られなくても自機の緯度・経度・高度を精確に把握できるようになった。特に地上の航法援助施設をアテにできない洋上飛行では、こうしたシステムの恩恵は大きく、代わりに航法士が失職した。

こうした測位システムとオートパイロットを連携させれば、途中で経由する地点の緯度・経度を事前に入力しておくことで、自動的に精確な飛行を行えるようになる。航法精度の向上だけでなく、間違いなく精確な飛行を行えるメリットにもつながる。

さらにFMS(Flight Management System)を導入した機体では、使用頻度が高い飛行経路に関する情報を事前にコンピュータに登録しておくことで入力の手間を省いたり、施設ごとに異なる地上航法支援施設の電波の周波数を自動選局したりといった自動化が可能になる。これは、航法を確実に行うというだけでなく、入力ミスや選局ミスを回避できるメリットにもつながる。

ちなみに地上航法支援施設とは、以前にも名前だけ出したことがある、以下の施設のことである。どれも陸上に設置するので、陸上ないしはその近傍を飛行する分にはよいが、大洋上では頼りにできない。

  • ADF(Automatic Direction Finder) : 地上施設が電波を出していて、機上のADF装置で周波数を合わせると、当該地上施設の方位が分かる。相対的な位置関係が変化すると、機を基準とする地上施設の方位が変わるので、それに基づいて自機の位置を推定できる
  • VOR(VHF Omnidirectional Range) : 地上施設が電波を出しているのはADFと同じだが、ADFより周波数が高い点と、方位だけでなく距離も分かる点が異なる
  • DME(Distance Measuring Equipment) : 機上から地上施設に問い合わせ電波を発すると、地上施設が応答する。その際の所要時間で地上施設までの距離が分かる

執筆者紹介

井上孝司

IT分野から鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野に進出して著述活動を展開中のテクニカルライター。マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。「戦うコンピュータ2011」(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて「軍事研究」「丸」「Jwings」「エアワールド」「新幹線EX」などに寄稿しているほか、最新刊「現代ミリタリー・ロジスティクス入門」(潮書房光人社)がある。