今月11日、それまで「Apollo」のコードネームで開発が進められてきたAdobeのRIAプラットフォームが、「AIR(Adobe Integrated Runtime)」という正式名称を与えられて、β版のリリースに至った。α版に比べて多くの機能追加が行われており、プラットフォームとしての完成度がかなり高まった感がある。
そこで、本連載では、そのβ版を使用し、AIRが持つ様々な機能と、それを利用したプログラミングテクニックを紹介していきたいと思う。
今回は連載の1回目ということで、AIRの概要とインストール方法、およびサンプルの実行方法を説明する。β版の機能を利用したプログラミングについては次回から解説しよう。
AIRの概要と利点
AIRは、先ほども述べたとおり、コードネーム「Apollo」として開発が進められてきた、Adobeの次世代RIAプラットフォームだ。AIRは「Web開発技術をそのままデスクトップアプリケーション開発に生かす」ことを最大の目的としている。HTML、CSSやJavaScriptなどのWeb標準技術のみならず、FlashやFlex、そしてPDFといったAdobe技術も利用したデスクトップアプリケーションの開発を行うことが可能だ。
デザイナーやクリエイターの中には、上で挙げた技術に精通している方も少なくないはずだ。そうしたスキルをそのままデスクトップアプリケーション開発に活かせる環境を作り、革新的なUIを持つアプリケーションの作成を促すことがAIRの狙いだ。
もちろん、既存のWebサイトを基にAIRアプリケーションを作成する際には、既存の資産を有効に活用できるという利点もある。
こうした複数のWeb開発技術を利用可能なのは、AIRがFlash Player相当の実行環境、そしてHTML/JavaScriptを実行するためにWebブラウザ相当の実行環境を内包しているからこそ、である。また、PDFに関しては、AIR自体にレンダリングエンジンが内包されているわけではないが、OSにインストールされたAdobe Readerなどへのアダプタが用意されており、それを利用してAIRアプリケーション上でPDFを表示している。AIRというプロダクト名に込められた「統合実行環境 (Integrated Runtime)」という言葉は、こうしたAIRの本質を適切に表したものだと言えるだろう。
AIRのダウンロードとインストール
では、AIRを試す環境を作成しよう。AIRは、Java VMや.NETランタイムと同じようにアプリケーションを動作させるための実行環境という位置づけにあるので、最初にAIRのランタイムをインストールしておく必要がある。
インストールは、Adobe Labs(Adobeの研究プロダクト用公式サイト)の、AIRのサイトからAIRのインストーラをダウンロードし、実行してウィザードを進めるだけで完了する(ダウンロードページはこちら)
インストール完了画面 |
これでインストールは完了だ。では、早速AIRアプリケーションを試してみよう。
Adobe Labs内のこちらのページから、サンプルアプリケーションをダウンロードできる。各サンプルの「INSTALL NOW」というリンクをクリックすると、AIRアプリケーションをダウンロードした後に以下のようなダイアログが表示される。
AIRサンプルアプリケーションの「INSTALL NOW」をクリックして表示されるダイアログ |
ここで「Open」を選ぶとそのままAIRアプリケーションのインストール作業へ移行し、「Save」を選ぶとAIRファイル(拡張子は.air)の保存先を選択するダイアログが表示される。「Save」で保存した後も、AIRファイルをダブルクリックすればいつでもインストールは可能だ(なお、このようにWebページのリンクをクリックするだけでスムーズにインストールプロセスを始めるテクニックを「シームレス・インストール」と呼ぶ)。
AIRアプリケーションのインストール画面は、以下のようなものだ。
AIRアプリケーションのインストールダイアログ |
このダイアログは、アプリケーションの発行者が信頼できるか、無制限のシステムアクセスを要求しているかなど、セキュリティに関する非常に重要な情報を提示している。ここで「Install」をクリックすれば、アプリケーションのインストールが行われる。
インストールが完了すれば、デスクトップにアプリケーションの起動アイコンが作成され、「プログラムの追加と削除」などからアプリケーションのアンインストールが行えるようになる。
AIRβ版で利用可能な機能AIRβ版の主な特徴としては、以下のようなものが挙げられる。
- AIRが全ての描画を行うため、矩形に捕われないうえ、透明な背景を持てるなど、特殊なウィンドウの作成が可能
- HTMLレンダリングエンジンと統合されているため、Webページに対して様々な効果を施すことが可能。Webページ上のJavaScriptとも連携できる
- PDF表示をサポートしている
- ファイルシステムへのフルアクセスが可能
- SQLiteを内包していることにより、ローカルSQLデータベースを利用可能
- ネイティブ環境と完全に統合されたドラッグ&ドロップ/コピー&ペーストを使用できる
- アクセス先ドメインを限定しない、自由なインターネットアクセスが可能
- プログラムによる、アプリケーションのアップデートが行える
本連載では、これらを実現する全ての機能を説明していきたいと考えている。次回以降に期待していただきたい。
AIRのロードマップ
3月にα版リリース(当時はApollo)、6月にβ版リリースと、順調にリリーススケジュールを消化しているAIRであるが、今後のロードマップについては現在のところ、以下のように発表されている。
Apollo mini Camp@Tokyoで発表されたAIR (Apollo)のロードマップ
これによると、正式リリースは2007年秋から冬にかけて行われるようだ。2008年初頭にリリースされる予定のバージョン1.xは、日本語を含む各国語対応が主な変更点になるという。