近年、AIは飛躍的に進歩を遂げています。医療や交通、さらには法律などのさまざまな分野で自動化を実現するために利用されるようになりました。
そして、AIの開発が進むにつれ、「AIは人間の仕事を奪うのではないか」というネガティブな意見が大きな話題になっています。皆さんもAIに仕事を奪われるのではないかと、不安になったことがあるのではないでしょうか。
結論からお伝えすると、すべての仕事がAIに奪われることはありません。
AIベースのシステムに人間の役割を任せようと考えている企業は、たった8%と言われています。実際には、奪われる仕事より奪われない仕事のほうが多いかもしれません。
人間がAIより優位を保つ職業の例として、コピーライターを見てみましょう。
自然言語生成のツールは、明確なテンプレートや単純な目標、ガイドラインに従ってコンテンツを作成することに優れています。しかし、抽象的なコンテンツを作成する場合、AIはこのプロセスで大きな障害に直面します。ユーモア、ニュアンス、語調の微妙な変化を活用するなど、ネイティブレベルの言語の習得は、現時点のAIの能力をはるかに超えています。
そのため、機械学習が人の心に訴える独自のストーリーを作成してマーケット戦略の成功を支援できるようになるまでには、まだいくつかの開発段階が必要です。
AIは将来、コピーライティングにおいて大きな役割を担うことになると見られていますが、人間のコピーライターはまだその心配をする必要はありません。しばらくの間は、AIより人間のコピーライターが優位を保つことになるでしょう。
さらに、AIは人間の仕事を奪うどころか、その開発を行うために生まれる仕事が登場する可能性のほうが高いと言われています。なぜなら、AIを利用する上で必要なデータの作成やAIを補完する仕事が求められているからです。
以下、AI開発のために生まれた仕事の代表例を紹介しましょう。
AI学習データのアノテーター
チャットボット、Amazon Alexaなどのホームアシスタント、画像や顔認識などのAI開発には、まず学習データが必要となります。学習データは、機械学習のモデルを学習させるために利用する情報のことです。
例えば、iPhoneなどのロック画面を解除するために必要な顔認識を例として説明しましょう。iPhoneが人間の顔を認識するには、目、鼻、口など各パーツの特徴点をアノテーション(ラベル付け)されている顔写真のデータセットで学習させる必要があります。
AI開発が進む中で、学習データセットのアノテーションを行う人材の需要が出てきました。
Lionbridge AIは、世界中で50万人のクラウドワーカーがテキスト、画像、音声、そして動画データのアノテーションを人力で提供します。クラウドワーカーはLionbridge のデータ・アノテーション・プラットフォームにアクセスし、プラットフォーム上で担当のプロジェクトに取り組むことができます。例えば、自動運転AIのプロジェクトのために動画に映っている車や歩行者のモーショントラッキングや、感情分析のプロジェクトのためにソーシャルメディアの投稿を「ポジティブ」、「ニュートラル」、または「ネガティブ」と指定するなどのタスクを行います。
自動運転を遠隔運転するドライバー
米オレゴン州ポートランド市のスタートアップ企業であるdesignated driverは、自動運転車を遠隔運転するドライバーを採用しています。ドライバーの仕事はリモートで自動運転車を監視することで、この作業は「テレオペレーション」と呼ばれています。
自動運転中に万が一のことが起こった時、運転手の代わりに運転します。自動運転車が予想外の悪天候や道路工事の現場に直面した場合、人間のドライバーに運転してもらうこととなるかもしれません。
テレオペレーションは、自動運転車がまだできないことを発見し、アルゴリズムを改良するプロセスの中で大事な作業です。さらに、人々の自動運転車に対する不安を和らげることにもつながります。自動運転車に乗ることが怖いと思っている人はまだ多いでしょう。しかし、遠隔運転をして、しっかりと見守ってくれるドライバーがいると知っていたら、より安心して乗車できるのではないでしょうか。
AIトレーナー
コールセンターや顧客サポートの仕事に勤めている人の中には、AIに自分の仕事を奪われたらどうしようと、不安を抱えている人もいるでしょう。しかし、そうした人達は「AIトレーナー」という新たな職業で活躍することができるかもしれません。
音声アシスタントやチャットボットなどのAIシステムに顧客サポートが任される未来において、AIトレーナーの役割は、そのAIシステムを使った顧客体験を最適化させることです。AIシステムを学習させ、過去案件を評価するなど、顧客サポート周りのビジネス戦略を考えることが仕事です。
例えば、顧客サポートチャットボットのメッセージ履歴を確認し、改善のポイントをまとめ、それに基づいて再学習させる、といったような業務となります。
「AIは仕事を奪うのではないか」と心配する声も多いですが、必ずしもそうなるとは限りません。むしろ、今後はAI開発・活用のために新しい仕事が生まれ、新しい雇用の場を作り出す可能性も大いにあるのです。
著者プロフィール
チャーリー・ワルター
Lionbridge AIプロダクト&グロース担当バイスプレジデント
ベルリン出身。イエール大学卒業。
サンフランシスコでKPCB Product Fellow、Uber(Uber Advanced Technologies Group)のプロダクトマネージャーを経て2017年にGengoへ参画。Gengoは2018年12月にLionbridgeに株式取得されました。