目まぐるしく変化する市場へ対応し、競争力を維持・強化していくために、多くの企業がAI活用に目を向けている。だが、十分にその恩恵を受けるには、AIの技術について正しく理解し、適切に活用することが肝要だ。
本稿では、数あるAI技術のなかでも耳にすることの多い「機械学習」と「ディープラーニング(深層学習)」を取り上げ、これら2つの技術の基本概念や違い、メリット・デメリット、そして実際の利用事例について詳しく解説する。
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機械学習とディープラーニング、それぞれの基本概念
機械学習とディープラーニングは、現代のAI技術の中核を成す要素である。これらの技術について正しく理解するためには、まず基本概念を押さえておくことが必要だ。
機械学習とは、データを基にアルゴリズムがパターンやルールを学習し、予測や分類を行う技術である。主な学習方法として、教師あり学習、教師なし学習、強化学習が存在する。
一方、ディープラーニングは機械学習の一種で、ニューラルネットワークによる多層構造を持つモデルを使用し、複雑なデータ処理を行うことを指す。この処理により、画像認識や自然言語処理など、より高次元なタスクを高精度で実行することが可能となる。
これらの技術を理解して初めて、AI技術の選択や応用範囲を適切に判断できるようになる。以下にそれぞれの技術についてもう少し詳しく見ていこう。
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機械学習とは
機械学習とは、コンピューターがデータを基に学習し、その結果を用いて予測や分類を行う技術である。大量のデータからパターンを発見し、そこから学習モデルを構築することができる点が特長だ。
機械学習には大きく分けて3つの種類がある。教師あり学習、教師なし学習、そして強化学習だ。教師あり学習では、入力データとその正解がセットで提供され、モデルはそれを学習して新しいデータに対する予測を行う。例えば、スパムメールの分類や商品の需要予測などで利用されている。
一方、教師なし学習では正解がなく、データの構造やパターンを自動的に見つけ出す。クラスタリングや次元削減が代表的な応用例であり、異常検知やデータの可視化などで活用されることが多い。
強化学習では、エージェントが環境との相互作用を通じて最適な行動を学習する。ゲームの自動プレイヤーやロボティクスの制御などが強化学習の応用例として挙げられる。
機械学習はさまざまな分野で広く活用されている。ビジネスにおいては、顧客行動の予測や業務の自動化、製造業での品質管理や故障予知など多岐にわたる応用が可能であり、効率化とコスト削減に大きく貢献している。機械学習技術を駆使することで企業競争力を高め、新しいビジネスチャンスの創出につなげることもできるだろう。
ディープラーニングとは
ディープラーニング(深層学習)とは、機械学習の中でも特に大規模なデータ分析と複雑なパターン認識を可能にする技術である。その特長は、「ニューラルネットワーク」と呼ばれるモデルを用いて高度な処理を行う点だ。ニューラルネットワークには複数の層が存在し、それぞれの層で入力データを詳細に解析する。これにより、データの複雑なパターンや特徴を効果的に捉えるわけだ。
ディープラーニングは、画像認識、音声認識、自然言語処理、自動運転などの高度な応用分野で特に効果を発揮している。例えば、画像認識の分野では、ディープラーニングを用いた顔認識技術がセキュリティシステムやソーシャルメディアに広く導入されている。また、近年日本でも実用化に向けた取り組みが進む自動運転車両でもディープラーニングが活用され、周囲の状況をリアルタイムで判断する能力が向上している。
ディープラーニングのもう1つの大きな強みは、その学習能力の高さである。大量のデータを用いた学習により、自ら特徴を抽出し、パターン認識を行うことができる。
しかしながら、ディープラーニングには多くの計算資源が必要であり、学習には長時間を要することがある。また、適切なハイパーパラメーター(モデルの学習プロセスや構造を制御するためのパラメータ―)の選定や過学習による予測精度の低下リスクなど、実装に際しての課題も存在する。それでも、その卓越した性能と応用範囲の広さから、多くの企業や研究機関で採用され続けている技術なのだ。
機械学習とディープラーニングとの違い
ディープラーニング以外の一般的な機械学習(以下、単に「機械学習」と表記)とディープラーニングには明確な違いがある。まず、機械学習はデータを用いてアルゴリズムが予測モデルを作成し、そのモデルを使用して新しいデータに対する予測や分類を行う技術である。一方、ディープラーニングは、多層構造のニューラルネットワークを使用して高度なデータ処理を行う技術である。
機械学習では、「特徴エンジニアリング」という必要不可欠なプロセスがあり、人間がデータの特徴を設計する。そのため、精度の高い予測を行うには専門的な知識が求められる。対して、ディープラーニングはこの特徴エンジニアリングを自動化し、大量のデータを通じて自己学習する能力を持つ。
もう1つの違いは、適用範囲である。機械学習は主に構造化データに対して有効であり、例えばマーケティングの予測などに多用される。それに対してディープラーニングは複雑な非構造化データ、例えば画像認識や自然言語処理を得意とするため、自動運転や翻訳アプリなどで威力を発揮する。企業はこれらの違いを理解し、プロジェクトの目的に適した技術を選択することが必要だ。
機械学習とディープラーニング、それぞれのメリットとデメリット
より適切な技術を選択するために、機械学習とディープラーニングのメリットとデメリットを把握しておきたい。まず、機械学習のメリットとしては、低コストかつ少ない工数で、特定の作業を効率的に実行できる点が挙げられる。反面、特徴エンジニアリングを人の手で行う必要があるというデメリットがある。
一方、ディープラーニングのメリットとして特筆すべきは、複雑な処理が可能である点だ。先述のとおり、画像認識や自然言語処理といった高度なタスクを実行できる。しかし、ディープラーニングにはブラックボックス化する可能性があり、判断プロセスが見えにくくなるというデメリットもある。
以下で、より具体的に説明する。
機械学習のメリット
機械学習の最大のメリットは、そのコスト効率の高さである。従来のプログラムによる手動設定とは異なり、機械学習はデータから自動的に学ぶため、開発時間と労力を大幅に削減できる。例えば、教師あり学習を用いる場合、大量のデータセットがあれば、適切な特徴量の選択やハイパーパラメーターの調整を行うことで、精度の高い予測を行うことが可能である。
もう1つの大きなメリットは、多種多様なタスクに対応できる柔軟性である。特に、画像認識のような分野では、機械学習アルゴリズムは人間の能力を超えるパフォーマンスを発揮することがある。これにより、ビジネスの多くのプロセスを自動化し、効率化することができる。
さらに、機械学習はリアルタイムでのデータ処理が可能であるため、迅速な意思決定をサポートする。例えば、オンラインショッピングサイトでは、ユーザーの行動データをリアルタイムで分析し、パーソナライズされたレコメンドサービスを提供することが可能になる。売上や顧客満足度の向上への貢献が期待できることは言うまでもない。
機械学習のデメリット
機械学習のデメリットとしてまず挙げられるのは、特徴量を人の手で選定する必要があるという点だ。つまり、機械学習をさせる側の人間にある程度専門的な知識が求められるほか、ビジネスの課題をどのように機械学習で解決できるかたちに落とし込むのかといった思考力が問われる。
さらに、もう1つ機械学習のデメリットだと言われるのが、そのモデルが環境の変化に対して柔軟性が低い点だ。訓練されたモデルは、予測可能なデータパターンに基づいているため、異常なデータや新規のデータパターンに対しては適応しにくいのだ。これに対応するには、定期的なモデルの更新と再訓練が不可欠である。
ディープラーニングのメリット
ディープラーニングの最大のメリットは、複雑なデータから高精度な予測や分類を行える点である。これは主に、多層ニューラルネットワークの構造によるもので、従来の機械学習手法では対応が難しい非線形問題にも対応できる。そのため、より複雑で精度の高い画像認識や音声認識、自動運転技術などが可能だ。
また、ディープラーニングは大量のデータを利用した自己学習が可能である点も優れている。膨大なデータセットを用いれば、アルゴリズムが自ら特徴を抽出し、時間と共に精度が向上する。ビッグデータ時代の今、非常に活用しがいのある技術だと言えるだろう。
さらに、ディープラーニングはエンドツーエンドでの学習が可能である。従来の機械学習では、特徴量の選定や前処理が必要だったが、ディープラーニングではこれらの工程を自動で行うため、全体のプロセスを効率化することが可能だ。
ディープラーニングのデメリット
ディープラーニングは多くの優れた機能を持つが、いくつかのデメリットも存在する。その1つが、ブラックボックス化する可能性があるということだ。ブラックボックス化の問題は、予測や判断の根拠について、人間が明確に理解できない点にある。この現象は特に複雑なアルゴリズムやモデルを使用した場合に顕著となる。
透明性の欠如は、意思決定において大きな問題を引き起こしうる。特にビジネスにおいては、なぜその結論が導かれたのかを説明しなければならないケースが多い。また、ブラックボックス化は、法的規制やコンプライアンスの観点からもリスクを伴う。
これを防ぐ策として、可視化ツールや「説明可能なAI(Explainable AI)」の導入が考えられる。これらを取り入れることにより、人間がモデルの判断基準を解釈しやすいかたちになり、成果物に対する信頼度を向上させられるのである。
もう一つのデメリットが、必要なデータ量が膨大であることだ。予測の精度を高めるためには大量のデータが必要となるが、そのデータの収集や前処理が非常に手間であり、コストもかかる。
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機械学習とディープラーニングの実際の応用事例
機械学習とディープラーニングの応用事例を知ることで、企業はそれぞれの技術の適用範囲と利点を理解し、実際の活用シーンを具体的に想起できるようになるはずだ。まず、機械学習の応用事例としては、消費者行動の予測や異常検知、金融取引のアルゴリズムなどが挙げられる。これにより、企業はカスタマーエクスペリエンスの向上やリスク管理の精度を高めることが可能である。
一方、ディープラーニングは、より複雑なタスクに対応可能である。例えば、ディープラーニングによる画像認識は医療分野での診断支援システムや、自動運転車両の運転精度向上に寄与している。また、自然言語処理技術を応用することで、チャットボットや音声アシスタントの性能向上が実現する。
機械学習の応用事例
機械学習は現代のビジネスと技術において、多くの領域で幅広く応用されている。例えば、金融業界においては、詐欺検出システムが機械学習アルゴリズムを利用して不正な取引をリアルタイムで発見し、リスク管理の精度を高めている。また、製造業では、機械学習が設備稼働データを分析し、予知保全を実現している。これにより、故障を未然に防ぎ、ダウンタイムを最小限に抑えることができる。
さらに、機械学習はEコマース分野でも大いに役立っている。例えば、顧客の購買履歴や行動データを基にしたレコメンデーションシステムにより、1人1人に対してパーソナライズした商品提案が可能となり、売上向上に寄与するといった具合だ。
このように、機械学習の応用分野は多岐にわたり、その効果はビジネスプロセスの効率化などに大きく寄与している。
ディープラーニングの応用事例
ディープラーニングも多岐にわたる分野で応用されている。例えば、画像認識分野では、医療画像の診断補助に利用されている。AIが膨大な医療データを解析することで、人間では見逃しがちな小さな異常を初期段階で発見することが可能となり、患者の早期治療につながる。
自然言語処理分野では、音声アシスタントやチャットボットに活用されている。例えば、GoogleアシスタントやSiriはディープラーニングにより、ユーザーの音声を高精度で認識し、適切な応答を返すことができる。これがユーザー体験の大幅な向上につながっているのはご存じの通りだ。
さらに、自動運転技術にもディープラーニングが活用されている。大手自動車メーカーでは自動運転システムにディープラーニングを取り入れることで、複雑なリアルタイム環境において、運転の精度を向上させているという。
AIプロジェクトにおける技術選択のポイント
AI技術を用いたプロジェクトを成功させるためには、大きく分けて3つのポイントがある。まず、適切な技術を選択することが不可欠だ。その際にはまず、プロジェクトの目的を明確にすることが重要となる。
例えば、高度な画像認識を必要とする場合はディープラーニングが適しているが、シンプルなデータ分析には機械学習が効率的といった具合だ。そのため、各技術の強みを理解し、プロジェクトの目的に最も合致する技術を選ぶ必要がある。
次に、コストと時間の最適化も考慮すべきである。ディープラーニングは高性能なハードウエアを必要とし、学習時間が長い一方で、機械学習は使用するアルゴリズムやデータセットによっては比較的低コストで素早く結果を出せることもある。初期投資と労力を見積もり、最も効率的な方法を検討することが求められる。
最後に、技術の将来的なスケーラビリティも見逃してはならない。企業の成長や市場の変化に対応できる柔軟性のある技術を選択することが長期的な成功につながる。これらのポイントを念頭に置いて、AI技術の選択を行うことで、プロジェクトの成功率を大幅に高めることができるであろう。
ここから、詳細を見ていこう。
プロジェクトの目的に応じた技術選択
プロジェクトを成功させるためには、プロジェクトの目的に応じた適切な技術選択が重要である。例えば、大量の画像データを処理して高精度な画像認識を実現したい場合、ディープラーニングが効果的である。これは、ディープラーニングのニューラルネットワークが複雑なパターンや特徴を自動的に抽出する能力を持つためだ。
一方、データの予測や分類といった比較的シンプルなタスクには、機械学習アルゴリズムの使用が適している。教師あり学習の機械学習手法は、トレーニングデータに対して迅速に適応しやすいという特長があるため、コストと時間の節約につながる。
さらに、技術選択の際にはプロジェクトの規模や予算、学習データの量、必要な精度なども考慮に入れる必要がある。ディープラーニングの導入には大量のデータと時間が必要であるが、高度な分析と高精度な結果を提供できる。一方、機械学習は比較的短期間での導入が可能であり、予算や時間が限られている場合には有効な選択肢となり得る。
正確な技術の選択は、プロジェクトの成功率を大いに高め、最終的なビジネスへのインパクトを最大化することにつながるだろう。
コストと時間を最適化する方法
プロジェクトにおいては、コストと時間(スケジュール)の最適化も成功の鍵である。まず、プロジェクトの初期段階で明確な目的を設定することが重要である。目的が明確でないと、無駄な時間とリソースが消費される可能性が高い。
次に、適切なデータセットを選択することが効率化に直結する。特に大量のデータが必要とされるディープラーニングでは、データの前処理を適切に行っておくことが、時間の節約に役立つ。画像認識の場合、既存のデータセットを利用し、モデルの調整を行うことで学習時間を大幅に短縮できるといった例がある。
コスト面を考えるのであれば、クラウドサービスの利用も一つの手だろう。クラウドベースの計算資源はスケーリングが容易で、必要に応じて増減可能である。これにより、初期投資を抑えつつ大規模なデータ処理が可能となる。また、コストを削減しながら最新の技術を取り入れる方法として、オープンソースのライブラリやツールを活用することも検討したい。
計画的にプロジェクトを進めるには、プロジェクト管理ツールが有用だ。スプリントやマイルストーンを設け、定期的に進捗を見直すことで、プロジェクトの遅延や予算超過を予防できるはずだ。
これらの方法を活用することで、AI技術を用いたプロジェクトにおけるコストと時間の最適化が実現できる。
機械学習とディープラーニングの違いを理解し、最適な技術を選択しよう
これまでに解説してきたとおり、機械学習とディープラーニングは異なる特性を持つAI技術である。機械学習は一般的なデータ分析手法として幅広い用途に適用でき、比較的少ないコストと工数で実現可能だと言える。一方、ディープラーニングは複雑なデータ処理を得意とし、高度な認識能力を持つが、多くのデータと長時間の学習が必要となる。
企業がプロジェクトに適用する技術を選択する際には、プロジェクトの特性と目的を明確にし、最適なものを選びたい。コストや時間の制約、用意できるデータの量と質、目指す精度や応用範囲などを考慮することで、効果的なプロジェクトの設計と実行が可能になる。
技術選択のポイントを正しく理解した上で、戦略を立てる。――これを着実に実行していくことで、企業はAIの恩恵を十分に享受し、競争力を高めていけるだろう。本稿で解説した知識を基に、最適なAI技術の選択と導入を進め、ビジネスの成功につなげていってほしい。