人工知能(AI)がビジネスや日常生活に入り込んでくると、ビジネス・パーソンの働き方はどんな影響を受けるのだろうか。AIに奪われる職業について報じるメディアもあり、危機感を感じているビジネス・パーソンも多いに違いない。ただ今までも、グローバル競争による生き残りをかけて、日本企業は工場を人件費の安価な海外に移転してきた。同様に、人件費が不要で、文句も言わずに24時間仕事をこなすAIが、企業に採用されるのは時代の趨勢と言えるだろう。
しかし、AIが人間に置き替わってすべての仕事をこなすには「汎用型AI」が登場しない限り不可能だ。今のところ、AIに向いている仕事は、第1回で説明した「特化型AI」が得意とする、同じことを繰り返したり時間がかかったりするような仕事、危険な場所での仕事など、人間よりも多くの作業をこなすことができる職業に限定される。
したがって、AIが得意な仕事に就いているビジネス・パーソンは、AIが不得意な仕事を見つけてトレーニングを始めることをお勧めしたい。しかし、コンピュータの登場によってプログラマーという職業が誕生したように、AIの登場によって今までなかった職業が登場することも確かだ。
経済産業省が2017年5月に発表した、第4次産業革命に対応していくための指針をまとめた「新産業構造ビジョン」(平成29年5月30日)では、AIによってどのような職業が影響を受けるのか予測しているので、AIにとって代わられない職業を目指す上で参考になると思う。そのポイントを以下の表にまとめてみた。
AIの導入によって影響を受ける職業例
分野 | 職業例 | 減少理由 | 増加理由 |
---|---|---|---|
製造・調達 | 製造ラインの工員、検収・検品係員 | IoT、ロボットなどによって省人化・無人化工場が常識化し、製造に関わる仕事は減少 | - |
企業の調達管理部門、出荷・発送係 | IoTを駆使したサプライチェーンの自動化・効率化により、調達に関わる仕事は減少 | - | |
営業・販売 | 低額・定型の保険商品の販売員、スーパーのレジ係 | 顧客データ・ニーズの把握や商品・サービスとのマッチングがAIやビッグデータで効率化・自動化されるため減少 | - |
カスタマイズされた高額な保険商品の営業担当、高度なコンサルティング機能が競争優位性の源泉となる法人営業担当 | - | 安心感が購買の決め手となる商品・サービスなどの営業・販売に関する仕事は増加 | |
サービス | 大衆飲食店の店員、中・低級ホテルの客室係、コールセンター、銀行窓口係、倉庫作業員 | AIロボットによって、低付加価値の単純なサービス(過去のデータからAIによって容易に類推可能/動作が反復継続型であるためロボットで模倣可能)に関する仕事は減少 | - |
高級レストランの接客係、きめ細かな介護、アーティスト | - | 人が直接対応することがサービスの質・価値の向上につながる高付加価値なサービスに関する仕事は増加 | |
IT業務 | 製造業におけるIoTビジネスの開発者、ITセキュリティ担当者 | - | 新たなビジネスを生み出すハイスキルはもとより、マスカスタマイゼーションによってミドルスキルの仕事も増加 |
バックオフィス | 経理、給与管理などの人事部門、データ入力係 | バックオフィスは、AIやグローバルアウトソースによる代替によって減少 | - |
経営企画・商品企画・マーケティング、R&D | 経営戦略策定担当、M&A担当、データ・サイエンティスト、マス・ビジネスを開発する商品企画担当、マーケッター・研究開発者、その具現化を図るIT技術者 | - | さまざまな産業分野で新たなビジネス・市場が拡大するため、ハイスキルの仕事は増加 |
データ・サイエンティストなどを中核としたビジネスの創出プロセスを具現化するオペレーション・スタッフ | - | データ・サイエンティストなどのハイスキルの仕事のサポートとして、ミドルスキルの仕事も増加(技術革新の進展スピード次第) | |
ニッチ・ビジネスを開発する商品企画担当やマーケッター・研究開発者、その具現化を図るIT技術者 | - | マスカスタマイゼーションによって、ミドルスキルの仕事も増加 |
出典:経済産業省「新産業構造ビジョン」(平成29年5月30日)
上の表からは、定型化しやすい職業がAIに取って代わられやすいことがわかるはずだ。AIに代わられないのは、対人コミュニケーションが必要な職業や定型化できないクリエイティブな職業などだ。最後まで残る仕事は、例外処理や難しい判断が多い業務、対人コミュニケーションが基本の職業ではないかと予想されている。
「新産業構造ビジョン」では、デジタル・マーケティングには触れていないが、当然、この分野にもAIが活用され始めており、デジタル・マーケターにもAIリテラシーが求められていることは間違いない。
AIは膨大な量のデータを無駄なく正確に分析できるので、マーケティング担当者やプロダクトマネージャーは経験に頼っているデータ駆動型のマーケティングアプローチの限界から解き放たれる。AIは多数のソースからの顧客データを相互参照することで、顧客ベースの正確なモデルを構築することができ、個々の顧客にアプローチする最良の方法を決定できる。AIを活用することで、クロージングに結びつくより効果的なプロモーションを実施できるのだ。
AI時代のデジタル・マーケターは、これまでのスキルに加えて、マーケティングのためのデータ分析に必要な的確なデータセットを見つける能力と、AIによる分析結果を理解し実行するスキルが求められる。
CapGeminiの調査は、AIの普及によって世界の8割の企業で、まったく新しいタイプの仕事が生まれる可能性があると報告している。今後は、データ・サイエンティストやプロジェクトマネージャーといった仕事が求められるようになるだろう。
AIによって社会やビジネスが再編される可能性がある中で、将来どのようなスキルが必要になるのかを想像することは難しいが、自分で強化できる重要なスキルは変化に素早く適応できる能力であることは間違いない。
著者プロフィール
松崎 亮
Appier Japan株式会社
Director, Enterprise Sales
2004年 コロラド大学ジャーナリズム&マスコミュニケーション学部卒。総合広告代理店の営業を経て、2011年グーグルジャパン入社。SMB を顧客とする第二広告営業本部の初期メンバーとして同本部の成長と組織作りに貢献。
その後、グーグルが買収したダブルクリックの日本の初期メンバーとして参画。DoubleClick Bid Manager (DSP) の拡販、DoubleClick Campaign Manager (第三者配信、DoubleClick Search (SEMツール、Google Analytics を含めたグーグルのアドテクソリューション営業に従事。
2017年に Appier Japan に入社。同社の人工知能をベースとしたオーディエンス予測分析プラットフォーム「Aixon(アイソン)」の日本営業統括責任者。