ふりかえりとは
今回は「ふりかえり」について前編、後編に分けてお伝えします。前編では具体的な実施方法ついて書きますが、後編ではその効果や目的などを考察します。
ふりかえりとは、定期的にプロジェクト参加メンバー全員で状況をふりかえり、次への施策などを考える会のことです。ふりかえりはプロジェクトが終了してからの反省会とは異なり、プロジェクトを実施している最中に定期的に行われ、もし問題があればその場で改善を検討/実施しプロジェクトを成功に導こうというやり方です。
KPT
日本ではふりかえりとして「KPT(ケプト)」という方式を使う場合が多いようです。KPTとは以下の項目にわけて思いつくことを付箋に書いて貼っていく手法です。
- KEEP(継続したいこと)
- PROBLEM(問題と思うこと)
- TRY(試したいこと)
KPTではP(問題と思うこと)をT(どうやって解決するか)で実施し、それをK(継続する)という流れを意識したいということで、以下のように壁を区切ってそこに付箋を貼っていくやり方が主流です。
それではここからは具体的なKPTの実施方法を解説していきます。
会議の予定
ふりかえりは「メンバー全員が参加」することが必須です。誰かが休みの日や他の打ち合わせで一部のメンバーが不在などの日時に実施してはダメです。逆にプロジェクトに関係のない人は参加できません。あまりプロジェクトに関わりがない人が参加する場合は発言権の無いオブザーバーとして参加していただくと良いと思います。
また参加人数や状況によりかかる時間はさまざまですが、自分の経験では平均3時間ぐらいはかかっています。ただふりかえりを頻繁に行う場合はあまり時間がかからない場合もあります。毎日ふりかえりを実施しているチームもありますし、短いイテレーション単位で実施しているプロジェクトも多いはずです。そのように頻繁にふりかえりを行う場合は30分から1時間程度でも良いかもしれません。自分は諸事情があるのですが、プロジェクトごとに数ヶ月に1回実施する場合が多く、大抵3時間強の時間はかけています。
事前準備
日時と場所を押さえたら次は付箋とマーカーを用意します。付箋はできれば125mm x 75mmのものがよいです。色は2色以上あると便利です。マーカーは必ず用意します。個人のボールペンなどはNGです。理由は単純で、細い文字は見えないから、です。
あと、メンバーの方には事前にふりかえりをKPT形式で行うことを伝えておき、KEEP、PROBLEM、TRYをそれぞれ考えておくように伝えておきましょう。
ルールの説明
KPTを進める前に参加者には簡単に進め方を説明します。得に以下の点については誤解の無いように伝えておく必要があります。
- どんな些細なことでも発言してよい
- 発言に対する議論は歓迎するが、非難は禁止。特に個人への批判、中傷はNG
どんな些細な発言であっても簡単に否定や批判をせずまずは内容をじっくり聞くようにします。どんな発言にも耳を傾けるという姿勢を全員で貫くことで声の小さかった方々の貴重な意見を知ることができるはずです。
目的はメンバー全員が真に感じていることを共有し、メンバー全員で改善をしていくきっかけにすることです。「どうせ言っても無駄」とか「解決なんてできるわけ無いから言わないでおこう」と思わせてはいけません。無駄かどうかは言ってみないとわからないな、とメンバー全員が思うことが重要なのです。
また、すでに同じプロジェクトメンバーでKPTを実施したことがあるのなら、KPTを開始する前に前回のKEEP、PROBLEM、TRYを簡単に確認しておきましょう。特に前回のTRYがどのように実施されたかは認識合わせをしてください。また前回のKPTの実施から当日までにあった大きな事件やできことなどがあれば全員で確認しておくと良いでしょう。
付箋
それらの確認がすんだらいよいよメンバーに付箋とペンを渡し、KEEP、PROBLEM、TRYを書いてもらいます。人数にもよりますが、最低でもそれぞれの項目で1枚以上は書いてもらいましょう。また記載していただく内容は短く簡潔に大きな文字で書いてもらうようにします。
- 良い例:「朝会議事録」
- 悪い例:「朝会議事録を継続することで、毎日他の人の作業内容を知ることができた」
細かな説明は付箋に書く必要はありません。内容については付箋を貼るときに説明してもらうので簡単な記述で大丈夫です。
さてある程度書き終わったら、KEEPの項目から一人一枚ずつ付箋を壁に貼りながら説明してもらいます。発言内容がわかりにくい場合には、「もう少し詳細に説明してもらえますか?」などとお願いしてどんな内容なのか全員が理解できるように進めていきます。またメンバーによっては自分の付箋を全て一度に貼り付けようとする方もいるかもしれませんが、あくまで一人一枚ずつです。一枚貼り説明が終わったら次の人が一枚貼るようにしてください。(もちろん慣れたチームなら自由でよいです)
KEEPをすべて出し切ったら次はPROBLEM、TRYへ項目を移して付箋を貼って説明してもらいましょう。ここで大事なのは、内容に対しての議論はまだ行わないという点です。議論はすべての付箋を貼り終わってからです。
グルーピング
付箋を一枚ずつ貼って説明してもらうと、同じような内容の付箋がいくつかあることに気づくはずです。議論をするために付箋をグルーピングしていきます。自分はグルーピングする際に、異なる色の付箋でグループ名を記載してまとめるようにしています。もちろんグルーピングする際には参加者全員の意見を聞きながらグループ名を決め、そのグループの付箋をその周りに移動させながらまとめていきます。
ディスカッション
グルーピングができたら、いよいよPROBLEMについてディスカッションを始めて下さい。ただ大抵の場合、すべての項目についてディスカッションすることは無理でしょう。ディスカッションはグルーピングされた項目の幾つかを抜粋して実施して下さい。ディスカッションの目的はPROBLEMと皆が思っていることの共有と、それに対する解決策の検討です。ただこのときに注意しなければいけないことは、以下のような点です。
- 発言者に偏りがないようにする(全員均等に意見を言えるようにする)
- 解決策を安易に決めない
特に発言力の強い人がいると、「こんな問題はXXXすれば簡単に解決できる。YYY君、明日やっといて」と安易に解決されてしまうことがあります。しかし、皆さんが感じているPROBLEMはそんな簡単に解決できるものでは無いはずです。そして表面上問題が解決されたような状況に見えても本質の問題は残り続けプロジェクトをじわじわ痛めつけてくる場合があります。解決はできないとしても、問題を正しく理解することができるだけでも大きな効果はあるはずです。
TRYを明確化する
PROBLEMについて検討したら、解決策を明確にします。解決策が明確になったらTRYに付箋を貼って何を実施するのかを共有します。TRYは出来る限り具体的である必要があります。たとえば「レビューを強化する」などというのは曖昧で本当に強化したかはわかりませんし効果も不明です。それよりは、「レビュー記録をWikiにつける」「必ずPull Requestを出す」と具体的に実施できる内容にしましょう。そしてKPTが終了したあとも「何が良くて、どんな問題があって、どうするつもりか」を意識できるようにKPTの付箋を作業場所から見える場所に貼っておきましょう。もし作業場所に自由に使える壁がない場合は致し方ないのですが、写真をとってWikiに保存しいつでも閲覧可能にしておきましょう。またおすすめは写真だけではなく、付箋一枚一枚の内容をテキストでも保存しておくと良いでしょう。朝会などで定期的に前回のKPTの内容を確認すると効果的かもしれません。
ふりかえりの進め方のまとめ
今回は、ふりかえりの一つとして実施するKPTの具体的な進め方を中心にご説明しました。ふりかえりを進める上で大事な点を書きましたが、もっとも重要な点をここでお伝えしておきます。
- "メンバー全員がプロジェクトの成功を目的として集まっている"と信じること
プロジェクトを進めていると、些細な行き違いや方針の違いでトラブルになることがあります。しかし本来の目的は全員同じはずです。全員が同じ目的を持っていると信じることができれば、たいていのPROBLEMは解決できるはずです。
今回はふりかえり手法のKPTの実施方法についてご説明しましたが、この手法はシステム開発プロジェクト以外でも有用だと思います。応用範囲は広いので様々なプロジェクトやチームでKPTの実施を検討してみてはいかがでしょうか。
次回後編では事例なども含め、その効果も考えていきたいと思います。
執筆者紹介
川上文夫
パッケージベンダーのグループマネージャーとして複数プロジェクトのPM、PLを兼務。要件定義からプログラミング、テスト、運用を担当している。数多くのプロジェクトのリーダーとして20年のキャリアがあり、オフショア開発の経験も豊富。独自プラクティスに軽量議事録、朝会Wiki、設計実装並列手法などがある。アジャイル系コミュニティにも所属し、記事の執筆やワークショップ登壇など精力的に活動を続けている。