議事録の必要性

議事録を作成しないというプロジェクトはほとんど無いと思いますが議事録の有効性を簡単にまとめておきます。

  • 決定事項などを記録し、内容を明確化しておく
  • 会議に参加しなかった人にも共有できる
  • 後日、決定事項などを確認できる

このようなメリットがありますが、議事録自体は大抵の場合、プロジェクトのゴールには直接役には立ちません。たとえばシステム開発の場合、動くソフトウエアには直接は関係ないですね。なので、できる限り議事録作成にはコストを掛けず運用したいものです。

軽量議事録とは

軽量議事録とは主に以下のような内容を実施する手法です。

  • 事前に議事録のベースとなるものを全員で作成する
  • 議事録のベースを参照しながら会議を進める
  • 会議後に全員で追記、修正する
  • メールや電話、立ち話しの内容も記載する
  • 気軽に誰もが書き込み可能

書いてみるとこれだけでとても単純に思えますが、このような手法で議事録を作成しているチームをあまり見かけたことはありません。なにが有効なのかをご紹介していきましょう。

事前に議事録のベースとなるものを全員で作成する

重要な会議の前にはアジェンダを作成することが多いと思いますが、軽量議事録では若干やり方が違います。軽量議事録ではアジェンダ作成に個別の担当者をたてず、チームメンバー全員が会議前に確認したいことや検討したいことを記載しておく、というやり方をします。内容が乱雑で会議のアジェンダとしては不適切では?、という疑念を抱く方もいるかもしれません。しかし、問題を感じたら朝会などで共有し会議の前までに適宜修正するので、問題にはなりません。

もちろん、気軽に議事録を共有できるインフラは必要です。現時点ではやはりWikiを利用するのが良いと思います。

議事録のベースを参照しながら会議を進める

会議はこの軽量議事録を全員に配布して進めます。会議が曖昧になったり、重要な確認事項が漏れたりしないよう適宜アジェンダを確認しながら進めればよいですね。

会議によっては議事録担当者が出席してリアルタイムで議事録を取る場合もあるようですが、あまり効率が良いとは思えません。会議の時間はお客様やメンバーの貴重な時間を確実に費やしてしまうので、高度に効率化しなければなりません。議事録専門の人を参加させなければならないような会議が無いとは言いませんが、一般的なシステム開発ではそこまで詳細な議事録を書く必要はないはずです。会議に参加してもらうのならば、積極的に発言し、会議を有効に実施できるメンバーが参加すべきです。知っていてもらいたい程度ならば後日軽量議事録を見ながら共有するのがよいでしょう。教育目的で若手に議事録を書かせるというプロジェクトもあるようですが、それも賛成できません。その若手は会議に参加する目標を「よい議事録を書くこと」としてしまうからです。会議に参加するならば、その会議の主旨、内容、課題などを理解するようにすべきであり、議事録作成を目的にしてはいけません。議事録作成のスキルなんてほとんど何にも役に立ちません。

会議後に全員で追記、修正する

たいていのアジェンダは会議が終了したら用済みですが、軽量議事録では会議後に参加者全員でそのアジェンダに決定事項などを追記していきます。追記するだけなので、議事録を一から書き起こすより少ないコストで効率よく書くことができます。会議前の作成時と同じように参加者全員が加筆修正するので、漏れも少なくなります。

メールや電話、立ち話しの内容も記載する

軽量議事録は事前に決まっている会議にのみ適用されるわけではありません。突然お客様から電話がかかってきて重要な検討がなされる場合も多いと思います。そのようなときにも議事録を残しておくと効率よくプロジェクトを進めることができます。

自分のプロジェクトでは議事録はWikiにまとめ、アジェンダ作成から電話、メール、立ち話まで必要と思ったらすべて議事録としてWikiに記載しています。すべて書くのは大変という意見もあるでしょう。しかし、後日「議事録に書いておけばよかった」という内容はたいていその時点では「書かなくても問題ないな、口頭でみんなに伝えればいいな」と思ったような内容なのです。後日その議事録が必要かどうかはその時点ではたいてい判断できないのです。なので、常にすべてを書いておく、というやり方が必要なのです。

ただ気をつけたいのは議事録を書くのにコストをかけてはいけない、という点です。ルールなどは設けず、たんに書いておくだけでもよい、としておくほうが最終的には役に立つことになるのです。

メールはわざわざ転記するのは面倒なので、自分はコピーして貼り付けておきます。「メールにあるのだからわざわざWikiに転記する必要はないのでは?」と思う人もいるかもしれません。しかし、後日その内容を探す際に、メールを検索するのは非効率的だからです。

気軽に誰もが書き込み可能

軽量議事録は議事録担当も設けませんし、テンプレートも用意しません。如何に気軽に誰もが書き込むことができるか、を重視します。テンプレートなどを用意し素晴らしい議事録を作成することは、仕事の達成感という意味では満足できるもしれませんが単なる自己満足でしかありません。動くソフトウエアに直接寄与しないのでできる限り簡易に作成し、あまりコストをかけずに維持作成することが大事なのです。

仕様変更は防げない

議事録を作成する意味として、仕様変更を起こさないために会議で決まったことを証拠として残しておく必要がある、と考えるチームもあるでしょう。しかし、それがどの程度有効でしょうか。問題は2点あります。

  • 証拠があると思っても証拠にはならない
  • ビジネス価値が損なわれる

議事録があってもお客様によっては仕様変更は防ぐことは難しいはずです。いくら決定事実が記載されそれを証拠にしたいと考えても、前提条件が違ったり細かな解釈が異なっているなど、状況や解釈によっては証拠にはなりません。なによりその証拠の確からしさをお客様と揉めることが、もっとも無意味な時間の費やし方だと思います。

それに仕様変更はビジネス価値として「必要だ」「有効だ」と後日に気づいた場合にも発生します。それを「No!」と言うことがお互いのためになるでしょうか。このあたりは「捨てる技術IT編」をご参照ください。

軽量議事録の実施

軽量議事録は簡易で容易に維持できる仕組みですが、習慣化されるまでは議事録のない会議が存在している場合も多いでしょう。自分のプロジェクトでもチーム結成当初は自分ひとりが議事録を作成し、会議後の加筆修正も自分が実施していました。しかしそのうちチームメンバーの中から積極的に議事録作成に関わるメンバーが出始め、徐々にチームの文化として習慣化されていきます。ぜひ軽量議事録を皆様のチームでも実施してみてはいかがでしょうか。

次回はアジャイルプロセスの本質に迫ってみたいと思います。

執筆者紹介

川上文夫

パッケージベンダーのグループマネージャーとして複数プロジェクトのPM、PLを兼務。要件定義からプログラミング、テスト、運用を担当している。数多くのプロジェクトのリーダーとして20年のキャリアがあり、オフショア開発の経験も豊富。独自プラクティスに軽量議事録、朝会Wiki、設計実装並列手法などがある。アジャイル系コミュニティにも所属し、記事の執筆やワークショップ登壇など精力的に活動を続けている。