年を重ねるにつれ、1年が短く感じることを「ジャネーの法則」と言うらしいが、そんな法則があるという雑学を思い出す余裕もなく、2017年があっという間に過ぎ去っていった。

昨年の宇宙開発において、最も大きく話題になったのは、スペースXによる「ファルコン9」ロケットと「ドラゴン」補給船の再使用の成功だろう。そして日本ではH-IIAロケットが6機も打ち上げられ、すべて成功するなど、着実に成果を伸ばしつつある。また、海外と日本では超小型のロケットの打ち上げも活発に行われ、引き続き2018年も挑戦が続く。

インドや中国は新しいロケットの打ち上げを行う一方で、それぞれ失敗を経験。またロシアもロケットの打ち上げに失敗するなど、決して順風満帆ではなかった。

宇宙科学の分野では、宇宙望遠鏡「ケプラー」などが多数の系外惑星を発見し、「もうひとつの地球」というキーワードが何度も話題になった。そして日本では、月探査機「かぐや」のデータから、月の地下に巨大空洞が見つかったことが大きな話題となった。

酉年だけに、大きく羽ばたくことも、取りこぼすこともあった2017年だが、2018年もまた、戌年だけに"わん"ダフルなことが数多く予定されている。

そんな2018年の宇宙開発における予定・計画を取り上げる連載。第1回では超大型ロケットや超小型ロケットの打ち上げ、新たなる月と火星の探査、そしてもうひとつの地球を探す宇宙望遠鏡について紹介しよう。

1月中旬: インドの「PSLV」ロケットの復活

昨年、打ち上げに失敗したインドの主力ロケット「PSLV」が、1月にも復活する。

PSLVは2017年8月31日に、インドの航法衛星を搭載して打ち上げられるも、衛星フェアリングの分離ができずに失敗。インド宇宙研究機関(ISRO)はこれまで原因究明と対策を続けてきた。

PSLVはインドの主力ロケットのひとつであるばかりでなく、小型・超小型衛星の打ち上げでも高い実績をもつ。その実績と低価格さから、他国の衛星の商業打ち上げも多数手がけており、他国からの信頼も厚く、インドにとっては稼ぎ頭でもある。

そのためPSLVの復活は、インドにとっても、世界の小型衛星ビジネスにとっても重要な意味をもつ。

参考: 「インドの主力ロケット「PSLV」が打ち上げに失敗 - 日本の宇宙開発にも影響か」

  • インドのPSLVロケット

    インドのPSLVロケット (C) ISRO

1月18日:「イプシロン」ロケット3号機の打ち上げ

1月18日には、日本の小型固体ロケット「イプシロン」の3号機の打ち上げが予定されている。

2013年に初めて打ち上げられたイプシロンは、1号機(試験機)の打ち上げ後、「強化型」と呼ばれる改良を実施。打ち上げ能力や衛星にとっての乗り心地を大きく高め、将来の小型衛星の需要の拡大と多様化に対応できるようにした。

強化型の1号機となるイプシロン2号機は2016年に打ち上げに成功。今回の3号機では、軌道投入精度を向上させるポスト・ブースト・ステージ(PBS)と呼ばれる第4段ロケットの改良型や、衛星分離時の衝撃を小さく抑えた低衝撃型衛星分離機構などを搭載した、初の打ち上げとなる。

イプシロンの強化型は、この3号機の成功をもってひとつの区切りを迎え、今後は本格的な運用状態に入り、JAXAなどの衛星打ち上げのほか、商業打ち上げの受注にも期待が集まる。またJAXAでは、第1段とH3ロケットの固体ロケット・ブースターとを共有する「シナジー・イプシロン」の開発がより進むことになる。

今回の3号機で打ち上げるのは、NECが開発した地球観測衛星「ASNARO-2」。小型ながら高性能なレーダーを搭載した衛星で、国内のほか、他国への販売も狙う。

  • イプシロン2号機の打ち上げ

    イプシロン2号機の打ち上げ (C) 渡部韻

1月末以降:スペースXの超大型ロケット「ファルコン・ヘヴィ」の打ち上げ

計18機ものロケット打ち上げにすべて成功し、機体の再使用打ち上げにも成功。さらに火星移民構想の改定版も発表するなど、2017年も数々の話題を残したスペースXは、早ければ1月末にも、超大型ロケット「ファルコン・ヘヴィ」(Falcon Heavy)の打ち上げに挑む。

ファルコン・ヘヴィは同社が運用するファルコン9を3機束ねたようなロケットで、打ち上げ能力は地球低軌道に最大63.8トン、火星へは16.8トンと強大な性能をもつ。スペースXではこの打ち上げ能力をいかして、巨大な軍事衛星や、大型の月・惑星探査機などを打ち上げることを狙っている。

初打ち上げでは、ロケットの性能確認用のダミー・ペイロード(重り)として、スペースXのイーロン・マスクCEOが所有する電動スポーツカー「テスラ・ロードスター」が搭載され、地球と火星間のホーマン遷移軌道に向けて打ち上げられる。

参考: 「ロードスターが宇宙へ! - イーロン・マスクの"最高にくだらない"挑戦」

  • 打ち上げに向けた試験を行うファルコン・ヘヴィ

    打ち上げに向けた試験を行うファルコン・ヘヴィ (C) SpaceX

1月以降:超小型ロケット「エレクトロン」2号機の試験打ち上げ

ニュージーランドを拠点に活動している米国のロケット会社「ロケット・ラボ」。同社が開発中の超小型ロケット「エレクトロン」は、昨年5月に初めての試験打ち上げを行うも、失敗に終わった。そして早ければ1月にも、その2号機の打ち上げが行われようとしている。

エレクトロンはマイクロ・ローンチャー(超小型ロケット)と呼ばれるロケットのひとつで、高度500kmの太陽同期軌道(地球観測衛星などがよく打ち上げられる軌道)に約150kgの打ち上げ能力をもち、小型・超小型衛星を、好きなときに好きな軌道へ、安価に打ち上げることを目指している。

同社によると、1号機の打ち上げではロケットそのものは順調に飛行していたものの、地上設備のトラブルによって安全確認ができなくなったことから、打ち上げを中断せざるを得なくなったとしている。つまり地上設備さえ正常だったなら、打ち上げが成功していた可能性もあった。

今回の2号機ではくだんの地上設備の改修が行われたほか、重りを積んでいた1号機とは異なり、今回は実際に超小型衛星を搭載して打ち上げが行われることもあって、その成功に期待が集まっている。

参考: 「小型衛星の商用利用は拡大するか? - 宇宙ベンチャー「ロケットラボ」が新型超小型ロケットの初打ち上げを実施」

  • エレクトロンの1号機の打ち上げの様子

    エレクトロンの1号機の打ち上げの様子 (C) Rocket Lab

2月3日: 超小型ロケット「SS-520」5号機の打ち上げ

SS-520-4の打ち上げの様子

SS-520-4の打ち上げの様子 (C) JAXA

昨年、「世界最小のロケット」、あるいは「電柱ロケット」として話題になった、JAXAの「SS-520」を改造したロケットによる衛星打ち上げ。昨年の打ち上げは失敗に終わったものの、原因究明と対策が行われ、今年ふたたび打ち上げに挑む。

打ち上げるのは東京大学が開発した超小型衛星「TRICOM-1R」。前回搭載されていたTRICOM-1の代替機となる。

打ち上げは昨年末に予定されていたものの、搭載部品の一部に不具合が確認されたため、今年へ延期。新しい打ち上げ日は2月3日に再設定された

編集注:打ち上げ日が確定したことから、1月22日に追記いたしました

3月20日:NASAの系外惑星探査機「TESS」の打ち上げ

近年、望遠鏡や探査機によって発見が相次いでいる、太陽系外にある惑星(系外惑星)。すでにこれまでに4000個近い数の系外惑星が見つかっており、その中には地球のような気候や、あるいは液体の水をもつものもあるという予測もある。

そして今年、米国航空宇宙局(NASA)は、さらなる未知の系外惑星の発見を目指した宇宙望遠鏡「TESS」を打ち上げる。

TESSはトランジット法と呼ばれる、恒星のまわりを回る惑星が、望遠鏡から見て恒星の前を横切った際に恒星がわずかに暗くなることを利用して、系外惑星を発見する。

この方法はこれまでも用いられていたが、TESSではさらに精度よく検出できるようになっており、さらに多くの系外惑星の発見と、その大きさや密度、大気などについて詳しく知ることができると期待されている。

  • TESSの想像図

    TESSの想像図 (C) NASA

3月以降:インドの月探査機「チャンドラヤーン2」の打ち上げ

チャンドラヤーン2の想像図

チャンドラヤーン2の想像図 (C) ISRO

2008年に初の月探査機「チャンドラヤーン1」の打ち上げに成功し、2014年には火星探査機の打ち上げにも成功するなど、宇宙探査の分野でも勢いを増すインドは今年、2機目となる月探査機「チャンドラヤーン2」の打ち上げに挑む。

チャンドラヤーン1は月のまわりを回る探査機だったが、チャンドラヤーン2は周回機のほか、着陸機も搭載しており、周回機によって着陸場所の選定や通信の中継を行い、着陸機を降ろす。さらに着陸機には小型の探査車も搭載しててり、月面を走行して探査する野心的なミッションとなる(なお、着陸場所などはまだ決定はされていないようである)。

インドのメディアによると、現在のところ打ち上げは3月以降の予定だという。

4月以降:欧露の火星探査機「トレイス・ガス・オービター」が科学観測を開始

2016年に打ち上げられた欧州とロシアの火星探査計画「エクソマーズ」の第1段となる、「トレイス・ガス・オービター」(TGO)が、いよいよ科学観測を開始する。

TGOは同年10月19日に火星に到着。以来、火星の大気を使って軌道を整えてきた。軌道変更は今年3月に完了する予定で、その後軌道の微調整や、機器の試験などを経て、4月以降に本格的な科学観測が始まる予定となっている。

エクソマーズは、火星における生命の存在、あるいは痕跡を探すことを目的とした探査計画で、TGOは火星の大気、とくにメタンや水蒸気、窒素酸化物、アセチレンといった微量ガス(Trace Gas)に重点を置いた観測を行う。微量ガスのうち、とくにメタンは生命活動から発生している可能性があり、火星にいまも生命活動があるのか、あるいは過去にはあったのかについて、答えを知ることができると期待されている。

エクソマーズはまた、TGOなどからなる今回のエクソマーズ2016と、4年後の2020年に打ち上げが予定されている「エクソマーズ2020」の大きく2回に分けて行われる。エクソマーズ2020では大型の火星探査車が送り込まれる予定で、現在も欧露の間で開発が続いている。

参考: 「牙を剥いた火星の魔物 - 探査機「エクソマーズ2016」、悲喜交交の火星到着」」

  • 火星の大気を使って軌道変更するTGOの想像図

    火星の大気を使って軌道変更するTGOの想像図 (C) ESA

(次回は1月19日に掲載します)

参考

PSLV-C40/Cartosat-2 Series Satellite Mission - ISRO
Rocket Lab delays ‘Still Testing’ launch attempt | Rocket Lab
TESS - Transiting Exoplanet Survey Satellite
India's Chandrayaan-2 mission preparing for March 2018 launch | The Planetary Society
ExoMars Trace Gas Orbiter provides atmospheric data during Aerobraking into its

著者プロフィール

鳥嶋真也(とりしま・しんや)
宇宙開発評論家。宇宙作家クラブ会員。国内外の宇宙開発に関する取材、ニュースや論考の執筆、新聞やテレビ、ラジオでの解説などを行なっている。

著書に『イーロン・マスク』(共著、洋泉社)など。

Webサイトhttp://kosmograd.info/
Twitter: @Kosmograd_Info