本連載の第56回でヘリコプターのトランスミッションについて書いた。それについて、読者の方から御教示をいただいたので、フォローアップのために急遽、補遺をまとめることにした。

トランスミッションに荷重をかけるかどうか

繰り返しになってしまうが、第56回で書いた内容を引用する。

その出力軸が取り付く先は、前述した「機体の重量がすべてかかってくるローター・ヘッド」だから、ローター・ヘッドとギアボックスを単純につなぐわけにはいかない。そんな設計にしたら、機体の重量がストレートに、ギアボックスとその内部の歯車にかかってしまう。

そこで、ローター・ヘッドにかかる荷重を受けて機体構造材とつなぐ部材(リフト・ストラット)を設ける。それが荷重伝達を受け持つわけだ。その下にギアボックスを配置して、ギアボックスの出力軸とローター・ヘッドをつなぐ。

御教示いただいたのは、「その方法(スタティック・マスト方式)は、実は少数派」という話であった。日本国内にある機体で言えば、陸自のOH-6、AH-64アパッチ、川崎OH-1。また、MDヘリコプターズのMD900でも使用しているとのこと。

では、多数派の方式とは何か。それが実は、機体の重量や操縦時にかかる荷重がストレートに、ローター・ヘッドからその下にあるギアボックスと、その内部の歯車にかかる構造とのとことだった。これをダイナミック・マスト方式というそうだ。

ダイナミック・マスト方式の場合、ギアボックスや歯車に対してかかった重量や荷重は、トランスミッション・ケースに伝わる。そして、トランスミッション・ケースからから、ストラットやマウントを介して機体に伝わるという流れになるそうだ。

ということは、トランスミッション・ケースはいうに及ばず、その内部の軸や歯車も、ずいぶんと大きな荷重に耐えていることになる。しかし、そのほうがシンプルな構造になることは間違いなさそうだ。荷重を分散する代わりに複雑な構造にするか、荷重が歯車にモロにかかる代わりにシンプルな構造にするか、という二者択一になるのだろうか。

陸の上に似た話があった

ここで、ヘリコプターの話から脱線する。

駆動系が、重量や荷重を受ける強度部材を兼ねている事例。どこかで聞いた話だと思ったら、レーシングカーの設計では日常的に行われている手法である。

特にF1みたいなフォーミュラカーだとわかりやすいが、「胴体」となるモノコックの部分は、コックピットとその後ろの燃料タンクのところまでで、そこですっぱり切れている。

では、その後ろはどうなっているかというと、エンジンやトランスミッションが取り付いていて、そのトランスミッションのケースから後輪を支えるアームが生えていたり、後輪に加わる力を受けるためのショック・アブソーバーやスプリングがついていたりする。

レーシングカーが走れば、上下方向、左右方向、ねじれ方向といった荷重がかかるが、それがエンジンやトランスミッション・ケースにモロにかかってくる。当然、それに耐えられる設計にしなければならないから、その分だけ大きく、重くなる。もしもエンジン・ブロックがねじれてしまったら、エンジンがまともに回らない。

それでも、別途、後輪のサスペンションを支えるための部材をエンジンの両脇から後ろに伸ばすことを考えると、エンジンやトランスミッションをそのまま強度部材にして所要の強度を持たせるほうが、シンプルかつ軽くなるわけだ。

それに、エンジンから後ろのエリアでは排気系の取り回しが必要になるから、そのための空間が必要になる(排気系の取り回しだってエンジンの性能に影響する)。それに、エンジンの両脇に余計な部材がないほうが、ことに車体底面の形状を工夫する場面で、空力設計の自由度が高くできると思われる。

最後に、おまけの写真を

荷重伝達の話からは外れるが、6月19日にニュージーランド海軍のフリゲート「テ・カハ」が晴海埠頭に入港した時に、搭載していたヘリコプター、カマンSH-2Gスーパー・シースプライトのローター折り畳み作業を行う模様を撮影できたので、その写真を載せてしまおう。

海上自衛隊のSH-60Kだとローター折り畳みは機械仕掛けだが、SH-2Gは人が上によじ登って手作業で実施していた。個々のローター・ブレードの付け根に、折り畳みの際に回転軸となるピンと、展開したローター・ブレードを固定するとともに荷重伝達を行うためのピンが組み込まれているようだ。そして後者のピンを外すと、手作業でローター・ブレードを折り畳むことができる。

SH-2Gでびっくりしたのは、メインローターだけでなく、反トルク打ち消しに使用するテイルローターのブレードも折り畳んでしまっていたところだった。

まず、人が機体上部に登って、ローター・ブレード固定用のピンを外す

ピンを外すと、このようにブレードの折り畳みが可能。左端のあたりで、ブレードに付けたケーブルを持った人が移動している様子が分かる。これによって折り畳みが行われる

完全に折り畳んだら、ブレードの端を機体に固定する

上の写真では、まだテイルローターは拡げられた状態だが、畳んでしまうとこの通り

しかし、ここまでやらないとヘリ格納庫に収まらないのである。その様子は上の写真でおわかりの通り。テイルローターを拡げたままでは、入口でひっかかってしまう

ちなみに、SH-2Gは小型だからやらないが、大型の艦載ヘリではテイルブームの途中にヒンジを設けて、前方に向けて折り畳めるようにしている機体がある。全長を縮めないとヘリ格納庫に入らない可能性が懸念された場合に、そうやる。レオナルド・ヘリコプターズ(旧アグスタウェストランド)のAW101(旧称EH101)が典型例だ。