これまで5回にわたり、航空機の機体構造がどうなっているかについて解説してきた。締めくくりとして、そこで使われている素材の話もしておかなければならないだろう。

アルミ合金系素材

かつては「全金属製機」などといって、わざわざ区別していたが、それは木材を使用する機体が多かった時代の話。今では金属材を使用するのが当たり前になっている。航空機は軽くかつ丈夫に作らなければならないので、金属なら何でも良いというわけにはいかない。

そこで主流となったのがアルミ合金である。純アルミニウムではなく、さまざまな金属を添加した合金素材を使っているが、そのほうが性質が優れているためである。特に広く知られているのがジュラルミンだろう。

最初に登場したのは、アルミニウムに銅を添加した素材で、ジュラルミンといえばこれである。その名称の由来は、ドイツのデュレンという街で開発されたから、あるいはラテン語でhardを意味するdurusとaluminiumを合成してできたという説がある。

日本工業規格(JIS)では、アルミ合金には4桁の数字あるいはアルファベットを組み合わせた名前がつけられている。ジュラルミンは2017で、銅を3.5~4.5%、珪素を0.5~1.2%、そのほか鉄、マンガン、マグネシウム、亜鉛、クロム、チタン、ジルコニウムといったものもいくらか混ざる。主な部分を占める元素の名前から、Al-Cu系ということになる。

その後に登場したのが「超ジュラルミン」こと2024。銅を3.8~4.9%、マグネシウムを1.2~1.8%、そのほか鉄、マンガン、珪素、亜鉛、クロム、チタン、ジルコニウムといったものもいくらか混ざる。主な部分を占める元素の名前から、Al-Mg系ということになる。

そして「超々ジュラルミン」こと7075がある。最近ではスマートフォンのドンガラでも使われているらしいが、元々は航空機用の素材だ。いわゆるAl-Mg-Zn系で、銅を1.2~2.0%、マグネシウムを2.1~2.9%、亜鉛を5.1~6.1%、そのほか鉄、マンガン、珪素、クロム、チタンといったものもいくらか混ざる。

航空機用ではこの3種類がメジャーだが、もしも興味があったらJISの規格書を見てみていただきたい。あきれるぐらいたくさんのアルミ合金素材が規格化されている様子がわかる。航空機と並んでなじみ深いアルミ製品というと鉄道車両(特に新幹線)があるが、こちらは6N01や7N01など、溶接性と押出加工性に優れた素材が使われる。航空機はリベット止めが普通だから、鉄道車両ほど溶接性は重視されないようだ。

アルミ合金素材の使い分け

後から出てきた素材ほど軽くて丈夫ということであれば、何でも7075で造ればよいかというと、そういうわけでもないところが面白い。

例えばボーイング747の場合、胴体のうち与圧する部分の外板、それと主翼の下面には、疲労と亀裂に強い2024を使う。胴体でも縦通材やフレーム、非与圧部分の外板、あるいは主翼の桁・リブ・上面外板、それと尾翼は7075だ。7075の方が圧縮・引張・曲げに強いが、疲労においては2024のほうが有利だといわれる。

主翼で発生させた揚力で機体全体を支えているわけだから、基本的に、主翼の上面には圧縮荷重がかかり、下面には引っ張り荷重がかかる。そのことが、「上面外板は7075、下面外板は2024」という使い分けにつながっているわけだ。

ちなみに、主翼の外板は局所的に10mmを超える厚みになることもあるが、胴体の外板は一番薄いところで1.6mm厚だそうだ。繰り返すが、1.6cmではなく1.6mmである。これで機内の与圧による圧力差に耐えているのだからすごい。

炭素繊維複合材

複合材料というと真っ先に思い浮かぶのはカーボンファイバー、つまり炭素繊維複合材だろう。厳密にいうと、炭素繊維とはその名の通りに繊維であって、それを樹脂で固めたものが炭素繊維強化樹脂である(CFRP : Carbon Fiber Reinforced Plastic)。繊維と樹脂を組み合わせているから複合材だ。組み合わせる樹脂素材はエポキシ樹脂が多い。エポキシ樹脂以外では、ポリアミド樹脂やナイロン樹脂を使うこともあるという。

ボーイング787を構成する胴体構造の一部。今ではこんなデカブツでもCFRPで造ることができるが、相応に大きなオートクレーブが必要になる。なお、黒いのは梱包材の色で、中身がむき出しになっているわけではない点に注意

複合材の組み合わせはこの2種類に限らない。風呂でおなじみのガラス繊維強化プラスチック(GFRP : Glass Fiber Reinforced Plastic)も、極端なことをいえば鉄筋コンクリートだって複合材料である。まあ、鉄筋コンクリートで飛行機を作ることはないだろうから、それはおいておくとして。

強度が求められる部分では、炭素繊維の糸を織り合わせて造った「織物」にエポキシ樹脂を含侵させた、「プリプレグ」と呼ばれるものを使う。プリプレグ自体は柔らかいが、これを型に敷き込んでからオートクレーブと呼ばれる「釜」に入れて焼き固めると、軽くて丈夫な構造材ができる。いわゆるドライカーボンというやつである。

「織物」を使うから、繊維の向きによって強度が違ってくる。裏を返せば、どの方向に強度を持たせたいかという希望に合わせて繊維の配列を工夫することで、「ある方向に対しては強いが、別の方向に対しては変形しやすい」なんていうものも造ることが可能だ。

ただ、この方法は製作に手間がかかる上に、電気代もかさむ。もちろん、コストや手間よりも強度が優先されるところではドライカーボンを使うが、要求仕様によっては量産性と経済性を重視して、別の方法を使うことがある。

例えば、樹脂含侵成型法(RTM : Resin Transfer Molding)がある。これはオス型とメス型の間に炭素繊維の織物を敷き込み、そこに樹脂を注入して含侵・成型するものだ。樹脂が固まったら型から外せばよい。樹脂を注入する際に、反対側で気圧を下げることで樹脂の回りを良くするのが、真空樹脂含侵成型法(VaRTM : Vacuum Assisted Resin Transfer Molding)である。

いくらCFRPが軽くて高強度だといっても、プラモデルみたいに一枚物の板で所要の強度を持たせるわけにはいかず、ちゃんと骨組と外板を組み合わせている。JAXAの施設一般公開で展示されていた、CFRP製機体構造材のサンプルを御覧いただこう。

CFRP製機体構造のサンプル。骨組と外板をそれぞれCFRPで形作り、リベットで止めている様子がわかる

航空機以外だと、1980年代半ばからレーシングカーの車体をドライカーボンで造るのが普通になった。鉄道車両でも、JR東日本のE4系新幹線電車の一部が先頭部をCFRPで造ったことがあるし、CFRPの弾性を生かした台車「efWING」の導入事例が増えつつある。どちらも川崎重工の仕事だ。スキー板をCFRPで造った事例もあるが、これを手掛けたフィッシャーにしろ川崎重工にしろ、航空分野でCFRP製品を手掛けているメーカーでもある。