固定翼機は高度が十分にあれば、エンジンが停止しても滑空して降りてくることができる。巨大なボーイング767ですら、ガス欠でエンジンが止まってしまった時に、ちゃんと滑空して降りてくることができた。では、ヘリコプターはどうだろうか?

固定翼機との根本的な違い

固定翼機は高度を速度に変換して前進速度を得ることで、主翼の揚力につなげることができる。ところが、ヘリコプターはメインローターをエンジンで回すことで揚力を得ているので、エンジンが停止したらメインローターを回す力を失ってしまう。では、エンジンが停止したら飛行不可能、制御不可能になるのか?

そこで登場するのが「オートローテーション」だ。時々、略して「オートロ」と書く人がいるが、もちろん大トロとは何の関係もない。

エンジンとローター・ハブの接続を切れば、メインローターは自由に回転できるようになる。そして機体が十分な高度をとっていれば、機体が落下することで下から上に向かう空気の流れが発生するから、メインローターはそれによって回転して揚力を生み出してくれる。

これがオートローテーションである。落下の際の空気の流れによって自動的にメインローターが回転するので、こういう。ただし、これを実現するには注意点がいくつかある。

まず、それなりに高度がないと話が始まらないのだが、これは固定翼機を滑空させる場合でも同じこと。

そして、ローター・ブレードの迎角を減らす操作が必要になる。迎角が大きいと抵抗が大きくなり、メインローターの回転数が急速に下がってしまうからだ。ローター・ブレードの迎角を減らす操作は通常飛行時と同じで、左手で操作するコレクティブ・ピッチ・レバーを下げればよい。

また、機首の方向を維持するためにアンチトルク・ペダル(ラダーペダル)を操作する必要もある。風の力によってメインローターが回れば、それとギアボックスを介して機械的につながっているテイルローターも回転するので、機体の向きを制御する手段はある。機体の前傾はサイクリック・ピッチ・スティックによって実現する。

ただし、地面にドスンと着陸してしまうと衝撃が大きいので、機体を前傾させて前進速度をつけたり、接地の直前にコレクティブ・ピッチを増して浮揚力を増やしたりすることで、(比較の問題だが)スムーズに着陸できるようになるのだそうだ。

ティルトローター機の場合は?

さて。オートローテーションという言葉を広く知らしめるさせるきっかけになった機体と言えば、御存知V-22オスプレイである。

V-22オスプレイはヘリコプターと同様に垂直離着陸ができるが、ヘリコプターではない。ヘリコプターと違って主翼がついていて、エアプレーン・モードのときには主翼が発生する揚力によって機体の全重量を支えている。

だから、エンジンが停止した際にも主翼の揚力を使って滑空できるわけで、そこがヘリコプターと違う。固定翼機と比べると滑空比は小さく、一説によると4.5。それでも、エアプレーン・モードであれば滑空はできる。

オスプレイの飛行モードと特徴 資料:防衛省

滑空比とは、沈下距離に対する前進距離の比率。例えば、高度1,000mから滑空して10,000mの前進ができれば滑空比は10である。つまり、滑空比が小さいということは、同じ高度をとっていても前進できる距離が少ないということである。滑空比4.5なら、高度1,000mで4,500mの前進が可能という意味になる。

なお、滑空比はあくまで距離の比率の問題。滑空比の大小と速度の大小は別の話だ。問題になるのは前進速度よりも沈下率だろうが、V-22オスプレイが滑空する場合の沈下率は毎分3,500~4,000ft(1,067~1,219m)、秒単位にすると17.8~20.3m。かなり速い数字に見えるが、着陸が困難になるほどの沈下率ではないとされている。

さて。問題のオートローテーションはどうかというと、エンジンナセルの角度が60度以上上向きになっていて、両エンジン停止、かつ飛行中という条件が満たされれば、オートローテーションを使って着陸できる。その場合、降下率は毎分5,000ft(1,524m)。速度は110ノット(204km/h)を維持して、着陸直前に機体を引き起こして60ノットまで減速する。

そもそも、ヘリコプター・モードに切り替えているということは、すでに機体は離着陸場所の近所まで来ている(あるいは飛び立った直後)ということである。近所に離着陸が可能な場所があるのなら、遠くまで「降りられる場所」を探しに行く理由はなかろう。

それに、オートローテーションができたからといって漫然と飛び続けられるわけではない。あくまで、機体をコントロールして速やかに降着場所を見つけて、そこに降ろさなければならないのは同じだ。「オートローテーションができるから安全/できないから危険」という話に持って行くのは短絡的に過ぎる。

逆に、離着陸場所から離れている場合はエアプレーン・モードで高度をとって飛んでいるのだから、滑空して降りてくることになる。「大きなプロップローターを前に向けたままで不時着したら、プロップローターが地面にぶつかるではないか」というのは当然の疑問だが、あのプロップローターはガチガチに固いわけではなく、地面に当たればバラバラになる設計だ。

それに、回転するプロペラが地面を叩く可能性があるのは固定翼プロペラ機にもついて回る問題で、V-22オスプレイに固有の問題ではない。また、可能であれば着陸直前にナセルを上向きにすることで、プロップローターと地面の接触を回避できる。

純然たるヘリコプターではないから、V-22オスプレイに固有の飛行特性、操作手順、注意点をマスターしなければならないのはいうまでもないが、それはどんな機体を操縦する時でも同じことである。

ちなみに、V-22オスプレイはエンジンが2基あるが、両者はシャフトでつながっているので、片方のエンジンがダウンしても、他方のエンジンでプロップローターの回転を維持できる。もちろん、両方のエンジンが生きている場合と比べれば出力が小さいから、発生できる推進力や揚力が限られる。それでも、いきなりゼロになるわけではない。そして、片発停止の確率と比べると、両方のエンジンが停止する確率は低い。