第55回で解説したように、ヘリコプターは揚力と推進力を発生させるメカニズムの関係で、最高速度に関する制約がついて回る。しかし、特に軍用ではスピードが遅いと生存性や作戦上の効率に関わるから、最高速度に関する制約をなんとかして突破できないか、という話が出てくるのは必然と言える。
ユーロコプターX3
ヘリコプターは、揚力と推進力の両方をメインローターに依存している。しかし、推進力と揚力を得る手段を別に用意できれば、両方を兼用する負担からは解放されるのではないか、という発想が出てくる。
そこで登場したのが、ユーロコプター(現エアバス・ヘリコプターズ)社の技術実証機「X3」で、2010年9月6日に初飛行を実施した。これはH3(High-speed, long-range Hybrid Helicopter)コンセプトの下で開発した機体で、経費節減のためにAS365ドーファンの胴体を利用して製作した。
基本的な動力系の構成は、2基のターボシャフト・エンジン(ロールス・ロイス/ターボメカRTM322)を使い、5翅のメインローターとともに、機体の左右に取り付けたプロペラを駆動するというもの。さらに、高速飛行時に揚力を発生させるため、機体の左右にはプロペラの支持を兼ねる小さな主翼を設置した。
X3は、まず第1段階の目標である185kt(343km.h)を2010年11月29日に達成、続いて220kt(407km/h)を目指す飛行試験に駒を進めて、2011年5月12日に232kt(423km/h)を達成した。さらに、2013年6月7日には高度10,000ft(3,048m)で水平飛行しながら255kt(472km/h)の速度記録を達成した。通常のヘリコプターでは、こんなスピードは出ない。
前述した機体構成でおわかりの通り、X3は推進用のプロペラを独立して装備している。離着陸時には普通にヘリコプターとして飛行するが、前進速度を上げると推進力は左右のプロペラによって得るようになる。
主翼が発生する揚力は速度が上がるにつれて増加するから、その分、メインローターは回転数を落とすことができ、それによってローター失速の問題を回避している。
X3の飛行試験はすでに終了しているが、同機の技術を使った実用機を開発する動きは、まだないようだ。
シコルスキーX2
一方、シコルスキー社が開発した技術実証機が「X2」で、2008年8月27日に初飛行を実施した。こちらは二重反転ローターを使っているところと、推進用のプロペラを1基として尾部に取り付けているところが異なる。開発時に掲げた目標最高速度は250kt(463km/h)だから、ユーロコプターX3が達成した速度と同レベルだ。
X2の尾部に取り付けられたプロペラは円筒形のダクトに納まった構造で、左右の旋回と、ブレードのピッチ変更が可能になっている。エンジンはLHTEC(Light Helicopter Turbine Engine Co.)製のCTS800だ。
X2は、2010年5月に181kt(335km/h)、同年7月に225kt(417km/h)、同年9月には緩降下中ながら260kt(482km/h)を達成した。そして、2011年7月に飛行試験を終了した。
その後、同機で得られた技術を活用する実用機「S-97レイダー」の開発が進んでいる。これはアメリカ陸軍向けの次世代ヘリ実証機計画・JMR-TD(Joint Multi-Role Technology Demonstrator)向け。初号機が2015年5月22日に初飛行を実施済みだ。
この種の高速ヘリコプターとしては、シコルスキー社のほうが実用機に近いところにいるわけだ。なお、X2の特徴として、空気抵抗の低減を図ったローター・ヘッド周りの構造がある。
ローター・ブレードの構成や推進用プロペラの構成は違うが、速度が上がると推進力を尾部のプロペラから得るようになり、メインローターは揚力を生み出すだけ、というところはユーロコプターX3と似ている。ただし、X2やS-97には主翼は付いていない。
なお、X2ぐらいの高速になると降着装置の空気抵抗は無視できないようで、ちゃんと引込脚になっている。
ピアセッキ社の複合型ヘリコプター
尾部に推進用プロペラを追加するとともに、揚力を分担するための主翼を追加する、複合型ヘリコプターと呼ばれる分野がある。この分野に力を入れていたのがピアセッキ社で、同社はUH-60ブラックホークを改造してX-49スピードホークという実証機を製作したことがある。
同社の複合型ヘリコプターの特徴は、より本格的な主翼が胴体の両側面に生えていることと、既存のヘリコプターを複合型ヘリコプターに改造するところまで視野に入れていること。
手持ちのヘリが、より足の速い次世代機に変身すればうまみがありそうだが、推進用プロペラとそれの駆動機構、それと主翼を追加すれば、当然ながら機体が重くなる。また、構造が複雑になるから、それは必然的に整備の負担を増やす可能性につながる。
そういったデメリットと高速化というメリットと、どちらをとるかという問題になる。
参考 : X-49(Wikipedia)
実は、同社はスピードホークの経験を生かした複合型ヘリコプターをJMR-TD計画に提案したのだが、選に漏れてしまった。そこで、採用が決まったのが前述のS-97レイダーとベル・ヘリコプター社のV-280バローなのだが、バローの話は次回に。
なお、今回紹介した3機種はいずれも、YouTubeなどの動画投稿サイトを検索すると、飛行している模様を撮影した動画がいろいろアップされているのがわかる。見慣れたヘリコプターとはだいぶ異なる光景で、なかなか面白い。