前回は、ヘリコプターの安定飛行と操縦を可能にするためのキモとなる機能、つまりローター・ブレードの動作と機能について解説した。回転するローター全体での迎角の変化(コレクティブ・ピッチ)と、1回転する中での周期的な迎角の変化(サイクリック・ピッチ)の両方が必要という、実に複雑なメカである。

ローター・ヘッドという過酷なメカニズム

その迎角の変化を受け持つ仕組みが作り込まれているのは、回転するローター・ブレードが取り付く軸の部分である。この、ローター・ブレードを取り付けて迎角を変化させるメカニズムを組み込んだ部分をローター・ヘッドというが、ここがヘリコプターの中で、最も過酷な場所かもしれない。

ローター・ヘッドにブレードを取り付けて迎角を変化させているわけだが、その取付部には、ローター・ブレードが回転する際に発生する遠心力がかかる。それだけでなく、ローター・ブレードの回転によって機体を浮揚させているわけだから、機体の重量がまるごとかかってくる。

海上自衛隊の哨戒ヘリコプター・SH-60Kのローター・ヘッド部。いろいろなメカニズムや配線・配管が取り付いていて、いかにも複雑そうである

上の写真を見ると、ローター・ブレードが取り付いた部分に向けて、下からロッドが伸びてきている様子がわかる。これがブレードの迎角を変えるためのメカで、ローターが回転する際に、このロッドを上げ下げさせている。そのための指令は、サイクリック・ピッチ・スティックやコレクティブ・ピッチ・レバーから来る。

シングルローターのヘリコプターでも面倒くさそうだが、これがカモフ設計局の十八番である二重反転ローターだと上下2段積みで登場するので、ますます複雑怪奇なメカが出来あがる。下の写真を見ると、迎角を変えるためのロッドは上下のローターの中間にあるスワッシュプレートに取り付いて、そこから上下に伸びているようだ。

ロシア海軍の艦載ヘリ、カモフKa-27ヘリックスのローター・ヘッド。上下二段積みのローターがそれぞれ逆方向に回転して、それぞれについて迎角を変化させるメカを組み込んである

話が前後するが、スワッシュプレートはローター・ヘッドに組み込まれた回転する部材である。そして、スワッシュプレートは操縦席のコレクティブ・ピッチ・レバーやサイクリック・ピッチ・スティックとつながっており、上下に動かしたり、傾けたりできるようになっている。

スワッシュプレートを上下に移動させると、全体的に迎角が変化するので、これはコレクティブ・ピッチの操作になる。一方、スワッシュプレートを傾けると、斜板エンジンみたいな動きになるので、向きによって迎角が変わり、サイクリック・ピッチの操作になる。

その迎角の変化だけでなく、ローター・ブレードは上下方向の動き(フラッピング)や、回転面方向の動き(ドラッギング)も発生する。だから、ローター・ヘッドにブレードを取り付ける部分は、そうした動きに対応できる構造になっている。しかも、整備や交換のためにローター・ブレードを外すことがあるので、脱着可能な構造になっていないと困る。

ただし、フラッピングを許容するのは関節型と呼ばれるタイプだけで、半関節型や無関節型ではフラッピングは許容しない。その代わり、最初からブレードを少し上向きの角度で取り付けてある。また、ブレードがしなったりねじれたりできるように設計してあり、それによって間接の代わりとしている。

ちなみに、陸上で運用するヘリコプターには関係のない話だが、上で写真を示したSH-60KやKa-27みたいな艦載ヘリコプターは、格納庫に収容する際に大きなローター・ブレードを広げたままだと納まらないので、ローター・ブレードを折り畳む仕組みが付いている。

付根の部分にヒンジがあって、ロックを外すと、そのヒンジを使ってブレードを折り畳める仕組みだ。当然、そのヒンジとロック機構もローター・ヘッドの一部だから、艦載ヘリのローター・ヘッドは陸上で運用する機体よりもさらに複雑なことになる。

変わっているのはアメリカ海兵隊の輸送ヘリ・UH-1Yベノムと、攻撃ヘリ・AH-1Zヴァイパー。この2機種はエンジン・駆動系・ローターまわりを共用しているが、付根ではなくローター・ブレードの途中に折り畳みのためのヒンジが付いているので、かなり目立つ。

ローター・ブレードを折り畳んだ状態のAH-1Z(手前)とUH-1Y(奥)。4枚のブレードすべてに折り畳み機構が付いているが、横を向いたブレードだけを畳むところが面白い Photo : US Navy

エンジンとトランスミッション

初期のヘリコプターはガソリン・エンジンを使っていたが、今は小型・軽量・高出力のターボシャフト・エンジンがほとんどだ。サフラン・ヘリコプター・エンジンズ社製RTM322エンジンのブローシャを見つけたので、以下にリンクを張っておく。内部構造が分かる図まで載っているのは親切だ。

参考 : RTM322 02/8エンジンのブローシャ(PDF)

ターボシャフト・エンジンの場合、出力軸の回転数はローターの所要回転数と比べるとべらぼうに高いので、減速ギアボックスが必要になる。それを組み込んだ、ヘリコプターの中核ともいえるメカ。それがトランスミッションだ。

エンジンが1つ、ローターが1つなら話は簡単だが、実際には複数のエンジンで1つのローターを回している機体も多い(詳しい話は次回に)。その場合、トランスミッションの入力軸はエンジンの数と同じだけ必要になる。ギアの部分では、複数の入力軸を歯車でつないで1つの出力軸にまとめるとともに、回転数を下げる仕組みが必要になる。

また、大抵のヘリコプターはメイン・ローターの反トルクを相殺するために複数のローターを持っているから、実は出力軸も複数必要になる。テイル・ローターを持つ機体であれば、頭上のメイン・ローターを回す出力軸と、後部のテイル・ローターを回す出力軸が、トランスミッションから生えている。

タンデムローター機も同じで、2つの出力軸が生えていて、それぞれ前後のローターを回す。2重反転ローター機の場合、頭上に伸びる出力軸が内外2重になっていて、外側軸が下段のローターを、内側軸が上段のローターを回す。

その出力軸が取り付く先は、前述した「機体の重量がすべてかかってくるローター・ヘッド」だから、ローター・ヘッドとギアボックスを単純につなぐわけにはいかない。そんな設計にしたら、機体の重量がストレートに、ギアボックスとその内部の歯車にかかってしまう。

そこで、ローター・ヘッドにかかる荷重を受けて機体構造材とつなぐ部材(リフト・ストラット)を設ける。それが荷重伝達を受け持つわけだ。その下にギアボックスを配置して、ギアボックスの出力軸とローター・ヘッドをつなぐ。

そのトランスミッションとエンジンは機体の上部にまとめて取り付くのが一般的なので、ヘリコプターに乗って飛んでいる間はずっと、頭上からエンジンの音が響いてくることになる。意外とやかましいものだ。

なお、トランスミッションは機械の塊だから当然のように、円滑に動作するために潤滑油を必要とする。しかし最近、特に軍用の機体において、被弾損傷時の生存性・抗堪性を重視する観点から「トランスミッションの潤滑油が抜けてしまっても、30分間は飛行を継続できること」なんていう条件がつくことがある。