このところ、機体内部の細かい話が多かったので、話の流れを変えてみよう。ここまでずっと、主翼が発生する揚力で飛んでいる、いわゆる固定翼機の話を続けてきたが、今回からしばらく、ヘリコプター(と、それに似た外見の機体)の話を。
ヘリコプターはなぜホバリングできるか
「台湾の本では、ヘリコプターのことを『直昇機』と書いている」という話を聞いたことがある。特徴をうまくとらえた表現だと思う。コンピュータ用語でも、台湾版のWindowsを見ると「うまい訳だなあ」と思わされるものが多いが、それはそれとして。
ヘリコプターはご存じの通り、垂直離着陸ができる。だから滑走路が要らず、ヘリポートや護衛艦のヘリ発着甲板のような、さほど広くない場所から運用できる。では、どうしてそういう芸当ができるのか。
固定翼機は、主翼が気流の中を通る際に発生する上面と下面の圧力差によって揚力を生み出している。上面のほうが圧力が低いので、揚力を発生する。揚力を発生させるには主翼の上下に気流がないといけないので、速度ゼロでは揚力もゼロ。
厳密に言うと、ある一定の速度を下回ると、発生する揚力が機体の重量を下回ってしまい、機体を支えられなくなる。それが、いわゆる失速である。その限界がいかほどになるかは、主翼の設計によって違ってくる。
では、ヘリコプターはどうか。機体を前進させて主翼に気流を与える代わりに、ローター・ブレード(これが羽根)をエンジンの力で回転させることで、ローター・ブレードが揚力を発生する。それによって機体を支えている。
だから、機体が前進していなくても浮揚できることになり、垂直離着陸やホバリング(空中停止)という挙動を実現できる。
したがって、ヘリコプターの大型化や重量増加を実現するには、ローターが発揮できる揚力を増やす必要がある。それには、ローター・ブレードの空力設計を改善するだけでなく、小型で高出力のエンジンが必要になる。
ヘリコプターが十分な実用性を備えるようになったのはターボシャフト・エンジンの出現以降だが、これはレシプロ・エンジンだと「小型で高出力」という条件を満たしきれなかったからだ。
反トルクという問題
ところがである。
機体を支えたり動かしたりするために、頭上で強力なエンジンがうなって大きなローターを回しているということは、それだけ強力な回転力が発生しているということである。するとその結果として、反トルクという問題がついて回る。
機体を真上から見て、ローターが右回りで回転しているとする。すると、反トルクによって、胴体部分が左回りで回転しようとする。それを放置しておいたのでは、まともに飛ぶことはできない。それに、乗員が目を回してしまう。
だから、反トルクを打ち消す仕組みが必要になるのだが、そこでいくつかの派閥ができた。面白いことに、ヘリコプターのメーカーの多くは、それぞれ形態に対するこだわりを持っている。
テイルローター
これが最もポピュラー。胴体から後ろにテイルブームを伸ばして、その先端に、縦方向の回転面を持つローターを追加する。これをテイルローターといい、回転面が縦方向だから横方向の推力を発揮する。メインローターによって発生する反トルクを打ち消す方向に、テイルローターで推力を発揮させる仕組み。
タンデムローター
ボーイング社(のヘリ部門の前身の1つである、ピアセッキ社)が得意とした方法で、互いに逆方向に回転するローターを前後に設置する。前後のローターの回転面は重なっているが、ブレードは前部ローターのものと後部ローターのものが交互に通過するので、衝突はしない。
バリエーションとして、胴体の左右にブームを延ばして、その先端に、それぞれ逆方向に回転するローターを取り付けたものもあった。その一例が、フォッケ・アハゲリスFa223ドラッヘ。
マルチローター
普通、3基以上のローターがあるとマルチローターという。俗にドローンと呼ばれるマルチコプターは、4基または6基のローターを備えている。向かい合った位置にあるローター同士で回転方向を逆にすれば、反トルクを打ち消すことができる。
2重反転ローター
タンデムローターは大型機にはいいが、小型化しようとすると場所をとる。その点、ロシアのカモフ設計局が得意とする2重反転ローターでは、互いに逆方向に回転するローターが2段積みになっているので、全長は短くできる。ただし2段積みだから高さは増える。
交差反転ローター
カマン社の専売特許。胴体上部に斜めに2基のローター・ヘッドを突出させて、正面から見て斜めの回転面を持つローターを回す。他の方式と違い、このタイプのヘリコプターに真横から接近するとひき肉にされるので注意が必要。下の写真でも、機体から離れる際には前方に向けて歩いている。
今回は形態の話だけで終わってしまったが、操縦やメカニズムの話は次回から。