GEエアロスペースはフランスのサフラン・エアクラフト・エンジンズ(旧SNECMA)と組んで、CFMインターナショナルという合弁会社を設立した。CFM56などのエンジンが著名だが、2021年にCFM RISE(Revolutionary Innovation for Sustainable Engines)計画を立ち上げて、新技術の開発を進めている。今回は、この新技術を取り上げる。→連載「航空機の技術とメカニズムの裏側」のこれまでの回はこちらを参照

Open Fanとは

そのCFM RISE計画の下で開発を進めている案件の一つが、Open Fanというエンジン。

普通、ターボファン・エンジンというと最前部のファンはカウリングの中に収まっているものだ。第456回で取り上げたロールス・ロイスのUltraFanでも、そうしている。ところが、Open Fanではカウリングがなく、大きなファンが露出している。

  • Open Fanのイメージ 引用:GE Aerospace

実はこの形態、Open Fanが初めてではない。第202回第316回でも取り上げたように、1980年代にプロップファンあるいはUDF(Unducted Fan)といった名称で、外部に露出した二重反転プロペラを駆動するエンジンの構想がいろいろ出ていた。

大径のプロペラを高速回転させると羽根の先端速度が音速を超えてしまうので、小径の羽根をたくさん並べる。さらに、反トルクの影響を避けるために二重反転式にする。これがプロップファンにおける基本的な考え方だった。

そのリバイバル(?)がOpen Fanだが、それについてGEエアロスペースが2024年11月19日に、プレスリリースを出した。それによると、ボーイング、米航空宇宙局(NASA : National Aeronautics and Space Administration)、オークリッジ国立研究所と組んで、実機に搭載するためのコンピュータ・シミュレーションを実施するのだという。

複雑なモデリングはスーパーコンピュータの馬力で解決

GEエアロスペースの説明によると、すでにエクサスケール・コンピューティングを使用して、Open Fanエンジンの性能と騒音レベルはモデリングしてきた。しかし、それを主翼に取り付けた状態のモデリングは、最新のスーパーコンピュータがなければ実現不可能だという。

普通のターボファン・エンジンは、一式がカウリングに収まっている。だから、エンジンが推進力を発揮するために後方に噴射する空気と排気ガスは、カウリングの後方から吹き出される。

ところがOpen Fanはファンが露出しているから、エンジン・カウリングの外側にも推進のための空気の流れが発生する。そして、そのエンジンを主翼に取り付ければ、主翼との関わりが発生する。

すると当然ながら、エンジン単体での試験と比べると、話が大規模かつ複雑になる。そうなると、強力なコンピュータがなければ実用的なモデリングができないのだと理解した。

もちろん、いちいち模型を作って実験する方法も考えられるが、縮小模型でどこまで忠実な再現ができるかという問題がある。それに、あれこれ検証したり試行錯誤したりするのに、いちいち模型を作り直して風洞試験にかけていたら、時間も経費もかかってしまう。

しかし、スーパーコンピュータの馬力にモノをいわせて、主翼にOpen Fanエンジンを取り付けた状態での空気の流れをシミュレートできれば、設計の最適化を迅速に進めることができると期待できよう。

エンジン単体のモデリングやシミュレーションは、エンジンそのものの開発を進めるためのプロセス。それが、エンジンを主翼に取り付けた状態のモデリングに駒を進めてきたということは、Open Fanエンジンを実機に搭載して試験を実施するフェーズに近付いてきたことを示しているはずだ。

デジタル・エンジニアリングの利点と課題

モデリングとシミュレーションを駆使することの利点は、試行錯誤のプロセスを迅速に進めるとともに、それによってさまざまな形態を検証することで、リスク要因を早期につぶせると期待できる点にある。なにもOpen Fanに限らず、他の分野も含めて一般的にいえることである。

ただし、忠実なモデリングを行うノウハウ、モデリングを継続的に改善していくノウハウは、当然ながら必要になる。それがあってこそのモデリングやシミュレーションであり、デジタル・エンジニアリングである。

実物とは似ても似つかぬコンピュータ・モデルを作ってみたところで、デジタル・ツインにはならない。それでは腹違いの双子になってしまう(それは双子というのか?)。

なお、今回は「つかみの話題」がOpen Fanだったからエンジンや空力の話をメインにしたが、それだけとは限らない。アンシスが手掛けている製品のように、電磁波分野のモデリングやシミュレーションもある(JA2024において、同社は電磁波分野のシミュレーションについてもパネル展示をしていた)。

さまざまな電子機器が用いられている今の航空機では、電磁的干渉の問題に関する検討・検証も欠かせない。機器同士の干渉でトラブルが出たら一大事であるし、アンテナの適切な設置場所を決める際にも電磁的干渉の問題が関わってくる。そしてもちろん、レーダーや通信のアンテナは所定の性能を発揮してくれなければ困る。

そこで迅速にリスクを洗い出して解決するには、モデリングやシミュレーションをどんどん活用していく必要がある。

著者プロフィール

井上孝司


鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。このほど、本連載「軍事とIT」の単行本第5弾『軍用センサー EO/IRセンサーとソナー (わかりやすい防衛テクノロジー) 』が刊行された。