前置きだけで4回も使ってしまったが、いよいよ本題である計器や計器盤の話に進むことにしよう。今回は、「こんな計器があります」という話を。

飛行機で使われる主な計器

クルマだと極端な話、「速度計」だけあれば用が足りる。エンジン回転計は付いていないクルマもあるし、水温計や油温計はメーターの代わりに警告灯だけで済ませてしまっていることもある(筆者が乗っているGP3型インプレッサ・スポーツもそれだ)。

ところが飛行機の場合、そうは問屋が卸さない。飛行機は3次元の操縦操作を行う乗り物だから、速度だけでなく、姿勢や方位もわからないといけない。それに、高度がわからないと、地面と「意図せざる接触」をすることになる。また、システムがクルマと比べると複雑だから、必然的に、エンジン関連で表示しなければならない情報も増える。

あまり細かな話や動作原理の話に踏み込むのもどうかと思うので、アウトラインに的を絞って、どんな計器があるのかを見ていくことにしよう。

姿勢計

姿勢指示器、人工水平儀、姿勢命令指示計(ADI : Attitude Director Indicator)など、細かい機能の違いに応じていろいろな名称があるが、要は機体の姿勢を表示する計器である。機械式の姿勢計だと、機体の姿勢変化に応じて回転する球体が中に入っていて、水平線を示す横線と色分けがなされている。

機首の上げ下げや左右の傾斜といった姿勢変化が生じると、その球体が動くので、それによって姿勢の変化を知る仕組み。人間の感覚というのは案外とアテにならないもので、感覚で「こんな姿勢だ」と思っているのと、実際の姿勢が食い違うことはままある。そんな時は、自分の感覚は排除して姿勢計を見るようにしないと、事故の元である。

高度計

これも飛行機にとっては大切な計器。高度が上がると気圧が下がるから、それによって針が動く仕組みになっている。業界の定めにより、単位はメートルではなくフィートである(1フィート = 0.3048m)。ただし、気圧は気象条件によって変動するから、高度計規正値(QNH : Altimeter sub-scale setting to obtain elevation when on the ground)の情報を入手して補正する必要がある。

なお、動作原理も表示する内容も違うので、電波高度計の表示装置は、気圧ベースの高度計とは別に設置する。洋上飛行ならどちらでも同じ値になるはずだが、極端な話、ヒマラヤ山脈の上空を飛んでいれば、両者は7000~8000mぐらい食い違うことになる。

速度計

普通、計器盤にある速度計と言えば対気速度計だ。だから、周囲の大気との相対速度を表示する。なお、対地速度はピトー管では測定できないので、対地速度を調べるにはドップラー・レーダーを使う必要がある。対気速度計も必要だから、ドップラー・レーダー用の表示装置は別に用意する。業界の定めにより、単位はキロメートル毎時ではなくノットである。(1kt = 1.852km/h)。

航法のためには対地速度の情報が必要だが、失速を防ぐような場面では対気速度が問題になるので、どちらも必要になる。

方位計

航空機の機首が向いている方位を表示する計器。磁気コンパスを使うと磁方位を、ジャイロ・コンパス(定針儀。DG : Directional Gyro)を使用すると真方位を表示できる。

磁気コンパスは電源がなくても使えるので最後の手段として残されている。ただし、旋回・上昇・加速といった挙動によって誤差を生じることがある点に注意が必要。もっとも、ジャイロ・コンパスも誤差を生じることはある。

近年では、方位だけでなくその他の航法関連情報も併せて表示する、水平姿勢指示計(HSI : Horizontal Situation Indicator)が主流になっている。前述したADIと、このHSIが、操縦操作を行う際にもっとも重要な計器になっている。

機械式計器を主体とする古典的なコックピットを持つ、B-52H爆撃機の計器盤。8発機なので、中央部に4種類のエンジン計器が8個ずつある(!)

いかにも飛行機らしい独特の計器

実はこれだけではない。「飛行機ならでは」の計器がいろいろある。

旋回計

旋回する方向と、その比率を表示するための計器。昔の飛行機だと、円弧状の隙間を左右にボールが動く構造になっていて、直進している時はボールは中央、旋回している時はその度合に応じてボールが左右に動く、という構造になっていた。

その後釜として登場した旋回釣合計は、動作がもっと複雑になる。機体をロール(左右の傾斜)させていない時は、旋回の率と方向を表示する。ロールさせている時は、ロールの率と方向を表示する。なお、前述したADIでは内部に旋回計と同じ機能が組み込まれているので、機体の姿勢と旋回の状況を同時に把握できる。

昇降計

上昇率・下降率を表示するための計器。高度がフィート単位だから、昇降計はフィート/分で表示する。飛行の際には上昇率や下降率が重要になることがあるので、こういう計器がある。

マッハ計

超音速機では、速度計とは別にマッハ計を設ける。音速に対する速度の比率を表示するのだが、音速の値は実は一定ではない。標準大気中では1225km/hだが、大気の状態(比熱比、気体定数、温度)によって変動する。だから速度計はマッハ計の代わりにならない。

Gメーター

機体にかかった加速度を表示する計器。戦闘機の必須アイテムで、急旋回などの機動によって機体にかかったGの値を表示する。パイロットはこの計器を見て、オーバーGにならないように注意する必要がある。対して、そんなに大きなGがかかる飛行を行わない旅客機であれば、Gメーターは要らない。Gメーターが要るような飛び方をしたら一大事だ。

エンジン関連の計器

実は、エンジン関連の計器の内容はエンジンの種類によって違う。ジェット・エンジンの場合、油圧計、回転計、排気温度計(EGT : Exhaust Gas Temperature gauge)といった辺りが重要になる。

燃料計

この話はいずれ書くつもりだが、飛行機は必ずしも燃料を満タンにして飛び立つとは限らないので、燃料をどれだけ積んだか、それがどれだけ残っているか、が重要になる。搭載量を間違えると、エア・カナダ機のガス欠事故みたいなことが起きる。

バグ

飛行機の計器の中には、回転する針の位置に合わせてパイロットが自由に動かすことができる「バグ」を設けているものがある。バグといっても、ソフトウェアのそれではなくて、「指標」というと正しい意味になる。

例えば、針路を272度に保って飛びたいという時に、HSIのバグを動かして272度の位置にセットしておく。あとは、そのバグに針路を示すラインが合致するように注意しながら飛べばよいわけだ。バグと針の位置関係に注意していればいいから、確実性が高まる。