計器へのインプットの話だけで3回も引っ張ってしまったが、その話はそろそろ打ち止めにして、操縦室自体の話に駒を進める。最初は操縦室を設ける場所から。

視界がよくないと困る

自動車でも鉄道車両でも同じだが、何かを操縦する際にはやはり視界がよくないと困る。前に向かって進むのだから前方の視界をよくする必要があるのは当然だが、側方についてもできるだけ広い視界が欲しい。

だから普通、操縦室は機首に設ける。ここなら視界はいちばん広いし、前方から左右にかけて窓を設けることができる。SF人形劇『サンダーバード』に登場した原子力旅客機「ファイヤーフラッシュ」は垂直尾翼の上端に操縦席を設けるという設定だったが、あれでは胴体に邪魔をされて、前下方視界があまりよくなさそうだ。

戦闘機になると、敵機が後ろに食いついてきていないかどうかを確認する、いわゆる「Check Six」のために後方を振り返って確認するから、後方視界もよくないといけない。だから戦闘機の多くは、操縦室を覆う透明なキャノピーが上部に突き出した形状になっている。空気抵抗を減らす観点からすると、突出したキャノピーは邪魔なのだが、視界をよくしておかないと生死に関わる。

F-15Jのコックピットは上部に突出したキャノピーを持っており、いかにも視界が良さそうだ。1970年代以後に登場した戦闘機は、程度の差はあれ「視界重視」である

なお、単発プロペラ機の場合はいささか事情が異なる。機首にはエンジンとプロペラが陣取るので、操縦室はその後ろになる。今は大抵が三車輪式だから問題は少ないが、昔の尾輪式の飛行機だと、これが問題になった。

なぜなら、操縦室の前にエンジンがどっかと腰を据えていて、しかも尾輪式だと地上では機首上げの姿勢をとっている。だからエンジンに邪魔されて真正面が見えない。特に戦闘機は性能向上のために大きなエンジンを積む傾向があるから、これが問題になりやすい。

そして、チャンスヴォートF4UコルセアやミコヤンMiG-3みたいに操縦室の位置が後ろに寄っていると、ますます視界が悪くなる。コルセアの場合、燃料タンクを重心点に近い場所に設けたせいで操縦室が後ろに追いやられてしまったのだが、操縦する立場からすると嫌な設計である。

この手の、前方視界が悪い機体が地上を滑走する時はどうするかというと、機体を左右に蛇行させて前方の状況を見られるようにしたり、主翼の上に誘導員を乗せて合図させたりしていた。

問題のF4Uコルセア。主翼を折り畳んでいるので少し分かりにくいが、操縦席の前方にエンジンが陣取っていて視界が悪そうな様子はわかる

並列とタンデム

1人乗りなら話は簡単だが、大型機になるとパイロットは2名、つまり正副操縦士が乗る。パイロットが1人しかいなくても、航法士や機関士、軍用機だとレーダー操作員や爆撃手などが加わることがある。余談だが、1人乗りなら単座、2人乗りだと複座、それ以上だと多座という。

当然、操縦を担当するパイロットには、最も視界のよい場所が割り当てられる。操縦を担当しない航法士や機関士の席は、パイロット席の後方になる。並列配置なら機体の幅は十分にあるから、配置はそんなに難しくない。

こうして頭数が増えていった場合に、どう配置するか。よくあるのは並列配置で、パイロット2名なら機長席が左、副操縦士席が右である。ただしヘリコプターの場合、国によっては機長席が右に来る場合がある。

戦闘機のように胴体の幅を抑えたい機体では(そうしないと空気抵抗が増える)、縦列配置になる。これを英語だとタンデム配置という。もっとも、並列配置にした、やや小太りな胴体を持つ戦闘機もあって、例えばF-111アードバークがそれ。

また、超音速機でなければ胴体の幅を抑える要求は緩和されるので、A-6イントルーダーみたいに並列配置にした事例もある。もちろん、並列配置の方が乗員同士の意思疎通は容易だ。

大型機でもたまにタンデム配置にする事例があって、その一例がB-47ストラトジェット爆撃機。B-52ストラトフォートレスも、最初の試作機はタンデム配置で、正副操縦士が前後に別れて座っていた。しかし、これでは乗員相互のやりとりや調整が円滑にできないということで、量産型では一般的な並列配置に改められた。

旅客機や輸送機なら、もともと胴体の幅が広いし、乗員同士の意思疎通を図る観点からいっても、タンデム配置にする理由はない。みんな並列配置である。

なお、タンデム配置だと機体の軸線とパイロットの位置は一致するが、並列配置だと一致しない。そのせいで、例えば滑走路の中心に機体を合わせる(アライン)ような場面で、勝手が違うことがあるらしい。

タンデム配置と後席の視界

自転車のタンデム車でも、あるいはバイクにタンデムで乗った場合でも同じだが、後ろに座ると、当然ながら前方視界は制約される。後席が操縦担当でなければさほどの影響はないが、たまに例外が発生する。

その一例が軍用の練習機だ。初めて空を飛ぶ時に使う初等練習機で見ると、海上自衛隊で使っているT-5練習機は並列配置だが、航空自衛隊で使っているT-7はタンデム配置。航空自衛隊の場合、T-7の次に乗るT-4練習機もタンデム配置。

海上自衛隊の場合、戦闘機は使っていない。実用機はみんな並列複座だから、最初からそちらになじんでおくほうがいい。対する航空自衛隊は戦闘機に乗る可能性があるから、事情が違う。

米空軍だと、初等練習機の次はターボプロップ単発のT-6テキサンIIだが、これもタンデム配置。T-6のライバルとなる同種の機体も、みんなタンデム配置だ。

タンデム配置の練習機だと、前席に訓練生、後席に教官が座る。もしも何かまずいことがあれば教官が操縦を引き継がなければならないし、教官席からも前方の状況がよく見えるほうがいい。

ということで、タンデム複座の練習機はおしなべて、前席と後席に明瞭な段差をつけて、後席を高い位置に配置している。だから、後席からでもそれなりに前方が見える。

T-4練習機は典型的なタンデム複座配置。後席の位置を高くしてあるので、後席でも前方視界を確保できている

では、戦闘機はどうか。訓練用の複座型では当然ながらタンデム複座になるが、たまに例外があって、TF-102AデルタダガーやライトニングT.4・同T.5は胴体の幅を広げて並列複座にしていた。たぶん、前後方向のスペースをとる余裕がなくて、仕方なく幅を広げたのではないかと思われる。教官席の視界は良さそうだが、やや不細工である。

F-102Aデルタダガーの複座型・TF-102A。操縦訓練のために教官も一緒に乗せる必要があり、並列複座にした。だから単座型と比べると機首が太っている