客室と貨物室の話に戻り、「食べる話」と「出す話」に行ってみよう。以前に某誌でこの両者をワンセットにして取り上げたことがあったが、その時のお題は新幹線だった。実は、鉄道車両と飛行機のトイレには、案外とメカ的な共通項がある。

まずは食べる話、すなわちギャレーに関するあれこれから。

食事を温める方法

飛行機の供食で特徴的なのは、基本的に地上で調理した完成品を搭載して出すところ。ファーストクラスやビジネスクラスになると事情が違うのかもしれないが、利用したことがないのでよく知らない。

もちろん、搭載してから実際に食事を出すまでには間が空くので、そのままでは冷めてしまう。駅弁は冷めた状態で出すことを前提とするそうだが、ほかに楽しみがない飛行機の中で出す食事が冷めていたら、いくらなんでも怒られるだろう。

だから、ギャレーの主な仕事は、搭載した食事や飲料の保管と、食事を温める作業ということになる。あと、コーヒーは機上でいれているようである。いずれにせよ、機上でコンロを用意して料理するようなことはしない。

と思ったら、機内でごはんを炊いている事例があると知って驚いた。

JAL - 旅コラム(JAL旅プラスなび)「空飛ぶキッチン、通称ギャレー」

機内では安全性を考慮すると、直火を使うわけにはいかない。使えるエネルギー源が電力しかないので、温める手段はオーブンと電子レンジが主体だ。

ただし、トレイに載せられた料理の中には、温めて出したいものもあれば、そうでないものもある。そこで最近の機体だと、温めて出す料理を加熱板に載せて、そこだけ温められるようになっていることがあるという。

スチームオーブンだと、中に入れたものは相手かまわず温めてしまう。しかし、電磁調理器の原理を使えば問題解決。電磁調理器では使える鍋の種類に限りがあるが、その理屈を逆用する。電磁波を受けて発熱する素材を加熱板に使えばよい。

その昔、某エアラインでサンフランシスコからホノルルまで飛んだ時に、温められた缶詰の桃が出てきて閉口した経験がある(ちなみに機材は、全日空から売却された中古のL-1011トライスターだった)。加熱板を使って選別加熱できれば、こんな間の抜けたことは起こらない。

もっとも、主菜が選択式になっている場合、それ以外のものだけトレーに載せた状態で搭載することになる。そして主菜は別途、まとめて加熱しておいて、チョイスに応じてその場でトレイに載せて出す。そうすれば、わざわざ加熱板を使うようなまねをしなくても、主菜だけ温められた状態で出せる。

先日、取材でフォートワースに行った帰りの機内で出た機内食。右下の主菜だけ温めてあり、乗客のチョイスに応じて選んで出す。だからこれだけ温めてある。そのほかは共通なので、最初からトレーに載せた状態で搭載する

なお、ここまで書いたのは民航機の場合。軍用機では事情が違ってくる。旅客機をベースにした大型機、例えば航空自衛隊のAWACS(Airborne Warning And Control System)・E-767なら、旅客機のギャレーに近い設備が整っており、冷凍の弁当を持ち込んで電子レンジで温めて食べることができる。ベースモデルが旅客機だから、それと同じ設備を使える。

しかし、そんな気の利いた設備がない場合は、弁当を持ち込んで、冷めた状態で食べることになる。米空軍ではどういう由来によるのか、地上で用意して機内に持ち込む食事のことを「フライトキッチン」という。機上で料理しているわけではないのだが。

でも、ちゃんとした食事を持ち込めるなら、まだいい。状況に恵まれないと、陸軍や海兵隊が野戦環境で食っているのと同じ戦闘糧食を持ち込む事例もあるとかないとか。

サービスカート

特にLCCにおいて顕著だが、ターンアラウンドタイムの短縮は重要な課題である。つまり、飛行機が地上にいる時は利益を生まないのだから、空港に着いた後の降機と荷下ろし、機内清掃、搭乗と荷物の搭載といった作業を、できるだけ迅速にこなす必要がある。

そして、ギャレーへの食事・飲料の搭載もターンアラウンドタイムの短縮に影響する。それだけでなく、機内サービスを迅速に行うという課題もある。そこで御存じの通り、食事も飲料もカートに載せることになる。カートに所要の食事や飲み物を積んで客室を順番に回りつつ、配る。

そして食べ終わった後に発生するゴミも、カートを使って回収する。これなら効率がいい。人数が少ないファーストクラスやビジネスクラスなら別の方法もあろうが、人数が多いエコノミークラスでは、こうでもしないと効率的にさばけない。

機内サービスにカートを使うのはわかるが、実は積み下ろしの際にもカートを活用できる。バラの状態で積み下ろしを行うよりも、カートに載せておいて一気に積み卸しする方が迅速なのは、容易に理解できる話だ。ギャレーにはカートを収容するスペースがあり、押し込んでからロックする仕組み。

このカート、押して動かせるように車輪が付いているが、飛行機は操縦操作によって前後あるいは左右に傾くから、それでカートが勝手に走りだしたら一大事である。通路は前後に走っているから、特にピッチ方向の操縦操作(機首の上げ下げ)が危ない。

だから、ちゃんとロック機構が付いているのだが、某エアラインの機内でカートが勝手に走りだす場面を目撃したことがある。自分の記憶が正しければ、たまたま近くの席にいた自分が、すぐに手で止めたような気がするのだが。なにしろ20年近く前の話なので、しかとは覚えていない。

ちなみに、列車の車内販売用ワゴンもロック機構が付いている。呼び止めると、まず足元のペダルを踏んでロックしてから応対する様子がわかるはずだ。

なお、サービスカートの写真は、前回に載せた三菱MRJの客室モックアップで撮影したものが参考になると思う。