これまで3回にわたり、輸送機(とりわけ民航機)の主翼や胴体の機体構造について述べてきた。しかし、戦闘機になるとだいぶ違うところがあるので、今回は戦闘機の機体構造についてまとめてみよう。
戦闘機の主翼構造
まずは主翼である。
戦闘機の主翼は民航機のそれと違い、アスペクト比が小さい。つまり翼幅が小さい一方で、翼弦長(翼の前後方向の幅)が大きい。そして前縁部についている後退角は、民航機のそれと比べると角度が大きい。
こういう平面型の違いだけでなく、そこにかかる負荷の違いもある。主翼の下面には兵装や燃料タンクをつるして飛ぶし、そもそも機動の激しさは比べものにならない。今時の戦闘機は7Gから9G、つまり通常時の7倍から9倍の重力加速度がかかるような旋回を許容する。簡単に言えば、筆者の体重が45kgから315kg~405kgに増えるのと同じことになる。
したがって、戦闘機の主翼は民航機のそれよりもはるかに頑丈に造られている。下の写真は製作中のF-35ライトニングIIの主翼だが、縦横にびっしりと桁やリブが入っている様子が分かる。
製作中のF-35の主翼。立てて置かれた状態で、上が機首方向になる。前後方向のリブと翼幅方向の桁がびっしり並んでいる様子がわかる。なお、周囲を囲んでいる灰色の部材は、組み立ての際に部材の位置決めを行う治具のようだ 写真:米国防総省 |
不鮮明な写真だが、こちらは主翼の外板。上の写真にある桁とリブで形作られた骨格を、上下から外板でサンドイッチすると、主翼が完成する。この写真では周囲を治具で囲んで保持しており、その内側の暗い灰色のパネルが外板である 写真:米国防総省 |
たまたま写真があったのでF-35を引き合いに出したが、他の戦闘機も似たようなものである。
F-35のうち米海軍向けのモデル(F-35C)は、空母の艦上で場所をとらないようにするため、主翼を途中から上方に折り畳める構造になっている。すると、折り畳みのために桁を途中で分割しなければならない。さらに、折り畳みのためのヒンジ機構や、展開中に勝手に折り畳まれないようにするためのロック機構も必要になるので、それだけ構造は複雑に、かつ重くなる。
戦闘機の胴体構造
次に、戦闘機の胴体構造を取り上げる。
戦闘機は内部に人や貨物をたくさん積み込むわけではないし、そもそも与圧しなければならないのはコックピットぐらいだ。だから戦闘機の胴体断面は真円形ではなく、角を丸くした四角形だったり、楕円形だったり、あるいはもっと複雑な形状だったりする。どういう形状になるかは、中に収めるモノの種類や配置、あるいはステルス性といった要求によって変わってくる。
その胴体を前後に走る縦通材の数は、輸送機ほど多くなく、代わりに太く丈夫に作る。例えば、上下左右の四隅に太い縦通材(ロンジロン)を通して、円周方向のフレームでつないだり隔壁(バルクヘッド)を入れたりして、それで強度を持たせている。縦通材の数は、もちろん機種によって異なる。
外板は内部にアクセスするためのパネルになっていることもあるので、必ずしも「外板が強度を受け持つ」とはならない。むしろ、縦通材と隔壁が受け持つ部分が多いぐらいだ。だから、強度試験をやってみたら隔壁に亀裂(クラック)が入ってしまい、それに対処するための補強が必要になった、なんていうことも起きる。
しばらく前に、米空軍でF-15戦闘機の前部胴体が飛行中にもげる事故が発生したことがあったが、これは縦通材の強度不足が原因だった。
F-35の胴体を後ろから見たところ。がらんどうの内部空間にはエンジンが収まり、簡単に後方に引き出して交換できるようになっている(そのためのレールが上部に見える)。周囲に、前後方向の縦通材と、円周方向のフレームが通っている様子がお分かり頂けるだろうか 写真:米国防総省 |